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フィクション  作者: 神風紅生姜
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鯱と鷹

モニターは無数の鉄屑が漂う虚空を描いている。


そこに高速での連続反転機動を繰り返しながら殺人の魔光を放つ白い機体が駆ける。


あの男の機体だ。


奴の機体は俺のパヴヂガンよりも素早い。


しなやかに姿勢制御を熟しながら機体の全スラスターのベクトルを完全にコントロールする奴は動きに無駄な加減速が無い。


「…見事だ」


敵でありながら讃える言葉が零れてしまう程に奴の宙間飛行の様は模範を通り越した芸術品。


それに追随しようと俺もペダルを踏み続けビームを回避し反撃を放つ。


だがモニターで奴を捕捉しトリガーを引くまでに死角から死角へ飛び交いこちらの着弾は一切許さない。


奴がデブリの陰から陰へ飛びながら放つ攻撃の一つ一つも鋭い。


「良い意味で面倒な奴に出くわしたかも知れない」


この高機動砲撃戦の口火を切ったのは奴からだった。


俺は心の中でリュークと名乗った男が残した微かな精神波の感触を頼りに、デブリを掻き分けパヴヂガンを進めていた。


すると突如、進行方向から超高速で迫る光が襲ってきたのだ。


避けるのは容易かったが、俺が回避するのを見計らって奴は己の姿を曝し俺の反撃を誘ってきた。


その挑発に乗り俺は最大推力で奴の懐へ突っ込みながらビームを数発放つ。


初弾で仕留められる相手とは思えなかったが、奴は自機へと迫るその閃光達へ向け加速を掛け、それの間を縫う様に回避した後、挨拶と言わんばかりに俺のパヴヂガンの頭部センサーゴーグルを睨む様にモノアイの視線を向けながら脇を擦り抜けて行ったのだった。


それからというものお互い高速機動を繰り返しながら装備する火器から放つ光を虚空へと飲み込ませ続けている。


「これでエンキトでないとはな…」


互いの実力が拮抗しているのか往々に終わりが見えない戦いになっている。


サーベル戦に持ち込もうかとも頭を過ぎるが、その選択肢は互いに今は無い。


それを挑まない理由は、一度武装をサーベルという近接武装に切替てしまうとMSの基本プログラム上その他の距離に対応出来なくなるからだ。


人の形をしたMSは複雑なモーションプログラムを複数コンピューターに記憶させ距離や武装に応じて自動で切替ている。


故に一度サーベル格闘のプログラムが起動すると、いざ中・遠距離の敵にバルカンの照準を合わせようとしてしまえばモードの読み込みと切替のタイムラグという隙が生じてしまう。


