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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅰ章:かくして彼は立ち上がる。
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かくして彼は凡庸さを現す。

 教師の話が終った後、拓弥は後悔していた。


「なにムキになってんだろ・・・。」


 別段あんなに強く反発しなくても良かったのだ。

何時もみたいに聞き流して、さっさと謝ってしまえばそれで終わりだったのに。

拓弥自身、あの教師の考えを何ら否定する気もない。

寧ろ、現在の社会の考え的にはあれが多勢なのだ。

大人云々の会話だってそうだ。

誰だって、多少の後悔や我慢をして大人になる。

例外なんてほとんど無いとも思う。


「価値観の問題か。」


 価値観や大切なモノは人それぞれだ。

家名が大事でその血を守り続ける人間もいるだろう。

金儲けが大事で死ぬまで稼ぎつつける人間もいるだろう。

自分と教師との間で、その格差が大きかった。

ただそれだけ。

ある意味でどちらも正しくて、どちらも間違っている。

拓弥はそう思いたかった。


「価値観が違うから、アイツは僕を選ばなかっただけか。」


 面白くない。

単純にイライラする。


「だからって、あんな言い方ないじゃないか!」


 過ぎた事を今更と言えば、今更だが。

勝ち誇ったような(そう感じられた)教師の笑顔を思い出して余計にイライラ。

目の前に転がっている空き缶を思いっ切り蹴り飛そうと・・・。


「っと、こんな事をやるとロクな事が起こらないんだよ、きっと。」


慎重か臆病かは意見が分かれる所ではある。


「あの?」


「うひゃぃっ!」


 空き缶の前でウジウジしている時に後ろから声をかけられた為、マヌケの極地のような声を上げる拓弥。


「な、何でしょう?」


 必死に無かった事にして取り繕う努力だけはしてみせる。


「済みませんが、この地図の場所をご存知ありませんか?」


 目の前の女性が、一枚のメモを拓弥の前で広げた。

年齢は彼と同じか少し上くらいに見えるから、大体16歳前後。

肩までのセミロングの銀髪に切れ長の金の瞳。

ちょっと目つきが鋭い。

ハーフか何かだろうか?


「えぇと・・・。」


 まじまじと凝視したところでロクな事がないと更に先読みして、さっさとメモに記された文字と地図を見る。

本当に慎重と臆病、紙一重。


「あ~、うん、多分この辺りの地図だね。」


 自分の住んでいる街だろ!という突っ込みはあるかも知れないが、地図に書いてある建物や施設が・・・少し古い。

3年くらい前だろうか?

3年もあると意外に建物の中身が入れ替わったり、建て替わったりするものだ。


「間違いありませんか?」


 女性は切れ長の目を更に鋭く細めて聞き返してくる。


「あ、うん。古いけれど、確かにこの街の地図だよ。あ、でも・・・。」


「でも?」


 地図の目的地であろう場所が問題だった。


「でも、何ですか?」


 正直、少女の目が拓弥には怖かった。


「えと、この辺一体は、その、今は更地だけど・・・?」


 ピクリと相手の眉が動く


「更地?」


「・・・完全に更地。」


「本当に?」


 初対面の相手にこんな嘘ついてどうする。

そう思った拓弥だったが、相手の余りの勢いに口には出せなかった。

だが、道を聞かれる前から燻っていたイライラ感が増大したのは確かだ。


「だったら行って確かめて見ればいいじゃないですか。それか他の人に聞いてください!」


「あ・・・。」


 結局、八つ当たり上乗せでキレてしまう。

もう相手にする気も興味も完全に無く歩を進める事が出来た。

 兎角、月臣 拓弥という人間は現代っコで、鬱屈している。

反抗期というフレーズは全力で否定するクセに。

時に反発し、時に卑屈になる。

社会と自分の差やズレを上手く調節できず、自分の位置も定かではない。

誰もが通り、誰もが経験する。

そのハズなのだが・・・。


<今度の世界もまた、実に興味深い・・・。> 

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