フィクション
母なる大地に足をつけ天に舞う鳥達を見上げ夢見た人類は、いつしか天空を音よりも速く翔け夜道を優しく照らす月にまでたどり着く。
しかし人間の欲望に満ちた心は月だけに留まらず太陽系から遥か彼方離れた銀河までも求めた。
この物語は人類の未来を賭けた大戦を幾度と経験しても尚、欲望と野心に満ちた人類が作り上げてしまった。
一つの悲しい愛の物語…
『活きる為に必要なモノは何だろう?』
そんな事をよく考える。
地球の生物に必要な酸素や水では無く、あくまで人間が“活きる”為に…
そんな事を考えるのは、僕自身が普通の人間と違うからだろうか?周りにいる大人に聞いても『そんな事を考えなくていい』と言う。
確かにその通りだ。
しかし何故僕はそんな事を考えるのか?
何故大人は『考えなくていい』と言うのだろう?
それを考えても、また眠れない日が続くだけなのに…
四角い入れ物の中で僕は目覚める。
いつもの様に白衣達が入れ物の戸を開けて迎えに来る。
「六号、時間だ」
いつも通りの機械的な声、見た目は同じ人間なのに何故こいつ等は僕達に対して冷淡なんだ。
腹が立つ!
「聞いてるか」
ムカつく声だ。
「ハイ、聞こえます」
こいつ等には無愛想な位がいい、お前等と同じ様に返事をしてやるよ。
そいつ等と一緒にいた白衣の女一人に連れられて長く続くタイル貼りの床を歩く、何時見ても僕の顔が写るほど綺麗に磨かれた床が延々と続く。
清楚員が潔癖なのか管理者が潔癖なのか知らないが、その床は極端に冷たい。
「伍号と七号はセンターに着いてます」
「ハイ」
「今日やる検査は昨日の内に説明されていると思いますが、何処か身体で気になる所はありませんか? 頭が痛いとか、胸が苦しいとか?」
「大丈夫です」
普段は学習と訓練で一日を過ごすが、今日は能力テストを主に行う、その結果を今後の訓練や実験に反映するらしい。
数分歩いてセンターと呼ばれる場所に着く、そこは既に十五〜六人程の白衣が居た。
「ろくちゃん、おはよう」
あまり歳の変わらない女の子が声をかけてきた、その子は僕もよく知る子だ。
「そんなふうに呼ばないで下さい」
「六号って呼ばれるの嫌いでしょ? だから“ろくちゃん”!」
正直『ろくちゃん』と呼ばれるのは嫌いではない、僕はそう呼ぶこの子を好ましく思っているからだろう。
「みんな揃ったな」
眼鏡の白衣が言った。
それを合図に白衣達が眼鏡を見る。
「これから4回目の測定検査を始める。 尚この検査は前回の検査結果と比較する為に行う、千分の一まで正確に測定してくれ」
まるで堅苦しい演説。
それを聞いて白衣達が持ち場へ散る。
女が「行きましょうか」と僕と伍号、七号をセンターの左手側にある扉へ促す。
検査は5項目。
前日に行う身体測定と健康診断。
今日は体力測定、学力検査、適応検査。
体力測定で1時間、その後に休憩兼昼食時間を1時間、学力検査で1時間と適応検査で2時間、計5時間かけて三つの検査を終える。
適応検査以外は何を調べるか解るが、その1項目だけ解らない、ただ高濃度酸素水に満たされたカプセル型の水槽に入るだけの様に思える…