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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
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こうして彼は引かれる。

これで2回連続、帳がボスでⅡ章が終わっていくという罠。

Ⅱ章、まだ続くよ!(苦笑)

 壁に(何故か)体育座りをしながら、瑠璃会長の精製を見ている拓弥。

喋っている言葉からすると、ハーフの瑠璃会長の言語ベースは日本語のようだった。

マイトとキャスターは言葉によって、精製能力を左右される。

よって、基本的にパートナー同士が共通言語を使用しているのだ。

(という事は、会長のパートナーは日系の人か。)

 同じようにハーフという可能性もある。

実は、会長が拓弥に気を利かせて言語を日本語にしているのかも知れない。

(多国語OKとかだったら、本当に万能だな。)

 この瑠璃会長なら、有り得なくはないと思った。

「はい。出来たわよ。」

 瑠璃会長が精製したモノは、小さな指輪だった。

これもマイトの特徴の一つである。

精製される力の結晶は、そのマイトによって様々だ。

瑞穂は符だったように、瑠璃会長の場合の結晶は指輪という事である。

これは、人の感性によって形作られ、方向性が決まる力だからという事らしい。

(しかし・・・本当にあやふやな力だよな。)

 この現象のほとんどの事柄は、現段階では解明されていない事柄が多すぎる。

それでも、その力を頼り使おうというのだがら、これこそが人間の業の結晶のように拓弥は思えた。

(ヤだ、ヤだ。)

「どうしたの?」

 一向に指輪を取る気配のない拓弥を心配したのか、声をかける。

「い、いや、美人の会長は、創るモノも綺麗なんだなと。」

 咄嗟に出た言葉にしては、間抜け過ぎる自分を呪う拓弥は、慌てて彼女の手の平にある指輪を取る。

「へぇ・・・。」

 イメージは、縫い目のしっかり揃った編み物。

きっちりかっちり縦と横の数が合わさっている格子状。

性格や想いに左右されるというのは、知っていたが意外に中身を認識しやすいんだなと拓弥は思った。

籠められた全てを認識して、方向性を決め解放するのが、キャスターの役割。

だが、これは拓弥が既にキャスターとして必要な事を完全に修めているというのに他ならない。

「準備は良いか?」

 見ると帳も既に片手に何かを握っている。

あちらも準備が完了しているらしい。

「んじゃ、会長、合図を。」

 コホンと小さな咳払いして、息を吸う。

(会長、意外と可愛いな。)

 ほんのり赤面している瑠璃会長を見て、まったりとした思考をしたのは、これで最後だった。

「始め!」

 合図とともに拓弥は、帳に向かって最大速度まで一気に加速。

左右に進行方向を振る事すらしない直線的な動き。

「笑止! エクセレント バレット!」

 パリッっと何かが弾ける音がして、次々に人間の頭大の岩の塊が帳の前に現われる。

その全てが、拓弥に向かって弾かれたように動き出す。

一応、学習能力があったらしい帳は、手数を増やして拓弥の動きを止める方針を立てたのだ。

(方向設定は一度のみだろ!)

 如何に多数の数の攻撃をしようとも、一度の精製と一度の発動では、そう複雑な方向設定は不可能だ。

拓弥は、速度を緩めずにその岩の中に身を躍らせた。

「海嘯の如く圧し寄せ!」

 今度は拓弥が、声を発する。

一瞬、ビクリと動きが止まる帳。

その間に拓弥は、目標目指して進む。

(がッ!)

