スタート
岩石を模したバルーンが浮遊し視界を遮っている。
しかしその先には黒い背景に光が点在し美しい。
まるで港にある灯台の光を乱反射する海の波間の水面。
「これは中々…」
人工的に作られたダミー岩石を除けばとてつもなく異質で神秘的な感覚。
宇宙には空気が無く靄も無いので遠近感が狂うからだ。
星々の光があまりに鮮明で何万何億光年も離れてると思えない、無限大に広い空間。
その光景は雄大さも感じるが、同時に閉塞感や孤独感も身に染みる様な痛々しさで心を刺激する。
そして私はこの光景と宇宙独特の浮遊感をどうしても求めてしまう。
依存症よね。
私はペダルを踏んでメインスラスターを吹かし、機体を艦の上方へ移動させる。
「遮蔽物の数といい、これはお互い攻めるにも守るにも難があるわ」
散布されたミノフスキー粒子も濃く、強いジャミングでレーダーの有効距離が制限されている。
スクリーンもダミー岩石ばかりが映り込んでいて機影が見えない。
「何処から飛び出してくるかお楽しみって訳よね」
私が艦を襲撃するならジャミングで見えない5000m以上離れた地点から目視で船のエンジンブロックを撃ち抜き沈める。
でもパーソン中尉の機体は中距離高速戦闘用にチューンされたものだからそれは出来ない。
「…となると、!」
右舷後方から閃光が迫る。
だがそれは船を掠る事も無く通り過ぎた。
「スナイパーライフルじゃないのによくやるわね!」
閃光の来た方向へ私は機体を旋回。
「さぁ次はどう来る?」
すると目前に見えるダミー岩石二つが消滅し、その後ろから濃紺のパヴヂガンが真っ直ぐ突進してきた。
反射的に私はアーム・レイカーを操作し、ハンドレットが右腕に装備するライフルのトリガーを引き模擬ビームを3発放つ。
しかしスクリーンに映るパヴヂガンは左へ移動し回避、ダミー岩石に隠れた。
「ほぉ〜、なら!」
私はパヴヂガンが隠れた岩石周辺の岩を3つ狙撃し消滅させ、ハンドレットを艦の右舷側へ移動して岩石と対峙させる。
敵が遮蔽物へ移動しながらこちらを攻撃させない為だ。
この状況になると相手は前へ仕掛けるしか手が無い。
「さてどうするの?」
パーソン中尉が前へ出て来ると思ったが、予想は外れた。
目の前の岩石そのものが私を目掛けて真っ直ぐ吹っ飛んで来たのだ。
「…!?」
岩石を撃ち抜く。
そして消滅した岩石の後ろには何も無い。
レーダーを見ると機影は艦のブリッジへ向かっていた。
「まずい!」
ペダルをいっぱいに踏み込んでパヴヂガンに迫り、左腕に装備されたシールドを叩き付ける。
衝撃でシートとスーツを繋ぐベルトが機能して身体を締め付ける。
だがその衝撃で怯んだのは軽量機のハンドレットだった。
パヴヂガンは宙返りをする様に上方へ跳び上がり、ビームアサルトライフルを乱射しながらハンドレットの背後へ回り込む。
ギリギリで体勢を整えシールドで攻撃を防ぎながらもう一度シールドで体当たり。
二度目は衝撃に怯まぬ様スラスター全開で挑み、2機共に艦から距離を取った。
濃紺の機体はオレンジの機体を押し退け距離を取り、互いは再びライフルを構え対峙する。
「…残り13分30秒」…