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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
35/36

こうして彼は温められる。

Ⅱ章最終話です。

何時もの倍以上長くなってしまいまいたが、ラストだからいいよね!(爆死)

 どさりと倒れ込んだ。

誰が?何処に?

答えは拓弥が、ベッドにだ。

「あー、あー。」

 ベッドの枕に顔を埋め、くぐもった声を上げる。

あれから拓弥は、保健室に行き、痛み止めの注射と炎症を抑える飲み薬を投与された。

勿論、外れた骨もしっかりぐっきりと填めてもらった。

そこまでは良かった。

これで、今日はもう寮に帰れる。

そう思った矢先に問題は、発生した。

「で、何で、会長までここに居るんですかね?」

 当面の問題は、そこだったのだが、こうなったのにはワケがある。

拓弥は、"自分の寮の場所"を誰にも聞いてなかったという事に気づいたのだ。

お陰で、恥を忍んで(既にかきまくった後とも言うが)会長に案内してもらった。

のだが、何故だか、部屋の中まで会長が入ってきたのである。

「何でと聞かれたら、心配だったからと答えれば満足?」

 満足するワケないだろ!と突っ込みたかったが、そんなのは何処吹く風でスルーされるに決まっている。

「どの道、私もこの寮の最上階に入寮してるから、ついで。かしらね?」

 クールな会長の澄ました笑みは、何とも美しく感じる反面、その心情を読みにくくて察しづらい。

察しづらいというより、この学園に入ってから出会った人間が、わかりやすく感情を表に出すタイプばかりだったから、余計になのであろう。

「どうせ、自分の部屋に帰っても部屋には誰もいないのだし。」

「誰もって・・・普通はそうでしょうにって・・・あれ?そう言えば、この部屋、ベット二つあるな。」

 真っ先に目の前にあったベットに飛び込んだので、周囲の状況を見るのを忘れていた拓弥は、隣にもベットがある事に気づく。

「相部屋?」

「そうね、相部屋と言えば相部屋なのだけれど、貴方の場合は、誰とも相部屋ではないわ。」

「僕の場合って・・・。」

「だって、そこには貴方のパートナーが寝る予定だもの。」

「はぁ?」

 これには拓弥は驚いた。

「意思疎通の効率を良くする為に、原則パートナーは一緒の部屋よ?」

(というコトは・・・。)

 拓弥は、この学園で初めて出来たパートナー同士の友人を思い出す。

(何とうらやま・・・げふんげふん。)

「そ、それってパートナー同士が異性でも?」

 恐る恐る聞いてみてしまう所が、彼も思春期である。

「勿論。だから、言ったでしょう?恋愛みたいなモノだって。」

 確かにそんな事を言われた記憶はあったが、まさかそういう事実も含まれているとは思わなかった。

「そうか・・・んじゃ、このベッド二つくっつけるかな。」

 そうすれば、広々としたベッドでゆったりと寝られる。

幸い二人部屋のせいか、拓弥がかつて住んでいたアパートよりは、断然広い。

うきうき気分にちょっぴりテンションが上がる。

「どぅりゃぁーっ。」

 ベッドの間にあるスタンドライトと棚を退かして、身体全体を使って二つのベットを押す。

「あ、あなた!腕!」

 その光景に思わず、声を上げた瑠璃会長を無視し続け、ベットを二つくっつける事を完了する拓弥。

「腕?あぁ、どうせ、何したって痛いのは目に見えているし、今日は痛くて眠れないんだから、いいでしょ。」

「・・・貴方、本当に痛みを感じてるの?」

「そんな神経さえも切れた冷血人間に見えます?」

 呆れた声の瑠璃会長に、ぐったりして答えを返す。

一体、自分は会長の中でどんなイメージに変化しつつあるんだろう?

