こうして彼は温められる。
Ⅱ章最終話です。
何時もの倍以上長くなってしまいまいたが、ラストだからいいよね!(爆死)
どさりと倒れ込んだ。
誰が?何処に?
答えは拓弥が、ベッドにだ。
「あー、あー。」
ベッドの枕に顔を埋め、くぐもった声を上げる。
あれから拓弥は、保健室に行き、痛み止めの注射と炎症を抑える飲み薬を投与された。
勿論、外れた骨もしっかりぐっきりと填めてもらった。
そこまでは良かった。
これで、今日はもう寮に帰れる。
そう思った矢先に問題は、発生した。
「で、何で、会長までここに居るんですかね?」
当面の問題は、そこだったのだが、こうなったのにはワケがある。
拓弥は、"自分の寮の場所"を誰にも聞いてなかったという事に気づいたのだ。
お陰で、恥を忍んで(既にかきまくった後とも言うが)会長に案内してもらった。
のだが、何故だか、部屋の中まで会長が入ってきたのである。
「何でと聞かれたら、心配だったからと答えれば満足?」
満足するワケないだろ!と突っ込みたかったが、そんなのは何処吹く風でスルーされるに決まっている。
「どの道、私もこの寮の最上階に入寮してるから、ついで。かしらね?」
クールな会長の澄ました笑みは、何とも美しく感じる反面、その心情を読みにくくて察しづらい。
察しづらいというより、この学園に入ってから出会った人間が、わかりやすく感情を表に出すタイプばかりだったから、余計になのであろう。
「どうせ、自分の部屋に帰っても部屋には誰もいないのだし。」
「誰もって・・・普通はそうでしょうにって・・・あれ?そう言えば、この部屋、ベット二つあるな。」
真っ先に目の前にあったベットに飛び込んだので、周囲の状況を見るのを忘れていた拓弥は、隣にもベットがある事に気づく。
「相部屋?」
「そうね、相部屋と言えば相部屋なのだけれど、貴方の場合は、誰とも相部屋ではないわ。」
「僕の場合って・・・。」
「だって、そこには貴方のパートナーが寝る予定だもの。」
「はぁ?」
これには拓弥は驚いた。
「意思疎通の効率を良くする為に、原則パートナーは一緒の部屋よ?」
(というコトは・・・。)
拓弥は、この学園で初めて出来たパートナー同士の友人を思い出す。
(何とうらやま・・・げふんげふん。)
「そ、それってパートナー同士が異性でも?」
恐る恐る聞いてみてしまう所が、彼も思春期である。
「勿論。だから、言ったでしょう?恋愛みたいなモノだって。」
確かにそんな事を言われた記憶はあったが、まさかそういう事実も含まれているとは思わなかった。
「そうか・・・んじゃ、このベッド二つくっつけるかな。」
そうすれば、広々としたベッドでゆったりと寝られる。
幸い二人部屋のせいか、拓弥がかつて住んでいたアパートよりは、断然広い。
うきうき気分にちょっぴりテンションが上がる。
「どぅりゃぁーっ。」
ベッドの間にあるスタンドライトと棚を退かして、身体全体を使って二つのベットを押す。
「あ、あなた!腕!」
その光景に思わず、声を上げた瑠璃会長を無視し続け、ベットを二つくっつける事を完了する拓弥。
「腕?あぁ、どうせ、何したって痛いのは目に見えているし、今日は痛くて眠れないんだから、いいでしょ。」
「・・・貴方、本当に痛みを感じてるの?」
「そんな神経さえも切れた冷血人間に見えます?」
呆れた声の瑠璃会長に、ぐったりして答えを返す。
一体、自分は会長の中でどんなイメージに変化しつつあるんだろう?
