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フィクション  作者: 神風紅生姜
21/41

呼出し

「マーク、ちょっと仕事頼めるか?」


更衣室内に漂うヘルメットの無線機から流れたグレンの声が、ささやかな記憶の旅をする俺を呼び戻す。


「聞いてるかマーク?」


俺は身体を預けていた天井を蹴り床に降り立つ。


ヘルメットを手に取りスイッチを操作、応答する。


「聞こえてます。どうしました?」


「偵察カメラが模擬戦宙域のギリギリ外側にモビルスーツらしき機影を確認してな。こっちのカメラでは詳細が解らんので出撃してくれ」


「なら外の二人の勝負を切り上げて仕事させれば済む話だろ」


「この状況で勝負を預けたらメカマンがストを起こす」とグレンは冗談を口にする。


口調からして切迫した状況でなく余裕がある様だ。


「まさかそんな訳ないだろ」


「ハハ! だが今イイ所だから皆気を削がれたくないだろ、それに無人か有人か解らん、攻撃の恐れもあるのでベテランが出た方が適切さ」


「…わかった。んでコンタクトしたらどうする?」


「いつも通りで構わん」


こちらが接近して相手が攻撃してくる様なら現場の一任で反撃許可を出し撃墜。


それがないなら搭乗者を保護し機体は艦へ牽引。


無人ならばスペースデブリ(資源ゴミ)として艦へ収容か。


「了解。90秒後発進する」


仕事を請け負ってから俺はヘルメットを着用し格納庫へ向かう。


エアロックで気圧調整をしてる時ふと自分の機体はアーノルドが記録作業の為アーム・レイカーをバラしてたのを思い出した。


まぁアーノルドに限ってまだアーム・レイカーが分解されたままとは考えにくいが、一応は確認を取りに待機ルームへ顔を出す事にしよう。


エアロックを出てから直ぐ待機ルームのドアを開ける。


中は相変わらずのお祭り騒ぎ、だが声は皆オープン回線で話しているので無線を切っている俺に声は聞こえない。


一人部屋の隅で腕組みしてるノーマルスーツがアーノルドだろう。


声をかけようと彼へ近付くが少し前に此処を離れた俺が再び戻ってきたのを見た3人のメカマン達が俺の両手を掴み進行を妨害して「こんな時にトイレか?」とか「彼女に手紙か?」と盛り上がった気持ちのままでふざけた質問をしてくる。


