こうして彼は歪められる。
流石に、今の言い方はまずかった。
そういう自覚がある。
でも、口から出てしまったものは、もう引っ込められない。
「それってどういう意味?」
花鈴までプリンを食べる手を休めて、拓弥を見る。
既に杏仁豆腐のカップは空だ。
結局、両方食べることにしたらしい。
「恋愛みたいって会長も言ってたでしょ?略奪愛とかどうでしょう?」
本当は、そういう意味で言ったワケじゃなかったが、コレで誤魔化せるといいな、と思う。
「りゃ、略奪愛・・・。」
フレーズが過激すぎたのだろうか?
花鈴が顔を赤らめている。
「あなた、そういうタイプの人間じゃないでしょう?」
流石に会長は冷静で鋭い。
(というか、パートナーの略奪愛はアリなのか?)
思春期の少年である拓弥には、大いに興味のある事だった。
何より、倫理感とか背徳感とかを刺激される。
(別にしないけど。)
「さっきも自分で興味があるように言っていた割には、説明も断ったし・・・。」
「午前の授業全部寝てたしな。」
飛鳥が告げ口のように言葉を繋ぐ。
(あとでドツいてヤル。)
しかも、グーで。
その決心を拓弥は固めた。
「まぁ、ランキングの話は説明されても挑戦しようと思わないし、その実力があるとも思わないから。」
正直、ふーんって感じでスルー出来る自信があった。
本当に挑戦する事はないあろうし、興味もない。
「授業中寝ていたというのは?」
「たまたですよ、緊張して疲れてたので。」
多少の説教は言われるのは覚悟の上で言った。
単純に授業は、自分が今までの学校でやっていた事の方が進んでいた。
歴史も本当は苦手じゃなく覚えているし、キャスターの力の使い方はバイト先で覚えた。
実技は、パートナーがいない以上、ずっと見学だ。
それを総合して現状の授業は復習以外の意味以上はない。
故に睡眠。
(ビバ、睡眠。)
「それにしては・・・。」
「はぁ・・・会長がいくら美人だとしても、何を聞いても許されるワケじゃないですよ?」
そろそろ相手にすること自体が、嫌になってきた。
どうでもよくなってくると、ついつい扱いがぞんざいになってしまう。
拓弥の悪い癖で、早苗曰く"ツン"になる瞬間だ。
「まぁ、確かに美人やな。」
キッと花鈴に睨まれる飛鳥。
きっとあとで大変な事になるのだろうな、と拓弥は思ったが止めるのをやめた。
大体の原因がコイツだ。
多少、痛いメに会えと思ってもきっと罰は当たらないだろう。
(花鈴だって、十分可愛いのに何でコイツはこうなんだろ。)
「私は・・・少し、心配だっただけよ。」
言い澱みながらも、言葉を続ける会長。
「ご心配ありがとうございます。でもね、会長、僕はパートナーなんかいらないし、キャスターにもマイトにも興味ないし・・・。」
もういいや。
この会長との人間関係すらもどうでもよくなっていた。
「正直、卒業さえ出来ればいい。いや、出来なくても、また普通の学校行くから。」
もともとキャスターになんかなりたくないのだ。
それもこれも、あの二人のせいなんだから。
確かに力を使った自分が不用意だとは思ったのだけれど・・・。
「あなた、自分が何を言っているのかわかってるの?」
スクエアの眼鏡がキランと光った気がする。
「この学園に来て、キャスターやマイトの能力を磨かないという事がどれほどの損失か。」
「会長こそなんなんですか?損失かどうかの判断を下すのは僕自身。何でそこまで決め付けて言われなきゃならない?」
結局、この学園に来ると名前だとか、個々の性格とかどうでもいいのだ。
自分をキャスターとしか見ない人間達に、拓弥としても価値を見出す事など到底出来ない。
「僕には僕の生活がある。それはアナタには全く関係ない。」
だから、これ以上干渉するなという意思。
「花鈴と飛鳥は、あなたと違って僕とちゃんと話をしてくれるから別ですけれどね。特に花鈴は可愛いし。」
この二人も自分をキャスターとして見てはいるのだが、それと同じくらいに月臣 拓弥としても見てくれている。
学食に来てから、自分が言っただけで瑞穂の事を突っ込んでこないし、能力の話を一つもしなかったのが証拠だ。
うっかり、先程思っていた事を口に出してしまったが、気にせず拓弥は話を続ける事にした。
「キャスターとしてどうとか、マイトとしてどうとか言う以前に僕は、月臣 拓弥でありたいから。」
もう嫌だ、面倒だ。
自分は何でこんなところで、怒っているのだろう?
(・・・帰りたい。)
ただ月臣 拓弥としてのほほんと生きていられた頃に。