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フィクション  作者: 神風紅生姜
28/41

察知

「……………………」


前触れも無く響いたノイズにマニュピレーターを操作する左手が止まった。


『…何今の?』


音はノイズしか聴こえなかったが、その向こうに叫び声の様なものもある。


…嫌な感じがした。


振り上げたハンドレットの左腕を下ろし背後へ向く。


ノイズが何処から発せられたか解るはずもないが、何となく十時の方角へハンドレットのカメラを向けズームした。


全天モニターから観る限りデブリが浮遊する何ら変わりない風景であったが。


頭に一つのイメージが走る。


大きな炎が突風を受け激しく揺らめき、もう一息吹きかけるだけで消えてしまうのではという…


身体から嫌な汗が吹き出るのを感じた。


思わず機体をその方角へ向かわせる。


「…? 何故止めを刺さない!?」


パーソン中尉が私に何か話しかける。


けれども私はこの不安感の根源を探る方が重要だった。


「答えろ!!」


背後で何かが叫んでる。


でも今の私には聴こえない。


「…ふざけるな!!」


レーダーに映る後方の機体が急接近するのに気付いた瞬間、シートから投げ出されるかと思う程の激しい衝撃を感じた。


瞬時にパイロットスーツを固定するベルトが私の身体を締め付ける。


「武器は使えなくとも体当たりくらい出来る! 何故止めを刺さない!!」


「………」


「舐めるのも大概にしろ!!」


「……クが、…少佐が」


「何だと?」


私の中で想いが膨らんでゆく。


そしてそれが破裂するかの如く溢れ出す。


ペダルを一気に踏み込む。


「うわっ!?」


スラスター全開で急加速したハンドレットのすぐ背後に居たパヴヂガンはスラスターの推力に吹き飛ばされた。


「マークが!!」


涙を流しながら私は彼の名を叫んでいた。


「こちらブリッジ。キショウ中尉どうしました?」


フィリアさんが私に問いかけたが、私の困惑が解かれる事はなかった。


必死に「マークが! マークが!!」と彼の名を連呼するのが今の私に出来る精一杯の主張であったが、それは彼女の問いかけに答えた訳でなく。


ただ他に口から出る言葉が見付からず、彼の身に何かが起きた事に動揺が収まらない混乱だった。


「…マーク? ジュディゲル少佐がどうしました!?」


他に返す言葉が無いというのにフィリアさんは問いかけ続けた。


私の想いはもうあの遠くで激しい風に吹かれて揺らめく炎が放つ微かな光しか見えてない。


「キショウ中尉。グレンだ。マークの事はこちらで観てる。君は模擬戦という任務を片付けたまえ」


准将が私の高まった感情を鎮めようするが、この感覚は准将には解らない。


あれはとてつもなく危険な存在だ!


「行かせるか!!」


背後から殺気に満ちた何かが迫る。


超高速でハンドレットに迫るそれを咄嗟に避けた。


「ビーム!?」


そのまま振り向くと両腕が使用不能のはずのパヴヂガンが左腕にビームアサルトを構えこちらに迫っていた。


「何故?」


目前のパヴヂガンは再びビームを放った。


姿勢制御し紙一重でビームを回避したが、ハンドレットのセンサーはそのビームから先程と違うものを感じた。


コクピット内にブザーが響きモニターは警告文を表示。


「これって… 実戦出力!?」


ビームは繰り返し放たれ、私はAMBACステップを駆使し回避する。


「当たらねえなら模擬も実弾も関係ねえ! 止めを刺さないなら俺が仕留める!!」


なるほど。


模擬モードを解除すれば擬似的に損傷規制された機体ヶ所はリセットされ、使用不可だった両腕と頭部が復活する。


模擬出力の斬撃を受けた程度では実際に四肢を切り落とす事は出来ないからこういう状況も有り得ると准将は『怒らせるな』と私に言ったのか。


甘かった!


手加減するとどうしても油断が生まれる。


「どうした撃ち返してみろ!!」


出来る訳ないでしょ!


邪魔しないで行かせて!!


「こちらブリッジ! キショウ中尉! パヴヂガンは実戦出力です! 逃げて!!」


そんな事わかってる!


「口を出すなフィリア! 仕出かした不始末は当人が片付けるものだ」


ブリッジからの通信に准将の声が混じっていた。


そうだ…


これは私の不始末だ!


「撃ってこいよ!」


怒声が響く。


彼の怒りは再びオートに切り替えられたビームアサルトから放たれる閃光となって連続発射され続けている。


その閃光はハンドレットを砕かんとする強い邪気だ。


…それだけじゃない。


彼の意思は水溜まり投じた石の様に宇宙に波紋を描き、私へ感情の波が押し寄せる。


これが彼の力。


「撃て!!」


彼の心の叫びが私の身体に纏わり付く。


身体が強張る。


自機の模擬モードを解除すればたった一本指を動かすだけでパヴヂガンを行動不能に出来るのに。


私にはそれが出来ない。


強張った身体の中で、私の心も波立つ。


『彼の処へ』と…


だが私の軍人の部分がそうさせてくれなかった。


生じた迷いは『どうしたら…』と更に身体を硬くする。


視界は狭く暗く閉ざされ、先程から鳴りっぱなしのブザーや無線の呼びかけも聴こえなくなっていく。


ただ己の心臓が全身へ血を送る音だけが知覚出来る総てとなっていく。


怖い…


あの人を失う事も。


ここで私が迷いに囚われ何も出来ずにいる事も。


強張った身体に意思を込め無理矢理に動かそうとしたが、言う事をきかない。


彼の攻撃を条件反射で避けるものの、先程の様にペダルを踏んでスラスターを吹かす事すらままならない。


狭まった僅かな視界の真正面から邪気の閃光が迫る。


「ユリお願い避けて!!」


鈍い感覚が微かにフィリアさんの呼びかけを捉えていた。


もうハンドレットは攻撃を遮る盾がない。


閃光は機体の右胸部へ直撃しコクピットに振動が伝わる。


モニター全面が眩しく輝き目を眩ませた。


「…!? 直撃だろ! 何故墜ちない!!」


特殊装甲に助けられた。


特殊装甲の無いランドセルに当たっていればビームが燃料を発火させ機体が爆散してもおかしくなかった。


私は狭い視界と硬直した身体を必死の思いで動かし、ハンドレットの模擬モードを解除する為コンソールパネルを探った。


しかしそれを許さんばかりに衝撃。


パヴヂガンが右脚部でハンドレットを蹴り飛ばしたのだ。


「そんなでたらめ!!」


何度も何度も衝撃が襲う。


それが砲撃か打撃かすら私は解らない。


しかしそれでも私の想いは遠く離れた場所へ馳せていた。


『お願い… そこから逃げて!!』と…










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