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フィクション  作者: 神風紅生姜
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ユリ・キショウ

“小説の登場人物”


ユリ・キショウ:

地球連邦軍所属の軍人で階級は中尉。

朱いミディアムヘアが美しい女性。

戸籍上は22歳だが実際は17歳。

遺伝子操作で生まれた人間。

謎の多い人物。

グレン・ヴォルフ准将いわく『少年時代のマークに似ている』と、フィリア・ニクソン曹長は『心を閉ざした印象』とのこと。

しかしマーク本人は『少女のよう』と一個人を指すには皆の印象が異なる。

“不殺の天才”という異名を持つ。

作品のヒロイン。

『人が活きる為に必要なモノは?』


よくそんな事を考えてしまう。


それを考えるのは私が普通と違うから?


何故?


考えるほど眠れない日が続くだけなのに…


それにしてもこの狭く四角い通路は私を憂鬱にさせる。


いや憂鬱と言うよりむしろ苛立ちの方が正しいか。


まぁ今居る私の環境がそこだから仕方ないけど『軍人は色弱なの?』と思うくらい色彩感覚そのものが欠落してるかの如く基地や艦の内装は白やグレーばかりで無機質。


一様の利に適っているのだろうが人間性の欠如を感じてしまうのでこの白く四角い通路が私は嫌い。


私が唯一安らぐのはコクピットだけ。


そう造られたからかも知れないけど、事実そうなのだ。


ジャミングの為に散布された高濃度のミノフスキー粒子漂う無限の海は施設の無重力訓練に使う水深数十メートルのプールと全く違う。


宇宙には上下も左右も無い。


初めて宇宙に出た時はその心地好さに私の精神は溺れた。


その感覚はまるで地獄の様な天国。


しかし今は戦闘配備命令が出てないのでその天国を体感したくても出来ない。


今回の任務の過酷さも予測出来ないしMSをいじる気も今は無い。


残る選択肢は自室で眠れない身体をベットへ預ける事。


個人的にマーク・ジュディゲル少佐とまたお話がしたいが忙しい彼を引き留める口実にしてはあまりに身勝手なわがままだと思うし。


でも彼と話している時は宇宙に出ている時とはまた違う安らぎを感じる。


初めて会って話たのにそんな気がしないと言うか、何か暖かく懐かしい感じが…


この感覚は一体何だろう?


私は何処かで少佐に会ってるのだろうか?


