指針
王太子を乗せたフェニックスは一路彼の国を目指していたらしい。
遠くに街並みが見えると、人目に付かぬよう細心の注意を払って森の中に降りてもらう。
「高所恐怖症でなくて良かった。」
「(途中までの高さは高所恐怖症でなくても十分恐ろしかったが)」
〈私も主が高所恐怖症でなくて良かった。〉
〈危うく一番得意な分野で活躍出来なくなるものね~〉
〈うむ〉
大真面目に会話するセラフィムとフェニックスに笑う
「じゃあ王太子様、ここからなら帰れます?」
「うむ。その事だが、何か私に出来ることはないだろうか?助けて貰ったのに、その恩も返せないとあっては、
王太子の名折れだ」
と言われても。
〈せっかくの機会だし、王太子の国の入国許可貰ったらどう?〉
ナイスだセラフィム。それが良い!
「私に入国許可下ろせますか?出来れば王太子様の許可というのを表に出さないで」
「勿論可能だ。…そんな事で良いのか?」
「十分です。」
「そうか。ならば歩いて街まで行こう。
精霊で行けば楽だが目を付けられる。
可能ならば役所まで民に私の姿ごと見えぬように出来れば良いのだが」
〈〈不可視の術なら儂が施そう。全く。儂が最初に契約したのに、儂の出番が少ないとは…〉〉
サタンが拗ねたように言うので笑えた。私が紹介していないサタン達三精霊の声は王太子には聞こえない。
「不可視の術を掛けてくれるみたいです。
王太子様、精霊と契約している人間は珍しいのですか?」
「…そなたはフェニックスやセラフィム以外にも精霊が付いているようだな。
まぁ言及するつもりはない。そなたはあくまでも私の恩人だからな。
精霊と契約している人間は確かに多くはない。私の様に魔力の少ない者以外は大抵の精霊の姿を見ることが出来る。
隠していたいなら精霊に望めば気配の欠片も隠すだろう。」
王太子の言葉に彼等を見れば分かったと頷き隠れてくれた。
精霊が隠れてもサタンの力は発揮され続けるらしく、皆から私達は見えないらしい。
常識やぶりの力だ。全く。
空から見ればほど近かった街も地上からとなると少々遠い。森の中で一夜明かすことに不満はない。安全ではないが、石造りの地下牢より遥かにましだ。王太子に不満はないのだろうか。まぁ不満があった所でいきなりふかふかのベッドが登場したりはしないのだが。
「野営には慣れている。自国内だというだけで安心できるよ。」
王太子は王太子でも戦も出る王太子らしい。後ろでふんぞり返っているようなオウジサマはごめんだからちょっと好感が持てる。
「そういえば、名を聞いていなかった」
今さらだ。
「私も名乗り忘れていた。なんだかんだ忙しい道中だったからな。
私の名はアズライト。この国の王位継承者にあたる」
「カナエ=カンヌキです。一般人です?」
私の回答に目を丸くした王太子は次の瞬間クスクス笑いだした。
「精霊と少なくとも二人以上契約を交わしていて、一般人はなかろうて。
カナエと言うのか。このあたりでは聞かぬ響きの名だな。」
「(本当は五人と契約してますよー)
まぁ御近所から来たわけではありませんからねぇ」
「故郷へ帰る旅路にあの国に囚われたのか?」
「うーん。まぁ不可抗力で。」
「そうか。
カナエ、急ぐ旅路でないなら、我が国の学び舎で学んでみないか?
そなたと話していて思うが、存外この辺りの事を知らぬと見受ける。学ぶ事が嫌いではないなら、為になると思うぞ」
「学校?」
「そうだ。我が国で最も大きく、過去偉大な先人を大勢排出している。
学び舎の名はアイリス ラエビガータ。魔法から剣術まで分野別に生徒の育成に取り組む王立の学び舎だ」
考えてみると良い。と言われ話を切って寝ることになった。
香苗は心で会話する
「(面白そうじゃない?)」
<主に従うまでの事。>
<カナエの社会勉強になるし、私も興味あるわぁ>
<ご主人様に僕らの事をもっと知っていただけるなら、嬉しい事です>
<人が成長するのを見るも一興。カナエの為にもなるしな>
<賛成v面白そうじゃないですか!カナエ様>
満場一致で決定のようである。
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アイリス ラエビガータ(杜若)花言葉は幸運。雄弁