「急ぎの仕事だよ。アーノルドと話をさせてくれ」


メカマンは「無線使えばいいのに」と一言漏らし俺の身体へ絡めていた腕を放してヘルメットの無線を操作しアーノルドへ個人通信した。


模擬戦中とはいえ基本的に戦闘配備中は各部所の船員達が皆聞く事の出来るオープン回線で通信するのが原則で個人通信は禁止されている。


だから話したい相手が側にいる時はわざわざ近付いて接触回線を使うのが常だ。


無線を聞いたアーノルドは俺へ近付き互いのヘルメットをぶつけ振動を聴きあう。


「どうした?」


「カメラが遠くに機影を確認したからそれを調べに出る。俺のアーム・レイカーは元通りだよな?」


「当たり前だろ」


「だよな、一応の確認だ。あと一つ頼まれて欲しい」


「なんだ?」


「スナイパーライフルの最初の一発だけペイント弾にしてくれ」


「…めんどくせーなぁ、30秒待ってろ」


最後にそう言ってアーノルドは俺からヘルメットを離して近くに居た一人のメカマンの腕を捕まえそいつを連れ出しながら待機ルームを出る。


俺も彼に次いで待機ルームを出た。


ドアを閉めてから庫内へ振り返り、黒く塗装された俺のMSパヴヂガンを仰ぎ見る。


床を蹴って無重力の格納庫内に自身の体を飛翔させハッチに取り付きハッチ脇の小さいパネルへ素早くパスワードを打ち込みキーロックを解除。


上下にハッチが開き中の球体型コクピットを覗かせる。


直ぐに乗り込んでキーを挿しコンソールパネルのメインスイッチを入れ起動。


同時に機体全体へ動力が行き渡り各所の稼動したカメラから入った映像をCG再現したものが全天モニターへ投影される。


俺は身体をシートへ沈めた。


するとパイロットスーツ背部のラッチにシートベルトの金具が噛み合い身体を固定。


視線を計器へ移し正常の値を表示しているかを確認。


無線でアーノルドに「こっちはOKだ」と準備が済んだ事を伝え返答を待つ。


だがアーノルドの方はまだライフル弾の入れ替えが済んでなかった様で「急かすな」と冷静に言う。


格納庫の奥で行われる武器調整は総て油圧式アームが行う。


メカマンが操作するアームはシリンダー型カートリッジを持ちアーノルドの雑把な誘導でそれをスナイパーライフルの上方から差し込む。


「…終わったぞ」


「悪いな」


俺は機体を庫内奥へ向かわせカートリッジ交換の済んだスナイパーライフルとシールドをハンガーから解放し自機に装備する。


その後MSの無線チャンネルをブリッジに合わせ通信。


「出撃準備出来た」


「わかりました。第3カタパルトから出て下さい」


フィリアの誘導に従って俺は機体を庫内リフトに乗せ艦底部に位置する第3カタパルトへ向かった。


ディープ・ヘルメの構造は連邦製宇宙巡洋艦とはやや異なる。


連邦はアナハイム社との繋がりが長い為、艦のデザインもアナハイム独特の直線的な構成が今も多い。


しかしディープ・ヘルメは任務上、遭遇した者に連邦軍と知られてはならない。


よって外観上は旧ジオン製戦艦の様な曲線を多用し上下左右対称の特異な形状だ。


両舷から前方へ伸びる計4つのカタパルト。


艦橋は対空防御時や高速巡航時になると稼動し艦の中央に集約され左右のカタパルトを遮蔽物に使う。


…まぁそんな事はどうでもいい話だ。


ブリッジから送信されたデータを自機のレーダーに反映すると機影が2つ映る。


模擬戦の二人は艦の上方約4000mでやり合っているらしい。


「俺の姿を見せない為わざわざ第3カタパルトを使えってか」


今盛り上がっていると言っても2人の集中を削がない為、俺は裏方へ徹しろと…


気遣いもほどほどになグレン。


リフトがカタパルトに到着する。


今の俺は艦底部に逆さ吊りされた状態であろう、だが宇宙に上下の概念は通じないし逆さ吊りにされている割には引力で頭に血が昇る感覚も無い。


モニターから入る風景は大地に代わりカタパルトという人工物、頭上は広大な宇宙。


背後には対空砲。


この光景を例えるならば無数の枯木が生える真夜中のサバンナか。


…いや、不毛の大地という表現が正しい。


俺はパヴヂガンの両脚部をカタパルトのフックに引っ掛け射出体勢に入る。


「マーク・ジュディゲル、出る!」


自機のペダルを踏むのに連動してカタパルトが加速。


急激な加速で身体が後ろへ引っ張られる。


過去にカタパルト発進をスキージャンプの要領だと説明した人物がいたが、実際はもっと過酷だ。


スキージャンプなら斜面を下りながら緩やかに加速してゆくが、カタパルトは瞬間加速の為に身体にかかる負荷も瞬時。


しっかりと訓練した者でないと激しい加速Gで射出された瞬間直ぐに意識を失うケースだってある。


まぁ飛び立つ時に限れば要領は同じと言えるが、カタパルト発進の過酷さを簡単に説明出来る単語なんて無いと俺は思う。


カタパルトから機体が離れた後、直ぐにペダルを戻しスラスター光が出ない様に飛行する。


この機体の装甲材は一応ステルス加工されているが、有視界センサーには無意味なのでスラスター光を控える等の操縦技術面でも工夫しなければならない。


モニター正面の宙域を観ると直線や曲線を描く流れ星が何度も現れる。


模擬戦中の二人だ。


それの観戦をしたい気持ちもあったが先に仕事を片付けねばならないので俺はAMBACで姿勢制御しそれに自機の背を向け目的地までスラスターを吹かさず慣性飛行で向う…










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