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フィクション  作者: 神風紅生姜
27/41

反応

「あ〜あ…」


つい先程までオープン回線内で賑やかな歓声を上げていたメカマン達はパヴヂガンのアサルトライフルが暴発する瞬間をモニター越しに目撃すると急に静まった。


「お嬢ちゃんやってくれちゃって…」


「また仕事増える」


待機ルームのモニターが示したそれは彼らの業務内容を増やすという結果だった。


だがそれだけが彼等の盛り上がった気持ちを鎮めた訳ではない。


窮地に陥った彼女が咄嗟に相手のライフルを暴発させるという荒業を行い、且つハンドレットが軽やかな動きでそれをやってのけた事で二人の力量があまりに掛け離れ過ぎ勝負にならないと露呈したからだ。


「…お前坊主にいくら賭けた?」


「…100、所詮は犬と天女様ってか」


『月と鼈だろ』


メカマン達の消沈を耳にしディーは心の中で呟いた。


とやかくと言いたいディー本人もロビンに賭けた一人であったが、彼は外の模擬戦を冷静に見ていた。


ディーはドアにもたれながらモニターを観ていたアーノルドへ無線通信する。


「アーニーよう、どうだいこりゃ?」


「…その呼び方やめろ」


「それより嬢ちゃんの」


「異常だな」


「昔のマークの野郎みてぇーな感じだ」


AMBACステップだけを用いて回避運動を行う身体感覚。


至近距離でシールドを使い敵の視界と銃口を塞ぎ暴発させる事を思い付く思考力。


そしてその思い付きを迷い無くやってのける決断力と実行力。


彼女はこの船で一番若く経験が浅いながらもトップパイロットに必要な才能のほとんどを身につけるている。


「まだ未熟でロビンみたいな直情馬鹿相手に付け込まれる危うさは有るが、化けるよ彼女」


「問題は嬢ちゃんを指導する人材だ」


「そいつはマークがやる」


「…ん?」


「おやじさんの頼みだとよ」


「…なるほどな」


「何か思う所が有るのか?」


「スタンドプレイヤーを気取るあいつが自ずとやると思えない、しかし奴は無自覚だが爺の命令は比較的受け入れる」


「言うねぇ〜」


「この面子から消去法で選べば適任だと思う。奴もそういう歳と階級になった」


「それだけじゃないだろ」


「何がだ?」


「あんたは機体を見る男だ、嬢ちゃんに足りないもんをあいつは持ってるって感じるんだろ?」


「まぁな。機体の使い方が粗い所は似ているが、経験の違いとスタイルの違いを見ればお互い学べる所が有る」


「堅いねぇ〜」


彼の気質をからかう言葉の後、アーノルドは深く空気を吸って重たい溜息を吐く。


何拍か沈黙の後、無線に溜息以上に重たい声が響いた。


「…気安く話し掛けるのは構わないが、俺はお前を許した覚えは無いぞ」


ディーはそれを真面目顔で聴きはしたが、再びふざけた調子で「それでも俺の話相手を付き合うのは古い馴染みだからだろ?」と言葉を投げかける。


アーノルドの返事は「フンッ!」と鼻を鳴らすものだった。


「過ぎた事だろ。…! 小僧が動いたぜ」


二人は視線をモニターに戻す。


投影されるそれはデブリ群へ姿を潜めながらハンドレットの背後へ回り込もうとするパヴヂガン。


「あの馬鹿…」


「困った時に教科書通りの動きをするのは悪い癖だ」


「気付かない訳ないだろ」


背後へ回り込んだパヴヂガンが両腕に装備したサーベルで切りかかる。


そしてそれを当然の如く敵に背を向けたままサーベル1本で受け止めるハンドレット。


「はい、終わりぃ〜」


ハンドレットの後ろ蹴りがパヴヂガンの腰部へ直撃。


それによりパヴヂガンが詰めた距離は再び離れ体勢も崩れた。


パヴヂガンの姿勢制御よりも早くハンドレットは旋回し崩れた体勢を直す相手を静観している。


時間にすればコンマ3秒もない一瞬であるが、その一瞬が戦場では生死を分ける。


相手が姿勢制御している間にハンドレットはビームを撃ち込むなり切り込むなりで決着がついたにも関わらず、あえてそれを見逃しパヴヂガンの反撃を待ったのだ。


「最初の体当たりの時といい、これが実戦なら坊主はもう既に3回は死んでる」


「あら! やっぱり気付いてた!?」


「何年お前とマークの世話してきたと思ってる。あれは完全に手加減だったよ」


「それはそれは、俺達の華麗な舞を嫌と言う程観て目が肥え、さぞかしグルメになったので?」


「…言ってろ」


「ニシシッ」と笑うディーと、それをニヒルに静観するアーノルド。


周りのメカマンはハンドレットの斬撃を受け右腕使用不能になったパヴヂガンの姿をモニターから観て模擬戦の終わりを察し、一方は静かに賭けに勝利した事を歓喜し。


一方は負けた悔しさ紛れに次の仕事支度を始めたり、隠し持っていたトランプを楽しんでいた。


またオープン回線内はハンドレットの勝利を預言したハンナを讃える言葉をかける者、そしてそれへ自慢げに返答をする彼女の声が響いている。


そしてモニターは遂に残され腕と頭部も使用不能に追い込まれたパヴヂガンを映す。


「決まったな」


ハンドレットはサーベルを振り上げた。


もう瞬き程の時間で決着がつく。


…はずだった。


「……………………」


皆のヘルメットの中にノイズばかりの無線が突如全回線で響いた。


「…何だこりゃ?」


「どっかのデブリが電波出してんのか?」


微かに何か聴こえた気もしなくはないが、この宙域はデブリがそこかしこに散乱し、それは熱や電波を発する物も多い。


船がデブリ群の近くを通るとよく起こる現状だ。


しかしモニターに映るハンドレットはそのノイズから何かを感じ取ったのか動きが止まったままだった。


ディーは疑問を抱く。


「…何故仕留めない」…










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