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フィクション  作者: 神風紅生姜
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序章

“はじめに”


この作品は某ロボットアニメの設定を多分に借用しておりますが。

作者である私の理念で故意に原作設定に忠実な作品にしてません。


よって『二次創作』作品に程近いカテゴリーではありますが『1.5次創作』作品である事をあらかじめ御理解の上で楽しんで頂きたい所存です…









日当たりが悪く薄暗い部屋に本のページをめくる音だけがペラペラと響く。


「もう終わりか…」


男は静かに本を閉じる。


時計を見ると時刻はもう昼を過ぎていた。


あの店はもう開店してるので散歩がてら別の本を買いに行こう、

あの埃っぽい店に。


男は黒革のソファーから立ち上がると丸テーブルの上に置いてあったマグカップを手にとり、少しだけ残ったブラックコーヒーを一気に飲み干した。


クローゼットに向かう、中からグレーのジャケットを取り出して羽織ると、その姿は彼の実齢とは不釣り合いに老け込んだ印象になる。


カウンターに置いてある財布や鍵をポケットに入れて玄関へ、履き古した茶色い革靴に足を滑らせると男はワンルームの部屋のドアを開ける。


表に黒いスーツを纏った体格のいい男。


「出かける」


「お車は?」


「近くを散歩するだけだ」


「お供します」


「本を買いに行くだけだ、それにお前は人相が悪い」と苦笑交じりに言うと「では、少し距離をとります」と言い残し黒服は歩いて何処かに姿を消す。


すると強い突風が吹いた。


悪戯好きな暖かい春の風。

男はそれを全身で受ける。


風は男の背中を強く押す。


まるで何かに導く様に…


宇宙の浮島に吹くはずの無い季節風に男は一瞬疑問を抱いたが、たいして気に留めずに男は風の向かった方に歩き始めた。


近くにある街路樹の桜を見ると、いつ花が開いてもおかしくない程に蕾を大きくしている。


通り過ぎて行く人の顔や景色さえも、男はとても穏やかに感じた。


ここまで穏やかな時は、おそらく幼い頃の妹と過ごした日々以来だろうと。


「まるで嘘のようだ」


いくら中立のコロニーと言ってもここまで人々の顔が穏やかだとアノ戦争も大昔のようだ。


そんな事を考えながら町を眺めて歩き続け目的の店に着く。


いつ来ても商売をやっているとは思えない静寂に包まれた店。

おまけに埃っぽい。


店頭に積まれた小汚い本の山は『ご自由にお持ち下さい』と言わんばかりだ。


「おーい」


店の奥に声をかけるとすぐに若い娘が間口まで出てくる。


「あらお客さん! もう読んじゃったの!?」


「あいにく暇を持て余していてな」


男がこの古本屋に通い始めたのは3週間前。


休養はいいが仕事以外で趣味らしいものがなく『とりあえず本を読んで過ごそう』と思い、店へ来る度に五巻ほど彼女のオススメを購入する。


つい先日にも本を購入したばかりなのでそう言われても当然だ。


「オススメの本は有るかね」


「じゃあ…」と彼女は奥に戻り、店番の机脇に置かれていた一冊を持ってきた。


それは本と呼ぶよりもノートか日記帳の方が正しいかもしれない。


「それは何だ?」


「私が書いたんです」と嬉しい様な恥ずかしい様な顔を見せる。


その笑顔が眩しい。


「ホントか? 凄いな」


「私の書いた小説がやっと認められて嬉しくて、勝手に自分で製本したんです」


「よかったじゃないか」


彼女の事が素直に嬉しかった。


「どんな物語なんだ?」


「なんでしょう? 一応戦争をテーマに書いたのですが、ぶっちゃけ純愛になるんですかね」と彼女がはにかむ。


彼女は作家志望の19歳で地道な執筆活動をしながら小遣い稼ぎに知人の古本屋の留守を任されていると語る。


彼女いわく『古本屋の仕事は、古きよき時代の名作と、読者の素直な感想が聞ける最高の場!』だと。


