こうして彼は見下される。
だんだと悪化し始めてきましたので、そろそろ考えたいと思ってきました。
「所詮、そんなものなのですよ。」
ヒートアップしていた横合いから声をかけられたせいか、勢いよく声の主を睨みつけた。
拓弥の頭に昇りかけていた血が爆発手前で止まる。
「あぁ・・・。」
そして声の主を見て、上昇していたものが反転し始めるのを感じる。
(ミスターナルナル・・・。)
そこにいたのは、以前、思わず殴り倒してしまった帳 洵という男だった。
「彼にマイトやキャスターという存在の高尚さなぞ、理解出来ぬものなのです。」
馬鹿にされているのが、わかった拓弥だったが、そもそもマイトやキャスターを高尚な存在と思っていない事に気付いた。
別に反論する気力も必要性もない。
周りの人間達も、ブレザータイプの学園の標準制服の中で、何故か白ランを着ている帳に誰も突っ込もうとしない。
突っ込みは、お約束事と思っている節のある飛鳥ですら。
「はぁ・・・確かにその通りだけれど、何の用ですかね?」
関わりたくはないと、脳みそが警告を発してはいるのだが、とりあえず聞いてみてしまう。
相手にしたくはないタイプなのは、瑠璃会長も同じようで眉を顰めているようにも見えたが、流石クールさがウリ(?)それも一瞬だった。
「君が会長に対して無礼にも声を荒げているのが聞こえたからに決まっているではないか!」
指摘は間違っていない。
だが帳の声の方がどうみても拓弥の声より大きいのだが、それを突っ込む事は止めた。
「会長、彼等と話をするより、私とマイト・キャスターの輝かしい未来像について話を合おうではありませんか!」
「え?・・・あぁ・・・。」
常にクールな姿勢を崩さない瑠璃会長も露骨ではないが、顔に出るくらい困った顔をしている。
拓弥的には、瑠璃会長を助けるか、それとも会話が打ち切れて良しとするかの天秤が脳裏に形成されている。
勿論、判断基準の焦点はそもそも瑠璃会長は、拓弥にとってどうでもいい存在か否か。
介入したところで、どうせロクな事にはならない。
それは確定だ。
会話打ち切りの方向に天秤が傾きかける。
「優秀な人間は、優秀な人間同士でね。」
帳は拓弥、飛鳥、花鈴を見回す。
ロクな事にはならないのは、わかっている。
貶されるのも自分はまだいい、我慢出来る。
それにやる気もないし、マトモに勉強しようと思ってもいないので、帳の指摘の通り優秀な人間ではない。
だが、今の帳の視線は許せないモノがあった。
彼は、飛鳥や花鈴まで"取るに足らないモノ"という線を引いたのだ。
拓弥が嫌いな、一方的で勝手な一括りと差別。
「そうですね、優秀な貴方をブッ飛ばして、僕はこの学園に入れたんですからね。」
そうなのだ。
そもそもロクな事の始まりは、コイツだったじゃないか。
拓弥は思い出していた。
コイツと戦うハメになったから、使いたくもない力を使って、来たくもない学園に来る事になったのだと。
上昇・反転・下降ときていたゲージが、上昇し始めている気がしてきた。
「何?」
ギロリと拓弥を睨む帳。
全く、怖くもない。
芽衣さんのドス黒いオーラの方が段違いに怖い。
「そもそも君は、優秀な瑞穂君の力を使ったというのを忘れていないか?」
一理あるのだが、結局の所の決定打は拓弥の拳だったというのを帳は棚に上げている。
「はぁ、つまりは優秀な瑞穂一人の為に二人がかりで負けたんですね、"優秀な帳センパイ"は。」
言われた言葉の揚げ足を取り、更に先輩のフレーズを強調する拓弥。
「ほぅ、では、オマエだけでも私に勝てるとでも?」
「さぁ?僕は推し量る基準を今まで持っていなかったし、優秀・優秀と自分の"口だけ"で言っている先輩の基準も知りませんから。」
(なぁ、拓弥ってこんなダークなキャラやったんか?)
(し、知らないわよ。)
二人の睨み合いを見せ付けられている状態の飛鳥と花鈴が目配せで会話をしている事など、拓弥達の視界には入っていない。
場は静かに加熱しているように見えた。
「そこまで言うならば、今、証明して見せてみたまえ。」
今まで、何度この人を見下すような視線を受けてきただろうか?
ふと、この視線に見下されてた一人の少女を思い出した。
(ここにはいないみたいだけど・・・。)
ちょっとだけ心配になっている自分に拓弥は驚いく。
確かに彼女は、神社での出来事のあとすぐに帰ってしまったから、その後はどうなったのか知らない。
未だに帳に見下されながらコキ使われているのだろうか?
そう思った時点で、何かイライラしてきた。
しかも、このイライラの原因も、結局は目の前の帳の行動のせいなのである。
「ヤです。僕はもうあなたに一度勝ってるんですよ?何故、"敗者"の弁に従わなければならないんですか?」
こうなったら、一切合財、コイツにブチ撒けてしまえ!と拓弥は思った。
そうすれば、多少心は晴れるだろうし、コイツとの関係も断ち切れると。
「い、言わせておけば!」
流石にこの言葉は、帳の許容範囲を超えていたらしい、顔が真っ赤になり始めている。
「そうですね、どうしてもと言うのなら・・・瑠璃先輩?」
先程、あんなに冷たく突き放していた瑠璃会長に向かって、微笑みかける。
一度も、名前を呼ばなかった拓弥が、名指しでである。
「え?な、何かしら。」
「生徒同士の手合わせというのは、何かしらの手続きを取れば出来ますでしょうか?」
天使のような笑みと、悪魔のような抑揚のない声で、丁寧語で語りかける。
拓弥のその姿に、瑠璃会長だけでなく、飛鳥も花鈴もゴクリと息を呑む。
(拓弥って・・・温厚なのかキレやすいのかどっちや?)
(怒らせないようにすればいいだけじゃないの?)
(そういうもんか?)
「力を弱める施設内で、立会い人がいれば可能よ。」
一瞬だけ呆然となっていた瑠璃会長だったが、すぐに冷静に対処出来た事に飛鳥と花鈴は心の中で、盛大な賛辞を送った。