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いつか君の名を喚んで ~題名のない物語シリーズ~  作者: はつい
第Ⅱ章:こうして彼は一歩を踏み出す。
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こうして彼は想われる。

 朝から、少女の影はずっと窓辺にあった。

授業ごとに、ずっと。

「たっくん・・・。」

 校門の辺りがギリギリ見える窓辺の廊下で、瑞穂みずほは今日何度目かわからない溜め息と少年の名を吐いた。

大切な幼馴染。

そう思っていた・・・どんなに授業が大変でも、訓練が厳しくてもこの数年間、忘れた事などは無かったのに。

ようやく会えた少年は、睨む以外の何の視線も向けてはくれなかった。

「本当に嫌いになっちゃったのかな・・・。」

 学園に帰って来てから、何度もこの考えが浮かんで憂鬱になる。

今まで脳内にあった幼馴染の姿形は、既に現在の少年に上書きされている。

それでも、彼が自分に笑いかけてくれる姿だけが上書き出来ないまま。

「むぅ・・・。」

 どうしたら、彼と話せるのだろうか?

窓辺で今日転入してくるという少年の姿をこうして毎時間ごとに探している。

確実に会える距離まで近づいているハズなのに。

それなのにどうしたら彼と会って話せるのか、具体的なアプローチ方法が浮かんで来ない。

単純にさっさと彼の転入予定のクラスに押しかけて、話しかけてみればいいのだが・・・。

転入生なんて、すぐに噂に上る。

何処のクラスかなんてすぐに判るだろう。

判るのだろうけれど、もし拒絶されたらどうしようとその不安ばかりが募る。

拒絶されたら・・・この学園での生活の全てが無駄になるような錯覚にさえ陥る事だろう。

大袈裟ではない。

「瑞穂。」

「あ、凛ちゃん。」

 幼馴染と離れてから、出来た親友。

文字通りのパートナーの銀髪の少女がそこにいた。

「彼を待ってるの?」

 凛は表情を変えずに瑞穂に聞いて来る。

「待ってる・・・のかな。」

「?」

「待っていても・・・どうしたらいいかわからないの・・・。」

「よくわからないけど・・・それでも待っていたい?」

 凛としては、大事な親友とその幼馴染の絆というものを今ひとつ理解出来ていなかった。

いや入学してからの瑞穂の様子を見ていたから、彼女がどれ程その少年を心の支えにしていたかは知っている。

でも、二人の距離感が実感できていないのだ。

「うん。」

 瑞穂の話しを聞いていて温かい絆のようなものを凛ですら感じていたのに。

今の瑞穂はこんなにも切なそうにしている。

あんなにも心の支えにして、学園を抜け出す程会いたかった少年なのに。

何故?

何故、親友の瑞穂はこんなにも悲しそうなのだろう?

それが凛の心を波立たせていた。

「ごめんね、凛ちゃん、心配かけて。」

 瑞穂は大事な親友に謝る。

凛は、その瑞穂の優しさが大好きだった。

完全な競争社会の学園に来て、未だ優しさを失わない彼女が。

そして、その優しい彼女をこんな辛い思いに追い込んでいる幼馴染の少年が許せなかった。

「私を気にしなくていい。瑞穂の方が辛そう・・・だから。」

 許せない気持ちの大半は、きっと"嫉妬"なんだろう。

確かに学園にいる間、自分は瑞穂の親友だ。

彼女も同じ事を思ってくれているのもわかる。

でも幼馴染の絆は、凛の知らない頂にある。

学園に来てからの瑞穂の事に関しては、自分が一番だと思っているし確信もある。

でも、その幼馴染の絆は学園に来る以前の瑞穂の想いで・・・。

それは自分にとって預かり知らぬ、且つ犯す事の出来ない領域だから。

余計に、その嫉妬心とやらが煽られる。

しかも、今の瑞穂がそれに苦しんでいる。

原因を突き詰めれば、全てその幼馴染の少年が悪いのではないか?

きっとそうに違いないと凛は思っていた。

折角、会いに行った瑞穂をあんなにも冷たくあしらって、何様のつもりだと。

彼女の思考は、嫉妬から怒りに変換されていく。

「そろそろ授業だ。教室に戻ろう。」

 瑞穂の肩にそっと手を置く。

「・・・うん。」

 その手に促されて瑞穂は教室に向かおうとするが、後ろ髪が引かれているのは明らかだった。

「ここに転入してくるなら、何時でも話す機会はある。」

 そう言って、凛は肩に置いた手の力を強めた。

複雑な想いを向けられている少年、拓弥が校門の横で岩のように座り込んでいるなんて夢にも思わずに。

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