「純愛か…、私には向かないよ」


「後悔はさせませんよ」


軽やかな言葉だったが、どこか自信を秘めた言葉に感じる。


若者のチカラというものかも知れない。


彼女は「是非感想を聞かせて下さい」と男に本を押し付けると店の奥に姿を消した。


「おいおい、店番が奥に引っ込んでいいのか? 表に積んである本が盗まれるぞ?」


「表の本は沢山刷られた本なので価値は無いんです。 だから持っていってくれた方が在庫が減って助かります」


たいした言い分だ。


「わかったよ、読み終えたらまた感想を聞かせに来る」店の奥にも届く様に声をかけると男は店を後にした。


少し歩いてから男は「もう出て来ていいぞ」と何処にかけるでもなく呟く、すると男の後方7~8メートル離れた小路から黒服が「流石は大佐ですね」と自笑気味に現れる。


「バレバレだよ、 もう戦争は終わったのだから少しは肩の力を抜け」


「ならば何故大佐には私の様な監視役が付いているのでしょうか?」


「どこぞかの腹黒い奴らが、また私を利用する為だろう」


蕾を膨らまして春を待つ桜の街路樹を横目に二人は肩を並べて歩いていく。


「ちょっと寄り道するぞ」


「ハイ」


歩き続けていくと徐々に人気が無くなっていき、ほとんどの店のシャッターが閉じた寂れた商店街に入る。


男は黒服を先導する様に先を歩く、そして商店街の一番端の店の前で立ち止まり「ここだ」と黒服に告げた。


店は木製の小さなテラスを設けた喫茶店、ドアは閉じていたが中ではクラシック音楽が大音量で鳴っている様子が伺える。


金色のドアノブを握り、ゆっくり開ける。


すると中で響いている大音量の音楽が二人の耳に襲いかかる。


「相変わらずだな、客が来たぞ」


男はカウンターで音楽にあわせて両手を振り指揮をとる熊髭の大男に声をかけるが、大音量の音楽に掻き消され何を言っているか伝わっていないだろう。


熊髭は察して音量を下げる。


「これはこれは大佐殿、 失礼しました」


「今はただの男だよ、 監視付きだがな」と黒服の方を見て皮肉に笑う。


「ご注文は?」


「ブレンドをブラックで、 お前は?」


「同じものを」


テラス側から射す陽光が当たるテーブルの席に男と黒服が座り、男は手にしていた本をテーブルに置く。


熊髭はコーヒーを淹れながら話かける。


「今日は何を読んでいるのですか?」


「今朝一冊読み終えてしまってな、確かチェーホフの本だったが、タイトルを忘れてしまった」と軽く自笑。

黒服も軽く笑いながら「片っ端に読み漁るからですよ」と。


熊髭はガハガハと大口を開けて笑い「では今日お持ちのソレはまた別の本ですな」と合点した。


しばらくして熊髭がコーヒーカップを乗せた小さな丸いトレイを持ってくる。


「お待たせしました」


大柄で熊髭を生やした男がエプロン姿でやるソレは、いつ見ても可笑しなものだ。

カチャカチャとカップとソーサーを鳴らしてテーブルに置く動作までくると男は思わず笑いそうになる。


「今回のは中々良い豆が入ってますよ」


「どうせまた地球産の密輸品を、ブラックマーケットで仕入れたんだろ」と黒服に指摘されると熊髭は『バレたか』と言わんばかりにガハガハ笑い。


「お前らしいな」


「ですかね、ではごゆるりと」


熊髭はソレだけ言うとトレイを小脇に持ちカウンターに戻る。


「それじゃあ彼女の作品を拝見するか」


男はテーブルに置いていた本を手に取り最初のページを読み始める…









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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い意味読みやすくて、するする読んじゃいました。 個人的に好みのシチュエーションなのも嬉しい限り。 [気になる点] 古古書店の方が、ご自身の作品を差し出された時の描写が、少し凡庸に思えて、…
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