そう思わずにはいらなれない。
「少なくとも、戦っている時は。」
何と冷静な事だろう。
更に力が抜ける拓弥。
「普通、敵と認識している相手に対して、友情だとか愛情だとか、そういう温かい何かがある方がおかしいでしょう?」
本当にこの瑠璃会長、わからないヤツ。
拓弥はそう思った。
「そうね。冷血ではないわね。彼にさせた"約束"を知れば。」
その約束を聞いて、瑠璃会長は拓弥に少し興味を持って、現状に至ったというコトは拓弥には思いもよらなかった。
戦う前に拓弥が勝ったら、という条件の下、お願いを一つ叶えてもらうというアレである。
『雨音さんの親父さんの借金をチャラにして、彼女を自由の身にしろ。』
拓弥が出したお願いという形の約束は、コレだった。
そう約束させた時の、帳の取り巻きの女性の驚きと暖かな視線は、拓弥の心に強く残った。
そこに一種の憧れのような視線があったのにも。
更にマイトとキャスターの選民思想のような妄想は、始末におえないと同時に強く思う。
「ま、元々、帳先輩のあの見下した態度が気に食わなかっただけなんで・・・約束は、ついでと言うか・・・。」
「そういう事にしておいてあげるわ。」
(む。)
勝ち誇ったような瑠璃会長の笑みに、ちょっぴりカチンと来た拓弥ではあったが、彼女の笑みがあまりにも美しいかったので、思わず口を塞ぐ。
普段クールな分、その笑みはとても良い。
曰く、グッと来る。
「あぁ、あと、今回の決闘の内容とか約束の話とかは・・・って、言わなくても会長ならわかりますよね?」
「当然ね。」
無駄にクールで、無駄に優雅だった。
「じゃ、ま、そういうコトで。」
「えぇ。」
「・・・。」
「・・・。」
二人に訪れる沈黙。
拓弥としては、これで会話は終わりで、あとは明日に備えるだけなのだが・・・。
一向に瑠璃会長が動く気配がない。
「あの?」
「何?」
「いや、ですから・・・。」
全く伝わってない。
その事実に拓弥は、どうしたらいいものか悩む。
流石に『帰れ。』はマズイのは拓弥にでもわかる。
どうやって、物腰丁寧に言って、やんわりとご帰宅願えないものか思案に暮れる。
「あの、僕も明日があるので・・・。」
「私にも明日はあるわよ?」
(そりゃ、誰でも明日はあるさな・・・。)
突っ込む気力が湧かない。
「その、お風呂とかもは入りたいし・・・。」
「あら、背中でも流してあげましょうか?左腕痛いだろうし、動かし難いでしょう?」
(ぐはっ!)
何だ?
何だ?この生き物は?!
拓弥の脳みそ内の演算能力が、ショートしかかった。
「あのですね、年頃の女性の言う台詞ではないかと・・・。」
「年頃だから、言う台詞ともいうわね。」
頭の良い人間特有の頭の悪さ。
そう評しても差し支えないような押し問答だった。
「ついでに、疲れたし、私もここに泊まっていこうかしら。」
「えぇっ?!」
(というか、瑠璃会長は、上の階に住んでいるんだから、疲れたなら上に上がればいいんじゃ・・・。)
この寮には、エレベーターがついている。
拓弥も部屋に来る時に乗ってきた。
そのまますぃーっと上の階へ行けば、事が済むのである。
「言ったでしょう?寮の部屋、一人なのよ、私。」
だから、何だ!
拓弥は大声で叫びたかった。
「あれ?会長、パートナーいましたよね?」
自分の属性をあっさりと天属性と言ってのけた優秀な人間だ。
パートナーがいないハズがない。
先程、パートナーがいる人間は、原則は同室相部屋と言ったばかりではなかっただろうか?
拓弥は首を傾げる。
確かに、瑠璃会長は一言もパートナーがいるとは言ってはいなかったが。
「原則って言ったでしょう?」
まるでデキの悪い弟を嗜める姉のような口ぶりだった。
つまり、何らか原則外の、例外的なモノがあって、瑠璃会長は二人部屋に一人で住んでいるという事になる。
「いやいや、パートナーさんにも悪いし。」
実際はそういう問題でも無いのは、拓弥にもわかりきっているのだが、何とかしてこの暴挙とも言える行動を止めたかった。
「私のパートナーは女性よ?言わなかった?」
「言ってないデス。」
見事に撃墜された。
「なんてね。」
クスクスと笑い声を上げる瑠璃会長に、呆気に取られる拓弥。
「確かに冷血人間ではないわね。どちらかと言うと、紳士的なのね。貴方って。」
彼女の悪戯っぽい笑みは、年相応どころか、少し幼く見えてとても愛らしいのだが・・・。
「会長、意地悪い・・・。」
正直な感想である。
「ごめんなさいね。でも、私も今日一日で、貴方に意地の悪い事を沢山言われたわ。驚かされもしたし。」
つまりは、手の込んだ仕返し。
(頭の良いのとクールな分、無駄にタチが悪い気がするのは、気のせいか?)
