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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅰ章:かくして彼は立ち上がる。
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かくして彼は看板男になる。

話が進まないからかな・・・他のよりアクセスが少ない・・・ダメダメかな(苦笑)

 店番と言っても、基本的に何もする事がない。

ほとんど客なんて来ないからだ。

包丁・刀の研ぎの仕事くらしかない。

刀も包丁もほとんど何年待ちとかになってはいるが、職人達の腕も確かだと注文する側も理解しているせいか、催促の連絡なんて来ない。

そういうのが、如何に無粋かという事を顧客の皆は知っているのだ。

店番=日向ぼっこ

これに近いものがある。

お陰で思考停止状態でぽけーっと拓弥は過していた。

この時間で学校の勉強でもすれば良いのだが、バイトはバイト。

きっちりと分ける事にしている。

その生真面目さも拓弥の良い所であり、要領の悪いところだった。

源さんの言っていた【馬鹿】というのは、こういうのも含まれる。


「邪魔するよ。」


 ふと、店の入り口に白髭をたくわえた好々爺が立っている。


「いらっしゃい、三須摩みすま様。」


 常連客筆頭のお爺さんだ。

街外れの神社の宮司をしている。


「様はいらんよ、様は。まるでワシが偉そうみたいじゃないか。」


「う~ん・・・長く生きて経験があるってだけで、僕からしたら偉いんですが・・・。」


「ほっほっほ。拓坊は相変わらず謙虚じゃのぉ。」


経験値という観点から見たら、どう見たって偉い。

生き抜いてきただけというが、それを含めて偉大だ。

年寄りを大切にしろというのは、そういう部分が大半だと拓弥は思っている。


(謙虚なのか?僕は?)


 危うくまた思考の渦に落ち込みそうになった。


「今日は研ぎですか?」


「おぅおぅ、そうじゃそうじゃ。これなんじゃがね。」


 袱紗に巻かれた中から包丁が出てくる。


「はいはい、今、研ぎのお嬢が出てるんで何時迄に出来るとお約束できないんですが?」


「大丈夫じゃよ、奉納用の料理に使う包丁なんでの、神事の前までに出来れば問題ないわい。」


 慣れた手つきで、研ぎの伝票に名前を書き込んでいく。

神社の宮司だけあって、流石に達筆。

感嘆の域だ。


「ところで、拓坊は刀は叩かんのかの?」


「は?」

 聞き間違えか何かかと思って、三須摩の顔を見たが冗談を言っている顔には見えない。


「僕が?滅相もない!ここに来て数年しか経ってないんですよ?!出来るワケないじゃないですか!」


 無茶振りにも程がある。

本来、何年何十年かけて習得する技能である。

それを数年しか見ていない、しかもバイトの小僧がやるなんておこがましい。


「失敗してもいいんじゃがの。何ならワシが買い取ってもいいが?」


「あ、いや・・・。」


 興味がないワケじゃない。

刀造りの作業工程は理解している。

それに刀を扱う者は、それをきちんと握れなければならない。

そういう名目で、剣道や居合い道の型をみっちりと基礎から叩き込まれた。

剣道の型には基本的に左利きというのは存在しない。

元々左利きだった拓弥は、その型の叩き込みのお陰で右利きになり新スキル【器用貧乏(両利き)】を習得したくらいだ。


「なんて言うか・・・怖いんですよ。」


 嘘をついても仕方ない。

その労力が勿体無い。


「怖い?」


「今日も素材とか運んだんですけれどね。僕の拳程度の大きさの塊幾つかで、人を叩き斬れる刀が出来上がるんですよ。」


 さっきも不思議だと思った。


「誰かを傷つけるモノをそんなちっぽけな塊で創り上げる力なんて、怖いじゃないですか・・・。」


 何かを作る、生み出すなんて事は怖くて出来ない。

何よりそれが人を傷つけるモノなら尚更だ。


「うむ。いや、拓坊。ワシが悪かった。トシを取ると老い先短いせいか、つい欲張ってしまっての。この通りじゃ。」


 三須摩は頭を深々と下げた。


「いや、そのっ、済みません。ご期待に添えなくて。」


 拓弥は慌てた。

別に三須摩に頭を下げさせようなんて気は全くなかった。

ただ単純に・・・。


「拓ちゃんがビビリなだけよ。」


 横合いから思っていた事を声に出されて言われた。

「お嬢・・・。」


 ようやく帰って来たかこの放蕩娘。

そう拓弥は思った。

でも、その声は拓弥にとってはとても安心出来るモノで・・・。

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