 一つの塊が拓弥の左肩に激突しても、彼は止まらなかった。

「何だ!効かっ?!」

 そ一瞬の停止が致命的だった、そしてその一瞬が拓弥の好機だった。

既に拓弥は、彼の目の前に・・・。

「セッ!」

 帳は目の前に突然現われたように見えた拓弥に向かって、拳を振り下ろす。

(腹に詰め物してある・・・。)

 それを見抜いた拓弥は、拳をかわし、帳の足を払う。

バランスを崩す帳を押し倒し、咄嗟にその両肩に自分の両膝を押し当てる。

「僕の勝ちだ!」

「何をっ!」

 それでも屈しない帳に対し、拓弥はTシャツの下に右手を回し、それを帳の顔の横に突き立てた。

「あ。」

 思わず声を上げる瑠璃会長。

『コレはワザとだからいいの。』

 そう言った拓弥の意図。

彼は、Tシャツの下に短刀を隠し持っていたのだ。

この短刀、正確には小太刀なのだが、学園に行く日に餞別として早苗達に貰ったアレだ。

拓弥にしてみれば、コレをこんな所でこんな風に使う事なんて、予想もしてなかった。

(お姉ちゃんの言う事を聞いとくもんだよね・・・。)

 今は、盛大に感謝していた。

「まだやる?」

「私は、まだ降参の意を示していない!」

 何処までも自分の負けを認めない帳。

いや、負けを認めたくないだけなのだろう。

「そう・・・じゃ、悪いけれど、"オレ"は最後までやらせてもらうよ・・・。」

 そう言うと拓弥は右手の中にあったソレを帳に見せる。

それは、小さな指輪。

「あとで何か言われた時の為に使ってなかったんだよね。」

 ニヤリと笑う拓弥。

「ちゃんと学習しないとね、さっきの祝詞、前も使ったよ?水属性防御の時に。」

「水・・・属性・・・。」

 瑠璃会長が声を漏らす、自分が雷属性として精製した力が水属性の認識で発動するハズがない。

呆然と眺めた光景の先に、指輪を帳の胸元に置き、右手を押し当てている拓弥がいた。

「千変万化の如く華と咲け・・・。」

 指輪に秘められた力の属性を認識し、解放。

溢れる力がスパークし、閃光が細い枝のように帳の全身を覆って弾ける。

「あががががが・・・。」

 どうやら感電状態のようだ。

恐らく、この施設でなければ感電死しているだろう。

「さて、約束を聞いてもらう前に・・・会長、僕が小太刀突きつけた時点で止めてくれる?」

 瑠璃会長が悪いんだよ?と言わんばかりに彼女をジト目で見る。

この勝負、どちらかが降参する前に止められたのは、立会い人である瑠璃会長だけだ。

拓弥としては、小太刀を突きつけた時点で、瑠璃会長が止めてくれると信じていた。

が、結果はコレだ。

「立会い人の意味ないじゃん・・・。」

「あ、あ、そ、そうね。」

 拓弥の動きに呆然としていた瑠璃会長は、ただただ頷くしかなかった。

「はぁ・・・まぁ、いいや、会長、保健室って何処?今朝の案内で教えてもらうの忘れてた。」

「保健室?」

 そう言えば、帳が大人しいのに気がつく。

ふと、視線を向けるとどうやら気絶しているようだった。

「いやいや、酷いな。帳先輩だけ心配?僕の心配は?帳先輩、マイトさんがいるんだよ?」

 拗ねた。

気力ゲージ0で完全に拗ねた拓弥がそこにはいた。

「だって・・・。」

 誰がどう見たって、帳の方が重症のように見える。

「あのね、会長?さっきの戦い見てた?」

 マウントポジションを解き、立ち上がる拓弥。

その左手は、不自然過ぎる程ぷらーんと揺れていた。

「左肩外れてんだけど?」

「え?」

「だから、左肩脱臼してんの!自分で戻してもいいけど、変な風に戻ったらヤだから、保健室!」

 これはきっと今日の夜から腫れて眠れないだろうな、と思うとますます拓弥は憂鬱になる。

そもそも何で、こんな下らない事で、怪我しなければならいんだろうと思った。

(僕が左肩脱臼で、帳先輩が気絶だけってのが不公平だ・・・勝ったのに。)

 脱力しながら、Tシャツの裏の鞘に小太刀を納める。

気絶の仕方が感電という時点で、かなり過激だとは全く思わない拓弥だった。

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