かくして彼は凡庸さを現す。
教師の話が終った後、拓弥は後悔していた。
「なにムキになってんだろ・・・。」
別段あんなに強く反発しなくても良かったのだ。
何時もみたいに聞き流して、さっさと謝ってしまえばそれで終わりだったのに。
拓弥自身、あの教師の考えを何ら否定する気もない。
寧ろ、現在の社会の考え的にはあれが多勢なのだ。
大人云々の会話だってそうだ。
誰だって、多少の後悔や我慢をして大人になる。
例外なんてほとんど無いとも思う。
「価値観の問題か。」
価値観や大切なモノは人それぞれだ。
家名が大事でその血を守り続ける人間もいるだろう。
金儲けが大事で死ぬまで稼ぎつつける人間もいるだろう。
自分と教師との間で、その格差が大きかった。
ただそれだけ。
ある意味でどちらも正しくて、どちらも間違っている。
拓弥はそう思いたかった。
「価値観が違うから、アイツは僕を選ばなかっただけか。」
面白くない。
単純にイライラする。
「だからって、あんな言い方ないじゃないか!」
過ぎた事を今更と言えば、今更だが。
勝ち誇ったような(そう感じられた)教師の笑顔を思い出して余計にイライラ。
目の前に転がっている空き缶を思いっ切り蹴り飛そうと・・・。
「っと、こんな事をやるとロクな事が起こらないんだよ、きっと。」
慎重か臆病かは意見が分かれる所ではある。
「あの?」
「うひゃぃっ!」
空き缶の前でウジウジしている時に後ろから声をかけられた為、マヌケの極地のような声を上げる拓弥。
「な、何でしょう?」
必死に無かった事にして取り繕う努力だけはしてみせる。
「済みませんが、この地図の場所をご存知ありませんか?」
目の前の女性が、一枚のメモを拓弥の前で広げた。
年齢は彼と同じか少し上くらいに見えるから、大体16歳前後。
肩までのセミロングの銀髪に切れ長の金の瞳。
ちょっと目つきが鋭い。
ハーフか何かだろうか?
「えぇと・・・。」
まじまじと凝視したところでロクな事がないと更に先読みして、さっさとメモに記された文字と地図を見る。
本当に慎重と臆病、紙一重。
「あ~、うん、多分この辺りの地図だね。」
自分の住んでいる街だろ!という突っ込みはあるかも知れないが、地図に書いてある建物や施設が・・・少し古い。
3年くらい前だろうか?
3年もあると意外に建物の中身が入れ替わったり、建て替わったりするものだ。
「間違いありませんか?」
女性は切れ長の目を更に鋭く細めて聞き返してくる。
「あ、うん。古いけれど、確かにこの街の地図だよ。あ、でも・・・。」
「でも?」
地図の目的地であろう場所が問題だった。
「でも、何ですか?」
正直、少女の目が拓弥には怖かった。
「えと、この辺一体は、その、今は更地だけど・・・?」
ピクリと相手の眉が動く
「更地?」
「・・・完全に更地。」
「本当に?」
初対面の相手にこんな嘘ついてどうする。
そう思った拓弥だったが、相手の余りの勢いに口には出せなかった。
だが、道を聞かれる前から燻っていたイライラ感が増大したのは確かだ。
「だったら行って確かめて見ればいいじゃないですか。それか他の人に聞いてください!」
「あ・・・。」
結局、八つ当たり上乗せでキレてしまう。
もう相手にする気も興味も完全に無く歩を進める事が出来た。
兎角、月臣 拓弥という人間は現代っコで、鬱屈している。
反抗期というフレーズは全力で否定するクセに。
時に反発し、時に卑屈になる。
社会と自分の差やズレを上手く調節できず、自分の位置も定かではない。
誰もが通り、誰もが経験する。
そのハズなのだが・・・。
<今度の世界もまた、実に興味深い・・・。>