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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
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こうして彼は歪められる。

 流石に、今の言い方はまずかった。

そういう自覚がある。

でも、口から出てしまったものは、もう引っ込められない。

「それってどういう意味?」

 花鈴までプリンを食べる手を休めて、拓弥を見る。

既に杏仁豆腐のカップは空だ。

結局、両方食べることにしたらしい。

「恋愛みたいって会長も言ってたでしょ?略奪愛とかどうでしょう?」

 本当は、そういう意味で言ったワケじゃなかったが、コレで誤魔化せるといいな、と思う。

「りゃ、略奪愛・・・。」

 フレーズが過激すぎたのだろうか?

花鈴が顔を赤らめている。

「あなた、そういうタイプの人間じゃないでしょう?」

 流石に会長は冷静で鋭い。

(というか、パートナーの略奪愛はアリなのか?)

 思春期の少年である拓弥には、大いに興味のある事だった。

何より、倫理感とか背徳感とかを刺激される。

(別にしないけど。)

「さっきも自分で興味があるように言っていた割には、説明も断ったし・・・。」

「午前の授業全部寝てたしな。」

 飛鳥が告げ口のように言葉を繋ぐ。

(あとでドツいてヤル。)

 しかも、グーで。

その決心を拓弥は固めた。

「まぁ、ランキングの話は説明されても挑戦しようと思わないし、その実力があるとも思わないから。」

 正直、ふーんって感じでスルー出来る自信があった。

本当に挑戦する事はないあろうし、興味もない。

「授業中寝ていたというのは?」

「たまたですよ、緊張して疲れてたので。」

 多少の説教は言われるのは覚悟の上で言った。

単純に授業は、自分が今までの学校でやっていた事の方が進んでいた。

歴史も本当は苦手じゃなく覚えているし、キャスターの力の使い方はバイト先で覚えた。

実技は、パートナーがいない以上、ずっと見学だ。

それを総合して現状の授業は復習以外の意味以上はない。

故に睡眠。

(ビバ、睡眠。)

「それにしては・・・。」

「はぁ・・・会長がいくら美人だとしても、何を聞いても許されるワケじゃないですよ?」

 そろそろ相手にすること自体が、嫌になってきた。

どうでもよくなってくると、ついつい扱いがぞんざいになってしまう。

拓弥の悪い癖で、早苗曰く"ツン"になる瞬間だ。

「まぁ、確かに美人やな。」

 キッと花鈴に睨まれる飛鳥。

きっとあとで大変な事になるのだろうな、と拓弥は思ったが止めるのをやめた。

大体の原因がコイツだ。

多少、痛いメに会えと思ってもきっと罰は当たらないだろう。

(花鈴だって、十分可愛いのに何でコイツはこうなんだろ。)

「私は・・・少し、心配だっただけよ。」

 言い澱みながらも、言葉を続ける会長。

「ご心配ありがとうございます。でもね、会長、僕はパートナーなんかいらないし、キャスターにもマイトにも興味ないし・・・。」

 もういいや。

この会長との人間関係すらもどうでもよくなっていた。

「正直、卒業さえ出来ればいい。いや、出来なくても、また普通の学校行くから。」

 もともとキャスターになんかなりたくないのだ。

それもこれも、あの二人のせいなんだから。

確かに力を使った自分が不用意だとは思ったのだけれど・・・。

「あなた、自分が何を言っているのかわかってるの?」

 スクエアの眼鏡がキランと光った気がする。

「この学園に来て、キャスターやマイトの能力を磨かないという事がどれほどの損失か。」

「会長こそなんなんですか?損失かどうかの判断を下すのは僕自身。何でそこまで決め付けて言われなきゃならない?」

 結局、この学園に来ると名前だとか、個々の性格とかどうでもいいのだ。

自分をキャスターとしか見ない人間達に、拓弥としても価値を見出す事など到底出来ない。

「僕には僕の生活がある。それはアナタには全く関係ない。」

 だから、これ以上干渉するなという意思。

「花鈴と飛鳥は、あなたと違って僕とちゃんと話をしてくれるから別ですけれどね。特に花鈴は可愛いし。」

 この二人も自分をキャスターとして見てはいるのだが、それと同じくらいに月臣 拓弥としても見てくれている。

学食に来てから、自分が言っただけで瑞穂の事を突っ込んでこないし、能力の話を一つもしなかったのが証拠だ。

うっかり、先程思っていた事を口に出してしまったが、気にせず拓弥は話を続ける事にした。

「キャスターとしてどうとか、マイトとしてどうとか言う以前に僕は、月臣 拓弥でありたいから。」

 もう嫌だ、面倒だ。

自分は何でこんなところで、怒っているのだろう?

(・・・帰りたい。)

 ただ月臣 拓弥としてのほほんと生きていられた頃に。

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