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フィクション  作者: 神風紅生姜
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尻拭い

不思議な体験から目覚め瞼を開いた俺は、視界から入る情報が先程の様に現実かどうか確証が掴めなかった。


しかし無線から繰り返し俺の名を呼ぶフィリアの声と、その背後から聴こえたグレンの緊迫した声。


そして鈍った頭が訴える頭痛と、気怠く疲弊した身体が現実だと理解させた。


「…そう泣くなよフィリア。死んじゃいないから早く艦長に繋いでくれ」


俺は無線で彼女へ慰めを述べ、グレンを呼び出す。


取り次いだグレンもまた彼女と同様に気が急いだ声であった。


グレンへ応答すると同時に俺はあそこで感じた風の音を思い出して、それの主を知覚しよう瞼を閉じる。


精神的疲れと風の主を求める己の意識で気が回らずグレンへの応答はただ単に敵と思しき相手と遭遇したとしか伝える事が出来なかった。


そして肝心の風の主であろう彼女の様子も知覚した。


おかしなものだった。


一つ焦りか?


もう一つは…


「…!?」


知覚した側にあったそれは激しい感情に我を忘れたロビンだった。


彼はその身を怒りに委ねキショウ中尉の駆るハンドレットを葬ろうとしていた。


緊迫した彼女等の状況に気付き俺は自機の側に漂うスナイパーライフルを拾い上げ直ぐ姿勢制御し発射する。


放たれた弾丸は真っ直ぐの軌道を描きパヴヂガンのランドセルに直撃。


瞬間、弾丸は破裂し鮮やかな黄色いペイントを散らせた。


俺のスナップショットをモニター越しに目撃したグレンは前置き無く急に艦へ向け放った事で怒りの言葉を吐いた。


また同じくそれを目撃したディー・ビィーツ大尉は俺へ賛辞を述べる。


だが今重要なのは目前で命をやり取りする仲間の事態を終息させる事が先決で、先輩へは片手間に言葉を返すのが限界だった。


先の事もあり先輩へ出撃の依頼をし、今度はフィリアへブリッジ経由でロビンのパヴヂガンに呼び掛ける用意を依頼する。


繋がった無線から聞こえてくるロビンの言葉は粗い。


しかし俺は以前から奴のそういう性格を知ってるので今更何か思いを抱く程に特別なものはなかった。


奴は独善的で自分の考えや行動の総てが正しいと思い込む。


今も奴は自身の信じる正義を語り己の正当性を主張するが、それすらもいつもの事。


そしてチームワークを乱し、仲間を危険に曝すのだ。


今回も同様の事を起こしたと理解するのに時間は掛からない。


相変わらずスコープを覗き込み機体の射撃体勢を保ちながら、奴を宥める策を練る。


出たのは模擬のシナリオ変更という安易な案だったが。


他に良い案を考える時間も惜しく、それをそのままロビンに告げる。


しかし当然の如く奴は納得しなかった。


こっちも忙しいのに餓鬼共は人の足を更に引っ張るのがお得意だ。


後は正論を打つける他になかったが、こういうのは自分でも好かない手と思う。


だがロビンはそれを耳にすると沈黙した。


そりゃ正論に反論する言葉は単なる我が儘でしかないのだから、自身の見苦しさを相手に示す羽目になるので当たり前である。


「気持ちは解るが部隊長でもないお前に部下の“可愛がり”を一任させる程に俺は忙しくない」


自分でも汚い事を口にしてると解る。


「武器に安全装置を掛け艦に戻れ。上官命令だ」


この様な手で俺もグレンから散々やられた経験があるので、奴が沈黙の中で何を思ってるか解るが。


これが年長者のやり口だから仕方ない。


俺は手早くこの状況を解決し、先程の敵も捜索しなければならない。


可能性として戦闘になる事も必然。


さっさとお前達は退場して俺に仕事を片付けさせろ。


「……」


だがロビンは俺の命令に応じない。


「お前のやった事は軍法違反だ。隊の決まりで俺や艦長は正式な会議を省略し兵士を処罰出来る。お前は既に銃殺されても致し方ない不始末をやらかした」

軍という所は不条理だ。


決まってる事を覆し上官に反抗する奴には必然と制裁を加える慣例がある。


暗黙にそれは“可愛がり”という隠語で呼ばれ、それを行う事が許されるのは部隊長か直属の上司。


今回の場合、キショウ中尉が模擬戦の標的とされたロビンに止めを刺さなかった点に関してはMS副隊長のビィーツ大尉か俺が可愛がりの命令を出さない限り、部隊の誰一人彼女へ制裁を加える事が許されない。


ロビンはそれを破り勝手に彼女へ制裁を加えた事で、自身も“可愛がり”の対象になったのだ。


「一応言っておくがペイントは最初の一発だけだ。次は実弾を見舞う事になる」


また軍には軍人を縛る法も設けられてる。


その内に同じ軍に属する者同士が武器を用いて争う事を禁じる条文が幾つもある。


ロビンはそれすらも易々と破った。


その場合は本来、当事者達は軍法会議にかけられ法が罰を執行するが。


独立隊の指揮官は軍法会議を省略出来る特権を持つので即座に罰を行使出来る。


ロビンが被弾したペイント弾はその罰をこれから俺が行使するという警告発射だ。


それが理解出来ない程に奴も馬鹿ではなかろう。


「…あんたはそうやっていつも」


小さく呟くロビンの応答が聞こえた。


「正論で武装して、人の心を全て知った様な説教垂れる!!」


どうにも反感を買ってしまったらしい。


そういう所が如何にも奴らしいが、このまま長引かせるのも面倒だ。


「だったらさっさと撃てよ!!」


捨て台詞を吐きロビンは再びパヴヂガンをハンドレットへ向かわせサーベルの斬撃を放とうとする。


しかし俺が感じた限りキショウ中尉は俺とロビンが話してる間にハンドレットの火器管制を模擬から実戦に切替た。


このまま奴がハンドレットに突っ込めば確実に殺られる。


スコープから覗き見るパヴヂガンの動きがとてもゆっくりに感じられた。


そしてキショウ中尉のハンドレットから放たれる恐ろしく冷たく鋭い殺気も感じる。


…仕方ない。


「強制退場して貰う!」


刹那よりも短い時を俺は何時間と思える程に緩やかに感じている。


その時の中で俺は何者よりも素早くコンソールパネルを操作しスナイパーライフルの射速を最大まで上げ、ハンドレットが放つ殺気がパヴヂガンを捉える寸前に自機のトリガーを引き切った…










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