表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィクション  作者: 神風紅生姜
35/41

古き友

「なぁ〜にが“スタンバって下さい”だ。今時そんな言葉死語だっつ〜の」


口からはそう出たが指揮官に成長した奴の指示を聞き、俺の心は勇んだ。


想いに突き動かされ直ぐ待機ルームを出て格納庫へ向かう。


「出番だぜぇ〜、別嬪ちゃん」


奴の采配への期待に心踊らせながら俺は愛機“シルフィ”のコクピットを目指す。


一見するとこいつは華奢過ぎる程シャープで洗練されたデザインだが、シルフィは軍の企画したMS開発計画に属さない機体で、試作機でもなければ最新機でもない。


中に使われる部品のほとんどが現場で実際に使われた数々の汎用機の物やジャンクを流用した継ぎ接ぎだらけの下手物である。


職人が見た目のかっこよさだけを求め組み上げた文字通りのガラクタだ。


唯一の利点は超最軽量高速機という危なかっしいじゃじゃ馬チューニングと、ほぼ機体の全てが流用パーツな為に修理に困らないという二点。


俺がこの隊に移るにあたって使える機体が限られ難儀していたところ、他の現場で知り合ったメカニックが個人で所有していた代物を『かわいい娘をよろしく』とばかりに賜った。


独立隊が軍の辺境と知っていてこの別嬪を預けるとは、まさか文字通りのゴミ処理をさせられてるのではと頭を過ぎるが。


素直に感謝の念を抱けば『こいつを親元へ帰すまでは死ねない』と気合いも入る。


シルフィのリニアシートに身を滑らせパイロットスーツ背部のラッチがベルトで固定された事を確認し、機体のメインスイッチを入れ起動させる。


手早く計器の確認をしながら「ただここで待つだけじゃ芸が無い」等という個人的な好奇心とも趣向とも思える戯れを呟いた。


そして思考と呼ぶには短すぎる時間で考え答えを導き出す。


ただ単純にそれは表で遊戯に興じる若い連中を俺の手で強制的に帰還させるというものだ。


答えが出たらば暇な時間は1秒でも惜しい。


考えのままに俺はシルフィを操りカタパルトへ移動させながらブリッジへ通信する。


「ハッチ開けろ。餓鬼共を戻すぞ」


応答より先にハッチが開き始める。


「既にマークが一応の片を付けた。余計な真似はするなよ」


「あいよ御忠告どもども!」


艦長直々の言葉だったが適当な返事で済ませ、重たくチューニングされたシルフィのペダルを勢い良く踏み込んでカタパルトデッキへ飛び出す。


宇宙へ踊り出て直ぐに機体周囲360度を映し出す全天モニターへと視線を廻らせながら、更に機体を旋回し二人を探した。


間もなく左脇へ視線を送った時、艦の左舷部中央辺りに漂う二機を見つけ出す。


俺はそれへ緩やかな速度でシルフィを向かわせた。


まずは手前に見える小僧のパヴヂガンへ接触を試みる。


そして奴の無線にチャンネルを合わせ話し掛けた。


「さて帰るぞぉ〜」


近付くにつれ全天モニターが映し出すパヴヂガンの状態が鮮明になっていく。


俺はパヴヂガンの損壊状況を詳しく見る為、コンソールを操作しカメラの解像度を上げた。


精細に映し出されたパヴヂガンの姿はランドセルにぽっかりと空く黒焦げた穴が印象的だった。


その穴を覗き込むと、弾は機体背部から入り可燃性の高い推進剤や酸素タンクを運よく外れ、フレームにも掠りもせずに幾つかの主要な動力パイプを断ちながら進み、前面の左胸部上方へと見事に貫通していた。


