こうして彼は間違われる。
拓弥の横にスラリとした美女が現れる。
キラリと今にも光りそうな黒ブチ眼鏡の・・・。
「あー・・・。」
何処かでみた事がある人だな、というのが拓弥の印象。
つい先程、数時間前に会った人間ですら興味がないと彼はこうなのだ。
「会長!」
花鈴がすっときょうな声を上げる。
(あぁ、美メガツンか。)
会長>美メガツン>瑠璃
名前と結びつく印象順位がこうらしい。
「隣の席いいかしら?」
「へ?どぞ、どうぞどうぞ。」
拓弥の隣の席に座る許可を飛鳥が出すという事に対して、睨む事で抗議したが、見もしなかった。
(美人に弱くない男は確かに少ないけどさぁ・・・。)
ふと花鈴を見てみたが、彼女も面白くなさそうな顔をしていた。
果たして、このパートナー同士は大丈夫なんだろうか?と一抹の不安が過ぎる。
「で、ランクの説明だったかしら?」
にっこりと微笑んでくるクール美人。
「いや、説明はいいです。花鈴、デザート持ってきてあげるよ。」
「え?」
飛鳥の対応があんまりにもあんまりだろうと思った拓弥は、席を立ってデザートを取りに行った。
(そっとしておいてよ、まったく。)
転入生だから、目立つのはわかる。
わかるけれど、自分の身にもなって欲しいとも思う。
これが、パートナーがいる人間達だというのが、尚更イラつき度が増す。
パートナーがいる人間でコレだ。
もし、パートナーがいない人間だったら、もっとまとわりつかれるかも知れない。
「うわ・・・萎える・・・。」
デザートに甘すぎるモノもなんだと思い、杏仁豆腐とプリンを持っていく事にした。
2種類あればどちらか食べたいものがあるだろう。
残った方を拓弥が食べればいい。
くるりと振り返って、自分の席に戻ろうとすると、少しデレっとした飛鳥が楽しそうに話してるのが見えた。
(顔面にプリンをぶつけても、今なら許される気がする・・・。)
大体、現状の原因を作り出したのは、飛鳥だ。
自分は悪くない。
なのに何故、こんな気を遣わなければならないだろう?
しかも、気を遣う相手は、飛鳥のパートナーだ。
そう思ったら、尚更イライラ度が上がった。
(僕、悪くないよな、この感情、普通だよな?)
自分に言い聞かせながらも、自分を抑える。
「花鈴、プリンと杏仁豆腐どっちがいい?」
「ワイ、プリ・・・「うっさい、ボケ。」」
今のは悪くない。絶対に悪くない。
自己暗示に近いものがある。
とりあえず、花鈴の前に両方置く。
「・・・ありがとう。」
にっこりと微笑まれてしまった。
「いえいえ。両方食べちゃってもいいよ。」
そうしたら、また取りに行けばいい。それだけこの席を離れられる。
目の前の席から教室に戻るという事は、思いつかないらしい。
実際、一人で教室に戻って、瑞穂がまたいたら拓弥も困るからだ。
「ところで、もうパートナーを見つけたのかしら?」
「は?」
意味不明な事を聞かれて、席に座りながら拓弥は固まった。
どうやら、花鈴と拓弥の事を言っているらしい。
「困った事に、彼女はこの飛鳥のパートナーなんですよ。」
何が困ったのか自分でもよくわかってないが、冷静な怒りというものが湧き上がってきた。
この会長の発想力には、ほとほとお手上げだ。
「そう。」
飛鳥をチラリと見て、興味がなくなったかのように箸を口に運ぶ。
彼女が頼んだのは、和定食だった。
「まぁ、どうでもいいんですけれどね。」
「どうでも?」
思わず本音が漏れて、しまったと思ったがもう遅い。
再び興味を持った彼女が、食事をする手を止め反応した。