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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
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こうして彼は問われる。

 目の前でプリーツスカートのお尻が揺れている。

そして、そこからスラリとした生脚は生えていて、白いニーソックスに到達。

思春期の男の子だったら、ここでドギマギしているはずの少年拓弥は萎えていた。

(何の罰ゲームなんだろう・・・。)

 ダラダラと学園生活をスルー気味、無気力に過ごし切ろうとしていた矢先の変な称号。

学園長曰く"鬼の孫"

このネーミングセンスには、同じくネーミングセンス皆無の拓弥も驚いた。

というか、精神に絶大なダメージを背負った。

「はぁ・・・。」

「どうかした?」

「い、いえっ、緊張の連続で。」

 スタイルは早苗に似ている美貌の女性。

だが目の前の女性は、きっと芽衣からデレデレモードを完全に消し去ったタイプだと直観している拓弥は何とか誤魔化した。

ただでさえ機嫌が悪そうに見えるのにこれ以上悪くされても困る。

「そう。」

「あ、あの、会長は一体"どちら"なのか聞いてもいいですか?」

 要領を得ない質問のようだが、この学園ではコレで話が通じる。

「聞いてどうするの。」

「いえ、あの、周りに自分以外でそういう存在って、今迄居なかったものでつい・・・すみません。」

 と、完全に瑞穂の存在を忘れきって言い放つが、この質問に瑠璃会長の眉間に皺が寄る。

(ヤベ。)

 機嫌を悪化させたのかと、黙り込む拓弥。

「あなたはどちらだと思う?」

「え?"マイト"だと思います。」

 即答した。

こういうタイプは即答しなければ、怒られるという変な思い込み。

「どうして?」

「え?」

「どうしてそう思うか聞いてるの。」

 ほら、キターッ!と心の中で絶叫+大泣き状態に陥る拓弥。

昔から無気力で不真面目度MAXに見える拓弥は、こういう生真面目だったり責任感が強いタイプと相性が悪い。

だから今までの人生だって、そういう人間にはなるべく近づかないように努めてきたのだ。

「あ、なんとなくで・・・その、会長のイメージが繊細で芸術肌なタイプに見えたので、創造性ある"マイト"かなぁ・・・なんて。」

 顔色を伺いながら、小動物のように答える。

「・・・そう。」

 一瞬、思案顔になったかと思うと一声出して、また拓弥に背を向けて歩き出した。

(結局、どっちなんでしょうか・・・会長さん。)

 頷いただけで、全く質問に答えてもらえなかった拓弥は精神にまたダメージ。

本当に自分がこの学園でやっているのかどうか、初っ端から躓いている状態で不安しか見えてこない。

「君は、確か"キャスター"なのよね?」

 ふと、背を向けたままで瑠璃が聞いてきた。

「一応、そういう事らしいです。」

「これはずっと議論されているんだけれど、"マイト"と"キャスター"。どちらが重要だと思う?」

 キャスターがいなければ、マイトはただの人間と変わらない。

かと言ってマイトがいなければキャスターは、ちょっと腕の立つだろうただの人間と変わらない。

あくまでもこの二つが組み合わさって、絶大な力を発揮する。

では、どちらのが重要で格上なのだろうか?

ある者は人数の少ないマイトを上だとし、ある者は前衛に立ち続けるキャスターを上とする。

ずっと言われて続けている議論なのである。

「どっちも。」

 こういう質問は完全なる愚問だと拓弥は思っている。

会長との会話はなるべく脳みそ高速回転で即答しようと試みているが、こればかりは何も考えずに答えた。

「どっちも?」

「不必要。何ですか?その卵が先か鶏が先ってのは?どちらも食料で変わりないでしょう?」

「食料って・・・。」

 瑠璃が拍子抜けしたように歩みを止め振り返る。

早苗にスタイルが似ていると思った拓弥だったが、一部を除いてという事に気づいた。

大きさが遠慮がちというか、ささやかだった。

「議論自体がまず変じゃないですか?どちらも食料っていうのと同じように、どちらも人間でしょう?」

 下らな過ぎて言葉を続けるのもダルかった。

こんな議論が出てくる世界だからミスターナルナルみたいなヤツが出るんだと、彼の高らかな笑い声を思い出してまたぐったり。

「人間なら能力に差異があるのは当然。それなら人間的にどちらが格上なんて言い切れないでしょ?長所と短所あって比較規準もまちまちだし。」

 単純にマイトもキャスターも個性・個体差の延長線上にあると仮定すれば、拓弥にとってかけっこが遅い早いと同じレベルだった。

「一言で答えろって言われたら、ナンセンスかなぁ。今迄で聞かれた質問の中で1,2を争うくらいに。」

 大体そんな答えが見えぬ議論を延々と交わす事が、もはや拓弥にとってはエネルギーを無駄に使う疲労の根源にしかならない。

よく皆そんなので白熱できるなと思う。

「貴方、面白い事を言うのね。ちなみにナンセンスな質問の1位を聞いてもいいかしら?」

 まさか、瑠璃の側から興味を持たれると思っていなかった拓弥は一瞬戸惑った。

目立ちたくないし、どうせならこのまま一回会っただけで記憶から消去して欲しいくらいなのに。

(僕の馬鹿・・・。)

 かと言って答えなければ、また眉間に皺を寄せて睨まれたりする。

自分はカエルか!と思わず突っ込みを入れたくなるくらいに。

「・・・"カルネアデスの舟板"。」

 渋々答えた。

「なるほど。」

 拓弥の答えを深く突っ込まずに理解したという事は、彼女も哲学者カルネアデスを知っているという事に相違なかった。

が、拓弥としては正直、哲学者全般が嫌いというか苦手であるというのが本音だったりもする。

そう言えば哲学ではないが、昔に瑞穂に"シュレーディンガーの猫"の実験話をした時を思い出した。

彼女の感想は一言『猫が可哀想。』だったのを思い出して、自然と笑みがこぼれる。

「確かに、議論以前の問題ってとこは合ってるな。」

 ぽつりと呟いた後、笑っている自分にイラっとし出す拓弥。

精神的ダメージが少し回復しているのが更に癪に障る。

「君はこの学園での生活が、少し大変そうね。」

「へ?」

「ここに入るきっかけも、キャスターとの喧嘩だって聞いているし。」

(誰だ喋ったのーっ!!)

 マイトとキャスターのデータは機密情報なのに個人情報ダダ漏れじゃないかっ!と突っ込みたい衝動に駆られる。

寧ろ、話したヤツを今すぐ記憶を失くすぐらいまで殴りたい。

「あまり問題を起こさないようにね。」

「勿論です。」

 ボディブローを12R撃たれ続けたボクサーのように両手を前に出してくの字になる拓弥。

気力ゲージの程は、もはや態度にまで反映されている。

「何かあったら、私の所にいらっしゃい。貴方とは意外と話が弾みそうだから。」

「弾んでましたか・・・今の会話・・・。」

クスリ。と涼しげに微笑む瑠璃にグロッキーな拓弥。

周りからはまるで"お嬢様とダメ執事"のような構図にしか見えなかった。

【カルネアデスの舟板】や【シュレーディンガーの猫】の説明は省かせていただきました。

ごめんなさい。

気になる方は、ご自分でお調べ下さい。どちらも有名なので。

ちなみにカルネアデスの舟板は私の書いたものには意外と出てきますので。

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