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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
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こうして彼はフォローされる。

 あんなに無言の圧力で無視されたのにも関わらず、瑞穂は放課後になって拓弥の教室の前にいた。

無視されても何でもいいから、声をかけたかったというのもある。

もしかしたら、見るくらいは許されるかも知れない。

拒絶されるのは怖いが、無視されるのはもっと怖い。

それでも、瑞穂は教室の前にいた。

「あ。」

 何を言おうか必死にシュミレートして、深呼吸をして気合いを入れようとした矢先に頭に浮かんで離れない少年の顔があった。

途端にホワイトアウトしてしまう脳内。

こんなに真っ白になったコトは無かったし、こんなに真っ白になったら雪山で確実に遭難する。

そんなよくわからない思考に陥った。

「・・・じゃ、またな。」

 声が出ずに口をパクパクさせるだけの自分に拓弥が、そう声をかけた。

それだけで、今度は頭が沸騰してレッドアウトしそうになった。

確かにこんな風になったら、墜落する。

思考の混乱度合いは変わらないらしい。

「・・・何が知らない人や、あのアホ。」

 ふと、教室の奥からそんな声が聞こえてくる。

見ると、昼休みに拓弥と一緒にいた金髪の少年少女が目に入る。

何故だから、わからないが、少年は少女の首を片腕で絞めていたが。

「?」

 瑞穂と目が合った少年が瑞穂を手招きしている。

後を振り返ってみるが、周りには瑞穂以外の人間はいなかった。

というコトは少年が手招きしているのは、瑞穂自身であると気付いて、呼ばれるままに教室に入る。

もしからしたら、拓弥の話が聞けるかも知れない。

そういう期待があった。

「いやぁ、昼間は悪かったな、ワイの名前は飛鳥って言うんや。」

 どっから見ても純粋外国人に見える飛鳥が関西弁を喋ったのは、衝撃以外の何者でも無かったが。

「えぇと、コレが相方の花鈴な、よろしく瑞穂ちゃん。」

「え?」

 名乗ってもいないのに自分の名前が呼ばれたことに少なからず動揺した。

自分の名前を教えられる人間は、基本的に拓弥しかいないからだ。

「で、いいんやろ?名前。拓弥が言っとったからな。拓弥の大事な大事な瑞穂ちゃんやろ?」

「だ、大事はどうかは・・・。」

「飛鳥、アンタほぼ初対面なのに慣れ慣れしいのよ。」

「うぐっ!」

 一瞬の隙をついて、花鈴は肘鉄を飛鳥の鳩尾にめり込ませる。

「て、手加減しろや!このKY女!」

「だから、何でKYなのよ!」

「オマエも瑞穂ちゃんもKYや!!」

 飛鳥も流石に堪忍袋の尾が切れた。

コイツ等は人を理解しなさ過ぎると。

「いいか?瑞穂ちゃんや!よぉわからんが拓弥は怒っとる。ちゅーか拗ねとる。でもな、ソレはソレだけ瑞穂ちゃんが大事ってコトや!」

 ずびしぃっと指をさす飛鳥。

「相手がどんなヤツだろうと、興味の無い人間は完全スルーする拓弥がやぞ?その拓弥が拗ねたり怒ったりするくらい執着してるんや!」

 飛鳥の鼻息が荒くなる。

関西弁で台無しになってるとはいえ、基本的に美形路線の飛鳥の顔を更に台無しにしている。

それでも飛鳥は、まくし立てるのを止めなかった。

「それなのにまごまごとカマって貰いたがって纏わりついて!さっさと土下座でも張り手でも何とかせぃ!」

「ひゃいっ!」

 拓弥が自分に執着しているという、考えにも及ばない理論から結論づけられたのは信じ難かったが、飛鳥の勢いに思わず返事をしてまう。

「それに!花鈴オマエもや!拓弥が何でこぅなったかわからんのか!」

「な、なによ・・・。」

 終始、飛鳥を尻に敷いている花鈴もこうなった飛鳥を止める手立てはなく、おどおどしている。

「アイツは自分が傍にいるコトで、周りにいるウチ等までが貶されてるコトに怒っとったんや!そ・れ・を・このアホ花鈴がぁ~ッ!」

 拳を握って、花鈴のこめかみをグリグリしだす。

「なぁ~にが、『えー?私ついていこうと思ってたのに~。』や!このドアホ!!」

 更にグリグリ。

「あ゛ぁ~う゛ぅ~。」

 激しい痛みに呻きまくるしかリアクションが取れない。

「基本的にそんなえぇヤツの拓弥が、戦うトコ見られて嫌われるのを怖がってるコトぐらいわかれ!察しろ!気づけやー!」

「あ゛、あ゛、ごべんなざいぃ~。」

「ワイやなくて、拓弥に言え!瑞穂ちゃんアンタもや!!」

 生ける屍状態になった花鈴を解放した飛鳥は、更に瑞穂に念を押す。

「確かにな、キレやすいし、無気力やし、不真面目やけど。拓弥が優しいヤツなんは、二人共わかるやろ?」

 ようやく治まった飛鳥が、長い溜め息を吐きながら呟く。

「特にこのアホや、ワイみたいなヤツと違って、瑞穂ちゃんは前から拓弥のコト知っとったんやし。」

 逆に言えば、学園に入ってほんの一日一緒にいただけで、飛鳥が気付けた事を何一つ自分が理解出来てなかった瑞穂は恥ずかしくなる。

もっとどんどん行動して、自分が何をしたのかわからないけれど、教えてくれるまで食い下がって・・・。

それで自分が悪かったのならば、許されるまで謝り続けるべきだったのだ。

初対面の人間にそこまで指摘してもらって、ようやく気づく。

「さてと、今日は拓弥は戻ってきぃへんから帰ろか?明日またきぃや。休みやったら、校内の病院か寮におるさかい。」

「病院?」

 そう言えば、さっき『戦うトコ』と飛鳥は言っていた事に瑞穂は気付いた。

「ま、何と言うかな、拓弥はきちんと戦う時に戦える人間ってこっちゃな。花鈴も明日は、優しくしたれよ?」

「元々、たー君への愛情度は、飛鳥よりウ・エ・♪」

 にっこりと笑った後、花鈴は飛鳥の首を絞め始めた。

「ちょ、おま、入ってる!がっちり入っとっ・・・うぐぇ・・・。」

 二人のそんなやり取りよりも、飛鳥の言葉と花鈴言葉の方が、瑞穂の頭にはぐるぐるとリフレインし続けているのであった。

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