かくして彼は反抗期に入る。
他作品【花束と笑顔を皇子達に。】も宜しくお願い致しますね。
ぽっかりと浮かんだ雲を眺めながら・・・。
と、情景を見ながらフレーズを考えるのも悪くはないな。
そう彼はぼんやりと思っていた。
ただこの時間が学校の授業中でなければ、もっと良かっただろう。
もっとも、今現在行われている授業科目は、彼の大嫌いなものであるからして、このような状況に陥るのは、少なくとも彼の中では当然であり必然なのである。
「月臣 拓弥くん?外を見ていても歴史は変わらないし、覚えられないわよ?」
案の定、教師に怒られるハメになるのも必然なのである。
それは月臣 拓弥と呼ばれた彼も理解しているつもりだ。
「授業が終わったら、ちょっときなさい。」
そう担当の教師は、二の句を彼に告げた。
(ま、そりゃそーだ。)
教師の言い分も尤もだと認めながら、彼はこの授業をどうにかこうにかやり過した。
心の中で自分は別段、反抗期などではないと強く思いながら。
幸い、やり過した授業は興味がないせいか、綺麗に右から左へ流したので楽ではあった。
「で、どうしたのかしら?」
今日の小言から逃げないでおくのも反抗期ではないという証。
そういう事で、自分で自分に納得する。
「どうしたと言われても・・・。」
「幼馴染がいなくなった寂しさかしら?」
(そうきたか・・・。)
ゆっくりと息を吐く。
「別にいなくなったワケじゃなくて、転校しただけだし・・・それに一生会えないってワケでもないから。」
「そう、ならいいのだけれど。じゃ、コレはどういう事かしら?」
そう言うと教師は、一枚の紙切れを彼に見せる。
どうやらテストの答案用紙のようだ。
勿論、答案なので×やら○やらが赤いインクでつけられている。
但し、何もない箇所がある。
無解答。
そこには何も書かれてなかった。
「あ~、歴史って苦手なんですよねぇ。ほら、歴史の教科書ってどんどん増える一方じゃないですか。そのせいかどうもやる気が・・・。」
鼻の頭を掻きながら、答える。
「苦手?すっぽり丸々"キャスター"と"マイト"の歴史的部分だけ抜けているように見えるけど?」
教師は、オマエの目は節穴か?と言わんばかりに答案の白紙部分を指す。
その指摘に溜め息をもう一つ。
「嫌いなだけですよ・・・キャスターもマイトも。」
歴史なんて覚えたって、すぐにこういう新しい部分が増えたり塗り替えられたりするから・・・。
「嫌い?素晴らしい変化よ?世界にある人がまだ使い切れないエネルギーを精製する"マイト"に精製されたエネルギーを唯一解放出来る"キャスター"!現代に魔法使いが現れたのと同意義よ?進化が行き止まった感のある人類に新たな進化の道が出来たかも知れないじゃない?」
教師は力説を一通りしたところで拓弥に同意を求める。
「人類の進化が突然変異のように起きたって、それは迫害や差別を生むだけだと思います。持つ者と持たらざる者、生まれながらにそのこまでの格差で決まっているなんて、それこそ一昔前の貴族主義に匹敵する格差と変わらないんじゃ・・・。」
歴史が苦手だとはっきりと公言しておきながら、
拓弥は普段から思っていた事をポロリと言ってしまった。
拓弥の意見を聞いた教師は、呆れ顔でこう呟く。
「やっぱり歴史苦手どころか得意じゃない。」
これには確かに返す言葉を失った。
ポロリとこぼしてしまった自分が悪い。
「あなたはあなたの考えがあるでしょうけれど、気に入らないからと言って全部を切り捨ててしまうのは良くないわね。」
教師はニコリとこう微笑んだ。
「確かに。」
「受け止められるのも大人への一歩よ?」
教師は言った。
切り捨てるという事は、"マイト"と"キャスター"の歴史を幼馴染ごと否定する事だと言いたいのだろう。
それは一理あるし、非常に経験豊かな大人と言えなくもない。
「そうですね・・・先生は、何を受け止めて大人になったんですか?」
「え?!・・・そうねぇ・・・。」
一瞬の間の後、教師は拓弥にこう答えた。
「"現実"・・・かしらね。」
拓弥は思った。
それは"諦め"を受け入れる事と等しいのではないだろうかと。
"現実"を見て、何かを諦めて大人になるだと・・・。
でも、やっぱり拓弥はそんなのは認めたくなかった。
だから、彼は選びたかった。
自分が納得できる現実を・・・。