気力ゲージの減少とともに左腕が痛い気もしてきた。
「だから、ちょっとね。あぁ、でも此処に泊まっていくのは、本気よ?」
「へ?」
もう何が何だかわからない。
「帰っても一人というのも本当。貴方が、今日は痛くて眠れないというから、一晩付き合ってもと思ってね。」
一晩というフレーズにドキっとしたが、慌ててその思考を振り払う。
「はぁ。」
「嫌?」
「嫌とかいう以前に、会長がそういう事をしていいのかが問題というか、噂になったら困るというか。」
「私との噂は嫌?」
(そんな真剣な眼差しをしなくても・・・ギャップあり過ぎなんだよ、この人。)
「そういう意味じゃなくて・・・あぁ、もうっ!」
相手が瑠璃会長じゃなければ、拓弥はきっとその場で地団駄を踏んでいただろう勢いだった。
「貴方が紳士的というのは、十分わかったわ。そ、それとも、わ、私に何かし、したいの?」
(何故、そこで顔を絡めてドモるのだろう?)
「まぁ、会長は美人だし、スタイルもいいし、男としてはそういう気持ちになるのは、仕方がないけれど。」
会長の意図に全く気づかないマイペースなアホの子は、正直に思っている事を口にした。
「し、仕方がないものなの?!」
「僕としては、そういうのは、しっかりとした愛情と信頼の土台があるべきかと・・・。」
「そ、そうよね!」
「って、何で、こんな会話してんですか?」
拓弥としては、問われた事に普通に答えているだけだったのだが、話が進んでない事に気がついた。
「あ・・・と、とにかく、どうせ寝られないなら、少し話しでもしたら、気が紛れると思ったのよ!」
(何故怒鳴るし、何故怒られたし・・・。)
げんなりする。
確かに気が紛れるような事があるのに越した事はない。
気を紛らわすものなど、拓弥の引越しの荷物には入っていない。
そういうモノは、学校の施設の中にあるもので済まそうと思っていたからだ。
「そうですか、お気遣いありがとうございます。あ、でも、会長も、お風呂とか着替えとかしたいでしょうから・・・。」
拓弥は諦めた。
兎角、口では女性に敵わないのが男という生き物であるのは、承知の上だからだ。
何より、目の前にいる女性は、基本的にはからかわれるのに免疫はないが、頭は相当にキレるのだから。
「そういうのをした後という事で・・・。」
「そ、そうね。それじゃあ、食事もあるだろうし、2時間後で。」
彼女はそう言うとさっさと部屋から出て行った。
その颯爽とした行動に、開いた口が塞がらず数秒間、呆然とする拓弥。
「って、食事とお風呂で2時間?!」
拓弥も入浴は好きだったが、食事を30分で終わらせても、かなりの時間が余る。
「女性って何事にも時間がかかるとは聞いていたけれど・・・。」
そう言えば、芽衣などは2時間近く風呂に入っている時もある。
ふやけてブヨブヨにならないのかとか、何をしているのだろうと不思議に思った程だ。
「芽衣さんか・・・。」
芽衣だけではない、早苗や源の顔が浮かぶ。
「随分、遠い所に来ちゃったな・・・。」
寂しいと言えば、寂しい。
一人で過す日々には慣れてはいたが、今、一人でいるという事実を改めて認識すると、やっぱり寂しい。
だが、友達も出来た。
今夜は、痛みのオマケもついてはいるが一人じゃない。
お陰で、まだまだ拓弥の学園生活一日は終わらないのだから・・・。
以上、第Ⅱ章終わりです。
この後、どうするかは、活動報告等とご参照下さい。