こうして彼は呆れられる。
武道場のような造りの建物の中には、既に瑠璃会長が待っていた。
「流石会長と言うべきか・・・。」
あくまで拓弥の中の会長・委員長と呼ばれる存在(眼鏡装備)のイメージ。
「まぁ、いいけど。」
「貴方、パートナーは?」
一人で来た拓弥を見て、問いかける瑠璃会長に拓弥は首を傾げる。
「だから、いないって話、聞いてました?食堂で。」
施設の床を足で踏みしめながら、答える拓弥。
時折、その場でジャンプをしてみたりもしている。
「・・・貴方、現状をきちんと把握しているの?」
呆れてしまうのも無理はない。
だが、拓弥にしてみれば、前回の対峙の時も打撃戦で制しているのだがら、きちんと把握しているつもりだ。
そんな考えは、当然だが瑠璃会長に伝わるわけもない。
想像の範疇外だからだ。
「してますよ。だから、こうして調子をね、調べてるじゃないですか。」
床は少し柔らかめの軟質素材、多分柔道などの武道用なのだろう。
それを確かめた拓弥は、上着を脱ぎ、靴下を脱いで裸足になる。
「何を?」
瑠璃会長の要領を得ない質問に、溜め息をついきながら、仕方なく答える事にした。
そういえば、彼女がマイトなのかキャスターなのかをしっかりと聞いていなかった事に気づいたからだ。
今の発言で、それが判明した。
「マイトの会長には、わからないだろうけど、キャスターには得意の型があるの。僕は一撃離脱型。」
正確には、高速戦闘・一撃必殺型なのだが。
というか、それしか、教えてもらっていないというのが正しい。
所謂、【源さん必殺スタイル(拓弥命名)】
脱いだ続きで、ズボンも脱ぐ。
「キャッ!」「あ、下、ジャージ穿いてますよ?」
一言足りない男。それが月臣 拓弥。
脳内では、会長、意外と可愛い声出すんだなと能天気。そういう仕様なのも月臣 拓弥。
「これで、動き易いかなぁ・・・シャツも脱ぐか。」
Yシャツも脱ぎ、Tシャツ1枚とジャージの下。そして、裸足。
「シャツくらい中に入れなさい、だらしない。」
「あ、コレはワザとだからいいの。」
瑠璃会長の指導もスルーし、脱いだ服を畳み、部屋の隅に置く。
「さてと、準備完了。」
「準備完了じゃないわ!貴方、本当に一人で!」
「・・・会長、意外とヒステリック?」
予想外の突っ込みに思わず閉口した。
「超美人というか、容姿端麗で非の打ち所もないカンジなのに。勿体無い。」
追い討ちのように完膚なきまで、突っ込む拓弥。
黙らせた言葉が、追い討ちという自覚は拓弥には無かった。
「では!始めようか!!」
唐突に響き渡る声。
帳だ。
一番最後に送れて登場するのは、彼らしいと二人は同時に呆れ、そして納得していたのだが。
「あれ?今日は先輩は一人?」
帳も拓弥と同じく一人で来たという意味ではない。
取り巻きの女性が一人しかいないのだ。
茶色のショートカットの女性。
目つきは鋭いのだが、キツいと印象は一切抱かない。
どちらかと言えば、瑠璃会長の方がキツい性格だろうと思えるくらい。
(笑顔をちょっぴり見てみたいな。)
そう拓弥が思うくらい、ほんわりとした雰囲気が出そうな気がする女性。
ちなみに目を合わせたら、あっさり逸らされた。
「よくぞ気づいた!」
普通ならば誰でも気づく、そんな状況に対して大声で反応する帳に拓弥の気力ゲージは相変わらず。
当然、下がりっぱなしだ。
「今日は正式な決闘!しからば!一対一のがチンンコなのだよ!」
意味不明。
面倒くさいと誰もが思わざるを得ない。
多分、一撃勝負の一対一の決闘だからこそ、多くはいらないと言いたいのだろう。
「それでは早速始めようではないか!!」
ようやくだ。
あと数分には勝つにしろ、負けるにしろ、解放される。
そういう意味での安堵感が拓弥にはあった。
決闘の前に安堵感を覚えるというのは、拓弥ならではだろう。
「ちょっと待って!」
そう思った矢先の声。
瑠璃会長が二人の間に割って入り、声をかけたのだ。