そう思わずにはいらなれない。

「少なくとも、戦っている時は。」

 何と冷静な事だろう。

更に力が抜ける拓弥。

「普通、敵と認識している相手に対して、友情だとか愛情だとか、そういう温かい何かがある方がおかしいでしょう?」

 本当にこの瑠璃会長、わからないヤツ。

拓弥はそう思った。

「そうね。冷血ではないわね。彼にさせた"約束"を知れば。」

 その約束を聞いて、瑠璃会長は拓弥に少し興味を持って、現状に至ったというコトは拓弥には思いもよらなかった。

戦う前に拓弥が勝ったら、という条件の下、お願いを一つ叶えてもらうというアレである。

『雨音さんの親父さんの借金をチャラにして、彼女を自由の身にしろ。』

 拓弥が出したお願いという形の約束は、コレだった。

そう約束させた時の、帳の取り巻きの女性の驚きと暖かな視線は、拓弥の心に強く残った。

そこに一種の憧れのような視線があったのにも。

更にマイトとキャスターの選民思想のような妄想は、始末におえないと同時に強く思う。

「ま、元々、帳先輩のあの見下した態度が気に食わなかっただけなんで・・・約束は、ついでと言うか・・・。」

「そういう事にしておいてあげるわ。」

(む。)

 勝ち誇ったような瑠璃会長の笑みに、ちょっぴりカチンと来た拓弥ではあったが、彼女の笑みがあまりにも美しいかったので、思わず口を塞ぐ。

普段クールな分、その笑みはとても良い。

曰く、グッと来る。

「あぁ、あと、今回の決闘の内容とか約束の話とかは・・・って、言わなくても会長ならわかりますよね?」

「当然ね。」

 無駄にクールで、無駄に優雅だった。

「じゃ、ま、そういうコトで。」

「えぇ。」

「・・・。」

「・・・。」

 二人に訪れる沈黙。

拓弥としては、これで会話は終わりで、あとは明日に備えるだけなのだが・・・。

一向に瑠璃会長が動く気配がない。

「あの?」

「何?」

「いや、ですから・・・。」

 全く伝わってない。

その事実に拓弥は、どうしたらいいものか悩む。

流石に『帰れ。』はマズイのは拓弥にでもわかる。

どうやって、物腰丁寧に言って、やんわりとご帰宅願えないものか思案に暮れる。

「あの、僕も明日があるので・・・。」

「私にも明日はあるわよ?」

(そりゃ、誰でも明日はあるさな・・・。)

 突っ込む気力が湧かない。

「その、お風呂とかもは入りたいし・・・。」

「あら、背中でも流してあげましょうか?左腕痛いだろうし、動かし難いでしょう?」

(ぐはっ!)

 何だ?

何だ?この生き物は?!

拓弥の脳みそ内の演算能力が、ショートしかかった。

「あのですね、年頃の女性の言う台詞ではないかと・・・。」

「年頃だから、言う台詞ともいうわね。」

 頭の良い人間特有の頭の悪さ。

そう評しても差し支えないような押し問答だった。

「ついでに、疲れたし、私もここに泊まっていこうかしら。」

「えぇっ?!」

(というか、瑠璃会長は、上の階に住んでいるんだから、疲れたなら上に上がればいいんじゃ・・・。)

 この寮には、エレベーターがついている。

拓弥も部屋に来る時に乗ってきた。

そのまますぃーっと上の階へ行けば、事が済むのである。

「言ったでしょう?寮の部屋、一人なのよ、私。」

 だから、何だ!

拓弥は大声で叫びたかった。

「あれ?会長、パートナーいましたよね?」

 自分の属性をあっさりと天属性と言ってのけた優秀な人間だ。

パートナーがいないハズがない。

先程、パートナーがいる人間は、原則は同室相部屋と言ったばかりではなかっただろうか?

拓弥は首を傾げる。

確かに、瑠璃会長は一言もパートナーがいるとは言ってはいなかったが。

「原則って言ったでしょう?」

 まるでデキの悪い弟を嗜める姉のような口ぶりだった。

つまり、何らか原則外の、例外的なモノがあって、瑠璃会長は二人部屋に一人で住んでいるという事になる。

「いやいや、パートナーさんにも悪いし。」

 実際はそういう問題でも無いのは、拓弥にもわかりきっているのだが、何とかしてこの暴挙とも言える行動を止めたかった。

「私のパートナーは女性よ?言わなかった?」

「言ってないデス。」

 見事に撃墜された。

「なんてね。」

 クスクスと笑い声を上げる瑠璃会長に、呆気に取られる拓弥。

「確かに冷血人間ではないわね。どちらかと言うと、紳士的なのね。貴方って。」

 彼女の悪戯っぽい笑みは、年相応どころか、少し幼く見えてとても愛らしいのだが・・・。

「会長、意地悪い・・・。」

 正直な感想である。

「ごめんなさいね。でも、私も今日一日で、貴方に意地の悪い事を沢山言われたわ。驚かされもしたし。」

 つまりは、手の込んだ仕返し。

(頭の良いのとクールな分、無駄にタチが悪い気がするのは、気のせいか?)