またモードの初動は照準が非常にズレ易いという欠点もある。


他にもサーベル格闘は有効な間合いが限られ、近すぎても遠すぎてもならない間合いを保つ点も難しい。


遠すぎても切っ先が敵に届かず、踏み込み過ぎれば敵から打撃の応酬を喰らいセンサーやコンピュータが一時的に硬直して隙を生み、至近距離で敵の砲撃を受ける。


サーベル戦を仕掛ける場合、支援機が居なくては自殺行為に等しい無謀さを兼ねてしまうのだ。


ならば応援を呼べば済む話だが、俺がビィーツ大尉を呼ぶにもまだ速い。


奴は戦力として俺を獲得する事と独立隊の調査以外に何かしらの思惑を秘めている気がしてならない。


それの把握が出来ない状況でMS副隊長という指揮権を持つ兵士を一戦力として投入する訳にはいかない。


だがこのリュークという男を相手に出来るパイロットは恐らく俺とビィーツ大尉以外に居ないとも思うと痛い現実だ。


唯一はっきりしているのは、奴が応援を絶対に呼ばないだろう事。


理由はただ一つ。


これは俺の力量を試す戯だからだ。


一見すると奴の動きは規則性を持った回避行動と鋭い攻撃を一定のテンポで繰り返している様にも見えるが。


それは俺からの切り込みを誘う意図があるからだろう。


俺の反応速度に対応出来る数少ない人間がその程度の実力の筈はない。


いつでも俺を殺れるという自信の顕れなのか、そこまでして俺の本気を観たいのだろうかは解らないが。


舐めた真似だ。


「性格の捻くれたパイロットめ」


俺も他人の事を言えないが“黒い鷹”の異名持つ相手にそれを堂々とするのだから事実は事実。


そしてリュークもまた連邦の“黒い鷹”に匹敵する実力の持ち主。


この高速機動の連続がどれだけ肉体に負担かは互いに解る筈。


俺のパヴヂガンですら並の機体よりも三倍も四倍も推進剤を食う機体だ。


正直辛い…


ただの人間には尚の事だろう。


唯一の幸いは、身体能力もニュータイプ能力も俺より優れる奴だが。


MSの操縦に関しては俺と互角だった事だ。


「血が滾る相手と殺り合えるのは久しぶりだが、負ける気もしなければ勝てる気もしない感覚が煩わしい」


お互いの攻撃が一撃も掠りもしないまま俺のビームガンが最初のカートリッジを使い切ろうとしていた。


予備はまだ二つ有るが、このままでは同様に使い切ってしまう。


放り出してきたスナイパーも使えば弾数で奴を勝るだろうが、その弾数を活かす策が思い付かない。


「仕方ない…」


俺はコンソールパネルへ手を伸ばし機体の武器管制システムをオートからマニュアルに切替た。


そしてエネルギーを使い果たしたビームガンのカートリッジをシールド裏の予備カートリッジへと代え、左腕に装備されたシールドを捨てサーベルに持ち替える。


「本気で行く!」


モニターがリュークの機体を捕捉した次の瞬間、殺意の砲火を放ちながら奴へ向けリミッター解除した最大推力で突っ込む。


目前のリュークもそれに応え、先程見せた様に身に降り懸かる無数の砲火を擦り抜けながら俺の機体へ迫りビームを放つ。


「甘いなっ!」


放たれた閃光を俺はサーベルで切り払い奴のライフルを蹴り飛ばす。


殺意を込めて左腕のサーベルを振り上げると標的たる白い機体はこれから振り下ろされる光剣がコクピットへ至らぬよう左腕で凌ごうと機体の前面を隠した。


それに躊躇う事無く俺はサーベルを振り下ろす…


するとパヴヂガンの全天モニターが眩しく輝いた。


「…!?」


光は一点を中心に稲妻の如く無数に走るプラズマ。


「やっと本気になってくれましたね」


無線からリュークの待ち望んだ声が響く。


そして斬撃は謎のプラズマ光に阻まれ敵を傷付ける事が出来ず押し返されてしまう。


しかし怯まず俺はビームガンを至近距離で相手のコクピットを貫く可く放つ。


だがそれも先程と同様に無数のプラズマ光の輝きに打ち消された。


「…まさか!?」


パヴヂガンを後退させながらバルカンを放った。


そしてまたしてもプラズマが光り弾が打ち消されたが、距離を取ったおかげで斬撃が何に阻まれたか理解した。


「ビームシールドだと!?」


それは今だ実験段階だと言われている“光の盾”であった。


「よくご存知で!」


語りながらリュークは弾かれたライフルを取りビームを二発放つ。


「…チッ!」


最初の一撃は何とか回避出来たが、もう一つの回避は際どくパヴヂガンの膨脛を掠め装甲を削った。


ビームシールドの原理はビームサーベル同様にメガ粒子を収束させたものだが。


盾としての機能を得る程強力で大きなビームを形成する為にビームサーベルの数十倍の電力を必要とする。


故に現存するMSのジェネレータでは発電量が足りず、まだまだMSが装備するには難しいとされている。


だが目の前の白い機体は現実にそれを装備し俺の攻撃を防いだ。


「これはまだ未完成品で小さなシールドを短時間形成するのが限界ですが、着弾の瞬間だけ発生させる分には充分に盾の機能を果たせます」


まさかビームシールドを実装する機体が既に存在していたとは思いも寄らなかった。


だがそれに気付く余地はあった。


奴が機体コクピットの前部を腕で塞いだ時、前腕部にウェポン・ラッチにしては大き過ぎる十字のスリットが見えていたにも関わらず、俺は気に留めずにいた。


…不覚!


「先程の切り込みは素晴らしかったですが今は動きが鈍いですよ」


思考する間にもリュークの凶弾は俺へ迫り来る。


俺の切り込みが余程気に入ったのか奴は先よりましてトリッキーな機動を繰り返し俺のパヴヂガンを追い回す。


襲い掛かる閃光も更に鋭く的確に機体の駆動部や関節を狙ったものだ。


それらに対応する為に俺も左右のアームレイカーやペダルを複雑に操作してパヴヂガンを姿勢制御と急激な加減速を用いて回避しつつ反撃の砲火を放つ。


リミッターを外したパヴヂガンの加速性能は確実に奴の白い機体を凌駕していたが。


同時にそれは搭乗者への肉体に掛かる負担も増大させる。


そして俺はまだリュークという男が持つ本領の半分も引き出していないと感じる事で己に迫る死へ虚しい抵抗をしている様に思えてしまうのだった。


この男は危険過ぎる。


パヴヂガンの機体ヶ所で脆い部分を狙った攻撃は的確過ぎるが故にサーベルで切り払う事は容易だったが。


俺の攻撃は奴が機動を転じるだけで気安く避けられてしまっている。


奴からすれば俺の切り込み以外の攻撃は高性能の光の盾すら使うに値しないのだという事なのだろう。


「これでは埒が明かない…」


化け物同士の一騎打ち。


だが奴の機体は化け物を化け物以上の何かに至らしめるものを感じる。


ビームシールドがそれとは思わないが、それもまた確実に俺が再び切り込む事を躊躇する理由であった。


「逃げてばかりでは勝機は見えませんよ」


奴は無線を使い俺を挑発するが、今度それに乗れば確実に死ぬと思えた。


だが恐怖と呼べるものは感じない。


ただあの人と共に過ごしたひび割れた大地と、蒼穹の中を美しく飛翔する“黒い鷹”の姿が懐かしく蘇った。


「…遅くなったな」


ヘルメットの中にその声が響いた。


リュークの白い機体の背後から超高速でそれが向かってくる。


いい加減で気まぐれで他人に気安過ぎる豪快な俺の先輩。


最初の“黒い鷹”ディー・ビィーツ大尉様のお出ましだ…










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