こうして彼は招かれる。
どりゃあ!と、吶喊した先にあったのは、視線と視線と視線。
そればかりが拓弥に向く。
折角、必死に上げた気力ゲージもすとんっと下がりきるくらいに。
「今日から転入する事になりました、月臣 拓弥です。宜しくお願い致します。」
知っている。
こういうのは、初っ端で舐められるとロクな事にならないのだ。
(学園ドラマの典型的なパターンだよな。)
知識の仕入先はともかく、この奇異な目線をどうにかしたかった。
しかし、"美メガツン"こと生徒会長ですら、興味を持つくらいのタイミングでの転入だ。
そんな目を向けて来るなとは言えない・・・。
「はいはーい、転入生君、こっちこっちー!」
静まり返った教室の中で、一際高く可愛い声が上がる。
「転入生君って・・・今、自己紹介したのに・・・。」
小さく呟きながら、声のした方へと視線を向ける。
視線を向けたのは拓弥だけでなく、教室中の視線も一緒に移動したのだが、それをものともせずに手を振っている少女がいた。
「こっちだよー!ちっちゃいけど見えてるよねー?」
確かにちっちゃい女の子が、金色のツインテールを揺らしながら自己主張してるのだが。
(ここはスルーした方が目立たなくていいのだろうか?)
女の子がどれほど可愛かろうが、何だろうが、拓弥には一切関係ない事だった。
大事なのは、無駄に目立たず、無駄に主張しない。
「こっちの席空けてあげるから、座りなよー。」
「待てぇいっ、オマエはワイにどけつぅのかぃ!」
「アスカは黙ってて。」
金髪の小さい少女よりは、少し背の高い金髪少年が声を荒げる。
背の高いといっても、平均的な男子の身長よりは少し低いだろうか。
拓弥もそれほど高身長というワケではないけれど。
「というか、黙って少しズレなさい!」
女の子が少年を蹴り飛ばして、無理矢理スペースを空けさせる。
スペースを空けたというより、少年が椅子から転げ落ちたとも言う。
「いや、そこまでして席を譲ってくれなくても・・・。」
流石に目立っちゃうから。と、言葉を続けたい気分だった。
「あははん、気にしない気にしない。この時期に転入生なんて珍しいからさ、お話とかしたいのよー。」
「僕はパンダか何か?」
「つか、パートナーを蹴り飛ばしておいて、本音はソレかい!」
金髪の少年が流暢な方言で突っ込みを入れる。
どう見ても純粋の外人が、喋る関西弁モドキは違和感がありまくりだ。
仕方なく拓弥は、渋々彼女達の席に近づく。
「やったー、本当に来てくれたー。」
「自分で言ったくせに。」「自分で呼んだんやんけ。」
速攻で二人で突っ込む。
ちょっぴり男の方には、好感というか親近感が湧いた。
「あはっ、ごめんね。許してにゃん。」
両手を合わせて謝る少女のツインテールが揺れる。
「可愛いから許ス。」
「やたー。」
「許すんかいっ!」
ちょっぴりニヤリとしていた自分がいる事に拓弥は気が付いた。
ともかくやりやすい。
反応が判りやすくて。
「で、座っていいのかな?」
パートナーでなければ、早めに知り合いを作って、学園の事を教えてもらうのがいい。
(会長に昼寝の場所教えてもらわなかったしな。)
そんな邪な心半分で。
でも、この少年少女はパートナー同士だから、大した問題にはならないだろう。
「うん、いいよん。」
「しゃあない、ええわ。」
「ありがとう。さっきも言ったけれど、僕は月臣 拓弥ね。」
「私は、ファオリャン・D・エルンスト。」
女性としては身長が低く、身体つきも幼く感じる。
髪は金髪で、瞳の色は翡翠色なのは会長と同じだ。
ただ、会長の金髪の方が少しオレンジっぽく、彼女の方が黄色っぽい。
「"カリン"って呼んでね。」
「か、かりん?」
今の自己紹介の何処にそんな要素があったのだろう?
思わず首を傾げてしまった。
「あぁ、漢字でね、花に鈴って書いて"ファオリャン"て読むの。発音難しいらしくてね。特に"ファオ”って部分が。」
なるほど、彼女は中華系の血もどうやら入っているらしい。
彼女曰く、英語圏の人には、ファオもシャオもチャオも一緒に聞こえるそうだ。
「花に鈴だとカリンって日本語で読むでしょ?」
「うん、確かに。」
納得。
「だからそれで、ね?」
「わかったよ、花鈴。あぁ、でも。僕、人の名前と顔を覚えるの苦手だから・・・。」
「あらら、まぁ、流石に隣の席なら覚えるでしょ。」
「うん、まぁね。」
そこまで間抜けではない。
実際問題、今の拓弥は、彼女の名前を簡単に覚えられる気がしていた。
カリンの笑顔と声は、まるで花と鈴を彷彿させるものだったから。
思わず、名は体を表すとは良く言ったもんだと感心するくらい。
「じゃ、よろしく。」
「よろしく、たー君。」
「た、たー君・・・ですか?」
「うん、私も名前を覚えるの苦手でねー。」
どうやらその点は二人共通の要素だったようだ。