こうして彼は訪れる。
学園の出だしから長いな・・・コレも予期せぬ生徒会長のせry
会長の説明は簡潔明瞭だった。
次々と学園の施設を説明していく。
大半は、高等部以上のカリキュラムに入らないと使わない施設だったので、省かれてはいたが。
拓弥自身もそこまで熱心に聞きたいワケじゃなかった。
正直、食堂と図書室と昼寝に最適な場所がわかれば充分だった。
もっとも、会長が昼寝の場所の世話までしてくれるとは思ってはいないが。
この学園では生徒の個人情報等の機密を守る為に様々な規則を設けている。
勿論、違反した際の処罰もあるのだという。
そんな学園生活の中で、完全に生徒に任されている自由な事も存在する。
「その筆頭に位置するのが、"選択の自由権"よ。」
もっとエロい(眼鏡エロ属性的な?)お姉さんちっくに言ってくれれば、しっかり聞いても良かったな。
という気力ゲージが下がりっぱなしの拓弥は思ったが、そこはしっかり説明しているので聞かないとマズい。
ぶっちゃけ、綺麗な女の人に睨まれるのは嫌だ。
この"選択の自由権"というのが、マイトとキャスターのパートナー選びという事らしい。
「その為の中高一貫の校舎という事ですか?」
困った事に二つの人間の出力を安定させる方法が、相性という曖昧模糊なモノに頼っている。
だが、この方法も一定以上の結果を残しているらしく、未だにこれに取って代わるモノはあまり無いらしい。
「一応、身体検査の時に特別な項目を追加して、目安を設けてはいるわ。」
「ん?でも、僕、そんなの受けてないですよ?」
半ばなし崩し的、且つ強制的にこの学園に来させられたのだから。
そうじゃなければ、誰が好き好んでこんな場所に来るというのだろう。
(あ、一人、身近にいたか・・・。)
もう思い出してもイライラするだけなので、しっかりとは思い出さないようにした。
「これから受ける事になると思うわ。」
また面倒な事が追加されたので、更にぐったり。
「パートナーを決めないと、実技の授業とか余りに身に付かないし、最優先事項ね。」
それは授業をサボれる口実になるのでは?!と現金にもゲージが上がる。
「自由権があるのに最優先事項・・・。」
すごく矛盾を感じはするが。
「言いたい事もわかるけれど、本来ならこんな時期に余り人は来ないから。」
基本的にマイトもキャスターも適性検査を毎年受けて学園に来るので、拓弥のようなタイミングで入学はしない。
つまりは既にほとんどの人間が、パートナーを決めているという事だ。
(今、ちょっぴり会長のパートナーが気になりました。)
だって、こんな"美メガツン"(美人眼鏡ツンツンの略)に釣り合う相手なんて、気にならない方がどうかしている。
きっと大海の如き大らかな人に違いない。
断言だって出来るだろう。
しかし、ここで不用意に聞いたりして眉間に皺を寄せられても困る。
彼の本能がこの人"も"基本的に逆らってはいけない人だと警告し続けていたから。
「パートナーがいないマイトって、どれくらいいるんですかねぇ?」
帳が連れて(侍らせて?)いた女性達の事もある。
実は、現在の学園の世代はキャスターよりもマイトの比率の方が多いんじゃないだろうかとも一瞬過ぎった。
「さぁ?」
「さぁって・・・。」
神経質なデータ派タイプに思えた彼女の答えとは思えない反応。
「パートナーと言っても、恋愛と同じように別れたりくっ付いたりするから。」
より安定した数値を求めて別れる事もあるわけだ。
「ただ恋愛と違うのは、男同士・女同士もアリってコトかしらね。」
ん~っと指を顎にあてて呟く。
彼女の下唇と顎の間に小さなホクロがあるのを拓弥は発見しながら、溜め息をつく。
「恋愛でもありますよ、その組み合わせ。」
小さく極小さく呟いた。
「え?」
「いや、何でもありません。」
不用意なコトは言わないようにと堅く誓ったのに、思わずポロリとこぼれてしまった。
もしかして、もしかしなくても突っ込み属性があるんだろうか?とかも思った。
「ともかく、パートナーを早く得る為にも学園に馴染まないとね。」
(パートナーねぇ・・・。)
正直、そんなものは欲しくもないと思ってはいるので、完全スルーだ。
女性のマイトはマイトで扱い難くてともかく面倒そうだし、男性は男性で年がら年中つるむのも気持ち悪い。
というか、普段のバイト先以外ではほとんど一人でいた自分に今更誰かと四六時中一緒にいろというのが無理だ。
(鬱とかになったら、シャレにならんよなぁ。)
「ここが貴方の教室よ。クラスはA~Eまであるわ。A・Bは選抜クラスね。」
当然、拓弥のクラスはAでもBでもなくD組だった。
「実技は習熟度別になるから、間違えないように。」
大丈夫?と忠告した美メガツンは、意外と可愛いと思えるトコもあって・・・。
「会長。」
「何?」
「色んな経験を経て、鬱になりそうだったら相談に乗ってください。」
「あら、お安い御用よ。」
思わず口に出てしまってから後悔した。
拓弥的には、誰とも関わりたくない気持ちが満点だったのに・・・。
言った後に後悔。
(いや、言う前に後悔は出来ないか。)
心の中で舌打ちしつつも、自分から近づかない限りこの人と会う事はないだろうと思う事で流すとした。
「思ったより、可愛い事を言い出すのね。もっと図太い人だと思っていたわ。何せこんな時期に転入してくるくらいだもの。」
自分、思いっきり繊細というか、臭いモノには蓋をしろ、或いは事勿れ主義ですとは言い出せなかった。
「それじゃあ、機会があったらまた。」
涼しげな視線を拓弥に向けた後、"美メガツン"は去っていった。
「・・・"美メガクー"(美人眼鏡クール)の方が良かったかな。」
あとに残された拓弥は、茫然自失状態で教室の扉の前にいる。
この扉を叩いて返事があって、入室して挨拶をしたら・・・本格的な学園生活が始まるんだ。
「もう逃げられない・・・か・・・。」
既に学園に来た時点で逃げられないのだが。
一人取り残されると、どんどん憂鬱になってくる。
あんな切れるように怖いクールな会長でも、まだ緊張を緩和する効果があったらしい。
ともかく、またここで頭を抱えてうずくまっても意味が無い。
それは判り切っている。
「えぇいっ、ままよ!」
何の対策もないまま、拓弥は扉をノックして返事も聞かずに教室に飛び込んだ。