こうして彼は笑われる。
「って、ワイは無視かぃっ!」
拓弥が席に着こうとすると、蹴り飛ばされていた少年が、勢い良く立ち上がる。
「いや、ここはスルーしておくのが礼儀かなって。」
「何の礼儀や!何の!」
やっぱり金髪の純粋外国人に見える少年の関西弁は、胡散臭い。
胡散臭い以外の何者でもない。
「んじゃ、お約束。」
「そんなお約束いらんわい!」
今にも掴みかかってきそうな金髪の少年。
瞳の形は鋭い猫目で色は濃い藍色だ。
「そっか。聞いてたと思うけれど、月臣 拓弥。よろしく。」
手を出してみた。
「ワイは、アスカや。漢字やと飛ぶ鳥で飛鳥。」
がしっとシェイクハンド。
しかし、生粋の外国人に(そういう表現があるのかは別として)見える飛鳥の名前はどうやら漢字表記出来るらしい。
「ん?フルネームは?」
「そんなもんいらん、飛鳥は飛鳥や。」
全くよくわからない理論を吐いて胸を張る飛鳥。
「そ、そうか。」
本人がそう主張しているのだから、飛鳥でいいや。
覚える字数少ないし。
それが本音だった。
正直、今の彼は花鈴のフルネームも忘れかけている。
「で、最大のミステリーなんだけど、何故に関西弁?」
聞いてはいけない事ではないのかと、言ってから気付いたが、もう遅い。
「初めて聞いた日本語が関西弁だっただけや。」
なんとなく納得は出来るが、彼の喋っている言葉が本当にちゃんとした関西弁かどうかは、非常に怪しいモノだった。
「ふ~ん。」
まぁ、ちゃんと言葉が通じるならいっかと、相変わらずあっさりスルーだ。
拓弥的には、英語とかで喋られたりする方が困る。
「まぁ、二人とも宜しく。」
「おっけー。」「よろしくな。」
ようやく三人で席に着く。
四人掛けの椅子だったので、三人は意外と余裕があった。
果たして飛鳥は蹴り飛ばされる意味があったんだろうか?
しかし、金髪→黒髪←金髪というサンドイッチ具合は、少し目立つかも知れない。
ふと、そんな風に拓弥は思った。
心無しか周りの人間も聞き耳を立てている気もする。
それも教室に教師らしき人間が入ってからは、全く感じなくなった。
感じなくなった理由は他にもあったが・・・。
「・・・すぅ・・・。」
机に突っ伏している拓弥。
「なぁ、コイツ、速攻で寝てるんちゃうか?」
飛鳥が拓弥の後頭部を指さしながら、小声で花鈴に話しかける。
「多分ね。緊張で疲れたんだじゃない?前日寝られなかったとか。」
「そうかぁ?単に神経ズ太いだけなんちゃうか?」
ジト目で拓弥の後頭部を見詰める飛鳥の横で、クスクス笑う花鈴。
「何や?気色悪ぃ。」
「ううん、何か、仲良くなれそうだなって。」
「まぁな。なんつーか、フツーのやっちゃもんな。」
「そう、フツーの人みたいだよね。変に慣れてたり、スレてたりしてなくて。」
充分にめんどくさがりやで、無気力でツンデレと言われるくらい天邪鬼なのを二人は知らない。
今のところ、この二人の明るさに引っ張られていて、気力ゲージの低い時の状態が出ていないのが良かったらしい。
疲労は確かに溜まってはいたが。
「ずっと、このままでいてくれると嬉しいな。」
先程の底抜けに明るい雰囲気から一転、寂しげに呟く花鈴。
「そやな。人は変わるもんとは言え、無理矢理変えられるのはちゃうしな。」
花鈴の寂しげな顔を見ながら、呟く飛鳥の表情も曇る。
「ぅぅっ・・・やきソバぱんぅ・・・。」
拓弥の呻き声。
「ぷっ。」
まるで魘されてるような呻き声で、出された意味不明の言葉に花鈴は思わず噴き出しそうになったが、慌てて堪えた。
見れば、飛鳥も同じようだ。
流石に授業中だ。
声をあげて笑うなんて事は出来ない。
「コイツ、どんな夢視てんねん。焼きそばパンのお化けに追い掛け回される夢か?」
首を竦めて笑う。
「やめてよ、飛鳥。笑っちゃう、お腹痛くなっちゃうからぁ。」
思わず想像しそうになって、二人の腹筋は悲鳴を上げたのであった。
やっと進んだ気がする・・・。
飛鳥の関西弁はエセなので、突っ込まないでネ♪