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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
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こうして彼は招かれる。

 どりゃあ!と、吶喊した先にあったのは、視線と視線と視線。

そればかりが拓弥に向く。

折角、必死に上げた気力ゲージもすとんっと下がりきるくらいに。

「今日から転入する事になりました、月臣 拓弥です。宜しくお願い致します。」

 知っている。

こういうのは、初っ端で舐められるとロクな事にならないのだ。

(学園ドラマの典型的なパターンだよな。)

 知識の仕入先はともかく、この奇異な目線をどうにかしたかった。

しかし、"美メガツン"こと生徒会長ですら、興味を持つくらいのタイミングでの転入だ。

そんな目を向けて来るなとは言えない・・・。

「はいはーい、転入生君、こっちこっちー!」

 静まり返った教室の中で、一際高く可愛い声が上がる。

「転入生君って・・・今、自己紹介したのに・・・。」

 小さく呟きながら、声のした方へと視線を向ける。

視線を向けたのは拓弥だけでなく、教室中の視線も一緒に移動したのだが、それをものともせずに手を振っている少女がいた。

「こっちだよー!ちっちゃいけど見えてるよねー?」

 確かにちっちゃい女の子が、金色のツインテールを揺らしながら自己主張してるのだが。

(ここはスルーした方が目立たなくていいのだろうか?)

 女の子がどれほど可愛かろうが、何だろうが、拓弥には一切関係ない事だった。

大事なのは、無駄に目立たず、無駄に主張しない。

「こっちの席空けてあげるから、座りなよー。」

「待てぇいっ、オマエはワイにどけつぅのかぃ!」

「アスカは黙ってて。」

 金髪の小さい少女よりは、少し背の高い金髪少年が声を荒げる。

背の高いといっても、平均的な男子の身長よりは少し低いだろうか。

拓弥もそれほど高身長というワケではないけれど。

「というか、黙って少しズレなさい!」

 女の子が少年を蹴り飛ばして、無理矢理スペースを空けさせる。

スペースを空けたというより、少年が椅子から転げ落ちたとも言う。

「いや、そこまでして席を譲ってくれなくても・・・。」

 流石に目立っちゃうから。と、言葉を続けたい気分だった。

「あははん、気にしない気にしない。この時期に転入生なんて珍しいからさ、お話とかしたいのよー。」

「僕はパンダか何か?」

「つか、パートナーを蹴り飛ばしておいて、本音はソレかい!」

 金髪の少年が流暢な方言で突っ込みを入れる。

どう見ても純粋の外人が、喋る関西弁モドキは違和感がありまくりだ。

仕方なく拓弥は、渋々彼女達の席に近づく。

「やったー、本当に来てくれたー。」

「自分で言ったくせに。」「自分で呼んだんやんけ。」

 速攻で二人で突っ込む。

ちょっぴり男の方には、好感というか親近感が湧いた。

「あはっ、ごめんね。許してにゃん。」

 両手を合わせて謝る少女のツインテールが揺れる。

「可愛いから許ス。」

「やたー。」

「許すんかいっ!」

 ちょっぴりニヤリとしていた自分がいる事に拓弥は気が付いた。

ともかくやりやすい。

反応が判りやすくて。

「で、座っていいのかな?」

 パートナーでなければ、早めに知り合いを作って、学園の事を教えてもらうのがいい。

(会長に昼寝の場所教えてもらわなかったしな。)

そんな邪な心半分で。

でも、この少年少女はパートナー同士だから、大した問題にはならないだろう。

「うん、いいよん。」

「しゃあない、ええわ。」

「ありがとう。さっきも言ったけれど、僕は月臣 拓弥ね。」

「私は、ファオリャン・D・エルンスト。」

 女性としては身長が低く、身体つきも幼く感じる。

髪は金髪で、瞳の色は翡翠色なのは会長と同じだ。

ただ、会長の金髪の方が少しオレンジっぽく、彼女の方が黄色っぽい。

「"カリン"って呼んでね。」

「か、かりん?」

 今の自己紹介の何処にそんな要素があったのだろう?

思わず首を傾げてしまった。

「あぁ、漢字でね、花に鈴って書いて"ファオリャン"て読むの。発音難しいらしくてね。特に"ファオ”って部分が。」

 なるほど、彼女は中華系の血もどうやら入っているらしい。

彼女曰く、英語圏の人には、ファオもシャオもチャオも一緒に聞こえるそうだ。

「花に鈴だとカリンって日本語で読むでしょ?」

「うん、確かに。」

 納得。

「だからそれで、ね?」

「わかったよ、花鈴。あぁ、でも。僕、人の名前と顔を覚えるの苦手だから・・・。」

「あらら、まぁ、流石に隣の席なら覚えるでしょ。」

「うん、まぁね。」

 そこまで間抜けではない。

実際問題、今の拓弥は、彼女の名前を簡単に覚えられる気がしていた。

カリンの笑顔と声は、まるで花と鈴を彷彿させるものだったから。

思わず、名は体を表すとは良く言ったもんだと感心するくらい。

「じゃ、よろしく。」

「よろしく、たー君。」

「た、たー君・・・ですか?」

「うん、私も名前を覚えるの苦手でねー。」

 どうやらその点は二人共通の要素だったようだ。

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