機体が爆散しなかったのはそのおかげだ。


もし弾道が4cmズレていたら今頃ロビンは天国へ旅立つ羽目になっていた事だろう。


意図してその運を自らの腕とし巧に操るマークの狙撃術は正に神業だ。


「これに懲りなかったら2度目はマークに殺されるぞお前」


モニターにパヴヂガンのコクピット内を映像に出すと、両腕をグリップから力無く放り出しうなだれたノーマルスーツの姿がそこにあった。


恐らく弾が直撃した衝撃でベルトの締め付けが強くなり身体に激痛を感じて意識を失ったのだろう。


言葉の様なものは無いが、小僧は小さな呻き声をあげていた。


あれだけの距離から狙撃し標的の装甲を貫通する射速なら相当激しい衝撃だ。


確実に肋骨の2・3本は折れる。


「お嬢ちゃんもさっさと戻りな」


パヴヂガンの腕を自機の肩へ回しながらもう一人の問題児へ呼び掛ける。


彼女は目前で中破した小僧の機体を観て何を思ったのだろう、ただハンドレットはずっと佇んでいた。


「おぉ〜い、聞いてるかぁ〜?」


問い掛けに対する返答は無い。


仕方なく一旦担いだパヴヂガンを放り出しハンドレットに近付き接触回線で再び問い掛けた。


「終わりだっつ〜の!!」


呆然としていたのか俺の大声を聞いた瞬間「…っえ?」という一言が返ってきた。


「もう面倒は御免だぜ。早く艦に戻れ」


「すみません、私…」


「弁解はいらねぇ。お前さんが何を感じたか知らねぇが、ここから先は俺とマークがやるから、お前さんはこのクソ餓鬼を連れて中に入ってろ」


やはりこの娘はマークに何があったのかを感じたらしい。


長くパイロットを続けてきたが、このニュータイプという奴らは厄介な連中だ。


精神的に不安定で唐突に何かとんでもない事を仕出かしたりする。


…ロビンはただの餓鬼だが。


「私も戦います!」


何となくそう言い出すとも思っていたよ。


だが俺はその申し出を「邪魔だ」と冷たく突っぱねる。


確かにこの娘の実力なら使えるかも知れないが。


敵に一番近い所に居たあのマークの様子からして、今回の現場でこの小娘という不安要素を更に抱えながら俺達が立ち回っては荷が重い。


高いニュータイプ能力を持つ者同士は互いの精神や感情を共有しあう“感応”という隙を生む。


そしてそれは周りに居るそうでない者達に混乱を招く。


マークが精神攻撃を許す程に強力なニュータイプが相手なら、この離れた場所でそれを感じたお嬢ちゃんじゃ駄目だ。


皮肉にもこういう時に限っては鈍感なオールドタイプの方が適任なんだよな。


「上官命令だ。パーソン中尉を連れ艦に戻れ、以降は出撃の要請が出るまで待機」


「…了解」


柄にもなく生真面目な口調で指示を出しちまった。


まぁそうでもしなけりゃこのお嬢ちゃんはマークの所へすっ飛んでくかも知れねぇからな。


指示を聞いた嬢ちゃんは素直に従い、ロビンのパヴヂガンをハンドレットに担がせ艦へ戻って行った。


そしてそれを見計らったかの如く、ブリッジは総員へ向け緊急無線チャンネルでアラートを鳴らし「第一戦闘配置!!」というフィリア嬢の声が繰り返し響く。


「判断の早さはぼちぼちって所かな」


俺もまたその指示に従い身を置く可き配置へと機体を向けペダルを一気に踏み込むのであった。


スラスターの急加速から生じたGに耐えながら、近付く眼前の目的地へと視線を巡らせる。


そこには既に幾つかの閃光が走っていた。


「おっ始めたか!」


幾らこの隊でハンドレットよりも速いと謳われるMSシルフィであっても、直ぐにその戦闘域に辿り着ける程には速くない。


また敵の数も把握出来ていない状況で渦中に飛び込みマーク共々伏兵に囲まれたら愚行だ。


「とりあえずは回り込む!」


俺はペダルを小刻みに踏み軽くシルフィを減速させてから飛び交う閃光の左翼へ回り込んだ…










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