仮に何処かで会っていたとしても何故こんなにも少佐を特別に思うのか…


わからない。


きっとこれも『活きる為』云々と同様に答えの出ない疑問なのかも知れない。


そんな二つの疑問を確認しつつ四角く長い通路を進み続け、ようやく居住区の自室の前へ辿り着く。


ドアの前に立ち扉に設けられた機械のスリットにIDを滑らせる。


機械的な音が横開きの扉を開けると独房の様な備え付けのデスクとベットのある殺風景な暗い部屋の様子を覗かせた。


「キショウ中尉!」


部屋に入ろうと歩みを進めた身体を呼び止める声がブリッジの方へ続く四角く長い通路の先から聞こえ振り向く。


「パーソン中尉?」


声の主は同じMS隊パイロットの一人、ロビン・パーソン中尉だった。


「寝るのか?」


私の所までやってきたパーソン中尉は開け放たれた私の部屋を見て問う。


「出航したばかりで私達の仕事は大分先になりますし、休める時休まないと」


「それもパイロットの仕事だからな。だが出航が遅れたから十分に身体は休まっているだろう?」


「私不眠症ですから」


「今暇してる事実さえあればそんな事はどうでもいい」


「……?」


「MSのシュミレータで一戦相手しろ」


「今ですか?」


「暇だろ、なら付き合え」


「お断りします」


パーソン中尉は私の即答に対してあからさまに怒りを顔に出す。


「なに!?」


「理由がありません」


「そんなの訓練の一環だ! パイロットならその重要さが解るはずだろ!」


「艦長か隊長の命令ですか?」


「いや俺からだ」


「なら従う義務は無いです」


冷たく言い放ち私は部屋に入ろうとする。


だがパーソン中尉は私の左手首を強い力で握り引き留める。


「…お前! 階級は同じかもしれないが俺は先任なんだぞ!」


私はもう片方の手で手首を握る彼の手の甲を痛みが走る様に掴んで解放させた。


彼は左手で痛む手の甲を摩る。


「貴方に私の行動を決める権利は無い」


私の言葉を聞いて今度は私の胸倉を掴み力で身体を引き寄せられた。


「自分が特別だと思い上がるなよ。新型は俺が乗る!」


その事か。

男のプライドってやつね。

くだらない。


「それを決めるのは貴方でも私でもない」


「だから俺はお前より優れているという事実を証明してやるんだよ!」


しつこい。


こんな口論を続けても意味が無いので私は彼を気絶させようと左手に渾身の力を込めて彼のみぞうちに叩き込もうとする。


しかし。


開けっ放しの私の部屋のインターカム・モニターが勝手に起動し、そこから流れた「話は全部聞いたぞ」という声を耳にして拳を打ち込む寸前で思い留まった。


パーソン中尉も声に気付き掴んでいた私の胸倉を放す。


「二人ともこっちへ」とインターカムに促され部屋に入り二人でモニターを見るとそこにはヘッドセットを付けた准将の姿が映されていた。


「勝手にこいつを君の部屋に招いてすまんな、ヘレンがセンサーチェックの際にお前達の喧嘩を見付けてな、何事も無く済めばと思って見ていたらこれだ」


「お見苦しいものを見せまして申し訳ありません」


「君が謝る事ではないよキショウ中尉、今回はロビンが悪い」


「………」


准将のお叱りに対してパーソン中尉は腹に一物持った表情のままモニターから視線をそらす。


そんな彼の態度を見て准将も呆れた溜息をつく。


「ロビン、私は私なりに考えているのだよ。それに今のお前の機体性能だって十分じゃないか」


「それはジュディゲル少佐やキショウ中尉も同じです! 何故です? 何故戦績の勝る俺ではなくキショウ中尉なのですか!?」


「なら逆に質問するロビン。そこまで新型にこだわる理由はなんだ?」


准将の問い掛けは的確で鋭かった。


確かにパーソン中尉が今乗っているパヴヂガンも次世代汎用機として開発された試作機なので一般機と比べれば高性能と言えるのに。


「性能どうこうの問題じゃない、准将が俺ではなくこの女に新型を預けるって事は准将は俺がこいつより劣っていると思ってるんです! だが俺はそれに納得出来ない!」


本当にくだらない男、女の私に負けるのが嫌と恥ずかし気もなく口にするなんてただの男尊女卑じゃない。


「お前なぁ…」


呆れ果てた准将の呟き。


こんな人達を纏める側になりたくないな。


「わかった、じゃあキショウ中尉と模擬戦をしろ。勝った方を新型に乗せる… これで納得しろ。悪いなキショウ中尉」


准将は最後の言葉を私へ申し訳なさそうに継ぎ足した。


「命令ならば従うまでです」


しかし妥協案中の妥協案って感じ。


まぁそうでもしないとこの輩は納得しないから仕方ないか。


パーソン中尉は『その言葉を待ってました!』と言わんばかりの表情。


「だが一つ条件だ」


場の空気を正す様に准将が切り出す。


「シュミレータは無しだ、実戦形式でやってもらうぞ」


モニターの奥から「よろしいのですか?」と小さく准将を諭すフィリアさんの声が聞こえたが准将には何か考えが有るようでその言葉を気にせずにただまっすぐこちらへ眼光鋭い視線を向け続けている。


「私はかまわないです」


「俺もその方がやり甲斐があります」


「そう来なくちゃな、ではロビンは先に格納庫で出撃命令が出るまで待機してろ」


「了解!」


いきいきと返答を済ませたパーソン中尉はするりと素早く私の部屋を出ようとする。


「まだ言う事があるんじゃないかロビン」


親が子供に注意する様にモニターの准将はパーソン中尉を呼び止めた。


だがパーソン中尉は何の事か解らずポカンと立ち止まっている。


「私がインカムで招き入れたがここはレディの部屋だぞ、その意味がわかるか?」


「……?」


パーソン中尉は相変わらず意味が解らないで立っている。


「キショウ中尉に『失礼しました』だろ馬鹿者!」


ようやく気付いたパーソン中尉は慌てて私に「失礼しました!」と敬礼するがすぐに立ち去ってしまった。


「まったく… すまんなキショウ中尉」


「別に見られて困るものは無いので」


「そういう問題じゃなくけじめだよ。23にもなっているのにマナーとモラルを知らな過ぎるのだよ彼は」


「本当に准将は紳士ですね」


「ただでさえむさ苦しい世界だ、おかげで下品なやつが多くて困るのだよ」


「では何故軍人に?」


私は素朴な質問を准将にした。


しかし准将に「ハッハッハ」と何かしらの含みを持った笑い声でごまかされた。


准将は話を続ける。


「君の事だから負けろとは言わないが、空気は読め」


「それはパーソン中尉次第です」


「確かにその通りだが、去年の君の働きを考えると余裕だろ」


「お世辞は結構です」


「君の場合ロビンとは逆に謙遜し過ぎだな、早々で異名が付くパイロットなど中々居ないもんだよ」


去年グラナダのデモ鎮圧作戦が私にとって初めての正規任務だった。


作戦対象がグラナダ市民を主としたデモ隊であった故に機関が私の始動に相応しいと判断したようね。


現地に付けば相手は作業用MSとデブリから改造された機体ばかりだったが『一応はグラナダ市民なので』と市から撃墜許可も下りず、デモ隊包囲作戦やグラナダ市庁を過剰な厳重警備で反政府主義者の感情を逆なでした誘い出し作戦などしか実施出来なかった。


幸い抵抗勢力はバラバラで大きな徒党を組む事も無く済んだから3機しか現地に配備されなかった自軍MSでも沈静出来たけど。


首謀者特定の為に実行犯の機体を撃墜せずに行動不能にする手間が発生した訳。


まぁ命令だからやったがおかげで私は“不殺の天才”という不名誉な異名が付いた。


「私は嫌味にしか聞こえません」


「そういう意味合いも有るかもだが、大概その嫌味は真似る事の出来ない才能故の嫉妬だよ」


なるほど。


そういう考察は流石年の功といった所か。


「とにかく了解しました、私もこれから格納庫に向かいます」


「……本当によく似ているよ」


「何がですか?」


「別に何でもない。模擬戦の設定が決まったらお前達のMSに送る。長々と失礼した」


「こちらこそ、色気らしい色気も無い部屋で失礼しました」


「私からしたら年頃の娘さんの部屋を覗けて目の保養になったよ。では失礼した」


モニターが消えて部屋は真っ暗になる。


それでは一仕事といきますか…










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