 気力ゲージの減少とともに左腕が痛い気もしてきた。

「だから、ちょっとね。あぁ、でも此処に泊まっていくのは、本気よ?」

「へ?」

 もう何が何だかわからない。

「帰っても一人というのも本当。貴方が、今日は痛くて眠れないというから、一晩付き合ってもと思ってね。」

 一晩というフレーズにドキっとしたが、慌ててその思考を振り払う。

「はぁ。」

「嫌?」

「嫌とかいう以前に、会長がそういう事をしていいのかが問題というか、噂になったら困るというか。」

「私との噂は嫌?」

(そんな真剣な眼差しをしなくても・・・ギャップあり過ぎなんだよ、この人。)

「そういう意味じゃなくて・・・あぁ、もうっ!」

 相手が瑠璃会長じゃなければ、拓弥はきっとその場で地団駄を踏んでいただろう勢いだった。

「貴方が紳士的というのは、十分わかったわ。そ、それとも、わ、私に何かし、したいの?」

(何故、そこで顔を絡めてドモるのだろう?)

「まぁ、会長は美人だし、スタイルもいいし、男としてはそういう気持ちになるのは、仕方がないけれど。」

 会長の意図に全く気づかないマイペースなアホの子は、正直に思っている事を口にした。

「し、仕方がないものなの?!」

「僕としては、そういうのは、しっかりとした愛情と信頼の土台があるべきかと・・・。」

「そ、そうよね!」

「って、何で、こんな会話してんですか?」

 拓弥としては、問われた事に普通に答えているだけだったのだが、話が進んでない事に気がついた。

「あ・・・と、とにかく、どうせ寝られないなら、少し話しでもしたら、気が紛れると思ったのよ!」

(何故怒鳴るし、何故怒られたし・・・。)

 げんなりする。

確かに気が紛れるような事があるのに越した事はない。

気を紛らわすものなど、拓弥の引越しの荷物には入っていない。

そういうモノは、学校の施設の中にあるもので済まそうと思っていたからだ。

「そうですか、お気遣いありがとうございます。あ、でも、会長も、お風呂とか着替えとかしたいでしょうから・・・。」

 拓弥は諦めた。

兎角、口では女性に敵わないのが男という生き物であるのは、承知の上だからだ。

何より、目の前にいる女性は、基本的にはからかわれるのに免疫はないが、頭は相当にキレるのだから。

「そういうのをした後という事で・・・。」

「そ、そうね。それじゃあ、食事もあるだろうし、2時間後で。」

 彼女はそう言うとさっさと部屋から出て行った。

その颯爽とした行動に、開いた口が塞がらず数秒間、呆然とする拓弥。

「って、食事とお風呂で2時間?!」

 拓弥も入浴は好きだったが、食事を30分で終わらせても、かなりの時間が余る。

「女性って何事にも時間がかかるとは聞いていたけれど・・・。」

 そう言えば、芽衣などは2時間近く風呂に入っている時もある。

ふやけてブヨブヨにならないのかとか、何をしているのだろうと不思議に思った程だ。

「芽衣さんか・・・。」

 芽衣だけではない、早苗や源の顔が浮かぶ。

「随分、遠い所に来ちゃったな・・・。」

 寂しいと言えば、寂しい。

一人で過す日々には慣れてはいたが、今、一人でいるという事実を改めて認識すると、やっぱり寂しい。

だが、友達も出来た。

今夜は、痛みのオマケもついてはいるが一人じゃない。

お陰で、まだまだ拓弥の学園生活一日は終わらないのだから・・・。

以上、第Ⅱ章終わりです。

この後、どうするかは、活動報告等とご参照下さい。

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