こうして彼は誘われる。
Ⅱ章、予定外の新キャラを作ってしまった・・・なんでだろ・・・。
校門の横で蹲っていたのはマズかった。
拓弥はそう思っていた。
まさか、"不審物"と間違われて警備員に囲まれるとは思ってもみなかった。
"不審者"ならまだしも、"不審物"である。
同じ"モノ"と読む事もある漢字1文字でもえらい違いだ。
「大体、この学園は不親切なんだよ。」
「何か言ったかしら?」
拓弥の前を歩いていた案内のお姉さんが振り返ってこっちを見ているのに気付く。
「いえいえいえいえ。」
高速で首を振りまくってみたのだが、結局不審者度合いを高めるだけだった。
「あの、僕は何処にまず行くのでしょうか?」
警備員に囲まれる状況から脱出出来たのはいいが、先行き不透明なのは変わらない。
「学園長室ですよ。」
「はぁ・・・。」
まぁ、転入生なんだから、基本は職員室とかそういう所なんだろうなとは思ってはいた。
が、流石、特殊能力を育成する学校。
出だしは、学園長室らしい。
「そこで、何を?」
「軽い説明と挨拶、それと案内をしてくれる生徒がいますよ。」
「あぁ、なるほど。」
確かに、中等部・高等部とあって隣の敷地は大学部やら専門の研究機関やらがあるんだ。
案内がいなければ、即日迷う自信が拓弥にはあった。
(迷うというより、遭難するな。そうなんだ。)
「ぷっ。」
よくわからないが、ツボだったらしい。
「学園長、新入生を連れて参りました。」
拓弥が一人で脳内ダジャレをカマしているうちにどうやら目的地に辿り着いたらしい。
「入りなさい。」
「失礼致します。」
「失礼します。」
初老のように聞こえる(恐らく学園長だろう)人の許可の声を聞いて、拓弥は部屋に入る。
一緒にいたお姉さんは、拓弥を部屋の中へ促すだけで中には入らずに扉を閉めてしまった。
「あ、ども。」
中に居たのは、50代前後に見える体つきのがっしりとした男だった。
顎鬚も逞しいワイルドさとダンディさを兼ね備えている風貌。
学長と思しき男性は、デカくてどっしりとした木製の机の前に座っている。
その机の横の壁際には、金髪のロングの髪を留めた眼鏡の女性が佇んでいた。
「今日より、お世話になる月臣です。」
お世話になるつもりは本当はないけど。と、拓弥は心の中で続けた。
「私が校長の礎だ。君の事は三須摩先生から聞いているよ。」
「みすま・・・?」
何やら聞いた事があるフレーズが、全く知らない男の口から出ると不思議だ。
一瞬何の事かわからなかった。
「みすまって・・・あの三須摩様?」
「どの三須摩かは知らないが、君の言っている三須摩であっていると思うよ。」
折角、頑張って緊張に耐えうるだけの気力ゲージを上げた拓弥だったが、校内に入って数分で下がるとは思わなかった。
「何で・・・。」
「あぁ、三須摩先生は私の学生時代の先生でね。何でも君は三須摩先生にお孫さんのように可愛がられた秘蔵っコらしいじゃないか。」
(話がデカくなってる?!)
何故、こうなった。
拓弥は頭を抱えたい衝動に駆られる。
「いや、確かにお世話にはなりましたけれど、秘蔵っ子ではないです・・・。」
「いやいや、あの"地獄の鬼すら黙らす三須摩"の孫なんてそれだけで凄いぞ。」
「鬼・・・って・・・初耳・・・。」
まさかの設定、まさかの通り名。
あの温和な三須摩の何処が、地獄の鬼すらなんだ?!
叫ばずにはいられない。
何かもが疑心暗鬼になりそうな拓弥。
それと共に気力ゲージは未だに下降中。
「期待しているよ。この学校で大いに勉学に励んでくれたまえ。学校に関する教材等は既に寮に用意してある。」
悶絶しそうになる拓弥を気にせずに説明を続ける礎。
「今日は自分の教室に挨拶をして、学校の雰囲気に慣れるがいい。学校の案内は彼女がしてくれるからね。」
そう言うと礎は、隣にいる眼鏡の女性に視線を送る。
「瑠璃・マーキスよ、よろしく。」
(ハーフ?)
いかにも真面目そうな女性は、上品に礼をする。
「彼女は、この学園の首席で中・高等部の総生徒会長をしてもらっていんだよ。」
「はぁ・・・月臣 拓弥です。随分と凄い人に案内してもらって光栄です。」
キラリと今にも光りそうな黒ブチの長方形フレームの眼鏡の奥に切れ長の瞳。
少し厳しい感じがする。
瞳の色は綺麗な翡翠色だ。
「じゃあ、早速、いいかしら?」
「お願いします。」
きっと気難しい人で、ご機嫌を損ねたら大変なのではないのだろうかと不安になった拓弥は、即答したのであった。