かくして彼は矛盾する。
今回とあと1回乗り切れば、学園編ですので・・・(トオイメ)
「たっくん・・・。」
幼い頃、大好きだった男の子と一緒に遊んだ神社。
久々に生まれた街に帰って来て・・・偶然にも幼馴染会えたのに・・・。
「嫌いになっちゃったのかな?」
自分の顔を見るなり彼は逃げ出した。
「私がマイトになっちゃったから、怖くなっちゃったのかな?」
瑞穂は、マイトになるという事がどういう事なのかをこの数年間で思い知らされた。
勉強すればする程、自分が一般人とはかけ離れていく。
頑張れば頑張る程、畏怖の対象になっていく。
本当は、もっと夢や希望があったのに。
「瑞穂?」
「凛、ごめんね・・・もう学園に帰るよ・・・。」
自分を連れ戻す為に追いかけてきた銀髪の少女、凛に微笑む。
「ホームシックは消えたか?」
凛は自分と会うのに数日を要した。
優秀な凛にしては、時間がかかり過ぎだ。
それは自分の為に与えられた凛の優しい時間だというのは、わかっていた。
「結局、マイトの事を理解出来るのはキャスターだという事だ。」
凛はそう呟いて、瑞穂の肩を抱いた。
「その通りだ!」
「?!」
瑞穂とは違う声が返事をする。
声のする方を見てみると何人かの影が見える。
「優秀なマイトには、優秀なキャスターが居て真の価値が発生するのだよ!」
3人の女性を侍らせた男。
「例えば!この帳 洵のようなね!」
「帳!」
凛が鋭い目を更に鋭くしながら叫ぶ。
「おやおや、先輩を呼び捨てにするとは何と礼儀をわきまえない人間だね。」
藍色の髪をオールバックにした青年が、チッチッチと指を振る。
その視線は完全に凛を蔑む目だった。
「やはり、こんな人間よりも瑞穂さんには私が一番相応しい!」
「あの、帳先輩・・・私は凛がパートナーですので・・・。」
「何を言っている!君は私の斜め後ろにいる事が相応しいのだよ。」
凛は歯を噛みしめて帳を睨む。
「何が相応しいだ!人の弱みを握って侍らせてる分際で!」
「なんと?優秀な人材を手に入れるのに手を尽くすのは当然の事だろう?キャスターとしての力を上げる為に!」
「あー、まぁ、どうでもいいけどさ。近所迷惑だってここの神主さんから苦情が来てるんだよね。」
睨み合いが続いている二組の間から、人影が現れ緊張感の欠片もない声が投げかけられる。
「たっくん!」
拓弥はチラリと瑞穂を見た後、すぐに目線を逸らす。
「あ・・・。」
しゅんとなる瑞穂。
「き・い・て・る・?近所迷惑。お陰で僕が神主の三須摩様に叱られたじゃないか。」
実際は瑞穂達が言い争いする前に三須摩から連絡があったので、そんな事はなかったのだが。
第一、三須摩がその程度で怒るワケもない。
「ふむ。これは神聖な神社で無粋な事をした。おや?」
帳は拓弥の横にいる少女に気づく。
「雨音。キサマ、私の命令も遂行せずにそんな所で何をしている?」
呼ばれた雨音は、急いで帳の横に駆けつける。
「す、済みません。帳様・・・。」
(むっ。)
雨音と帳の様子に拓弥は何故かむっとしているのに気がついた。
彼女は彼女なりに一生懸命やろうとしていたハズだ。
無一文状態になっても。
「まぁ、いい。手っ取り早く私の素晴らしさを見せてあげよう。アース・ワン!」
帳が叫んだ瞬間、凛はすぐさま瑞穂を見る。
「瑞穂!」
「-くゆりくゆり・・・たまゆらのごとく・・・-」
瑞穂が手を合わせ、言葉を紡ぐ。
その手に一枚の符が精製されていく。
<そう世界には、世界の種が溢れ、人は種に命じる・・・我が手に集えと。>
文字数・言葉の意に籠めた力で空気中にある物質に働きかけ、それを精製するのが"マイト"
「帳様。」「凛!」
精製された物質を認識・掌握し、同じように文字数・言葉の意でそれを増幅・放出するのが"キャスター"
「エクセレント・ウィール!」「阻め!アギトッ!」
片や輪型の岩石の塊、片や鋏のような水の顎が激突し合う。
マイトが精製した力を攻撃に使うか、防御に使うかはキャスターの言葉次第。
今回は帳が攻撃・凛が防御だ。
「くっ・・・。」
激突する二つの衝撃に凛が片膝をつく。
「例えこちらのマイトが劣ったとしても、キャスターとしての力は私が上だったようだな。」
力の優劣は、それぞれが一文字で動かせる力の量の差になる。
よって、文字数が多ければ多い程、言葉の意味が強ければ強い程、効果が高い。
互いに同程度ならば、前述した一文字につき動かせる力の量の差だ。
これはマイトもキャスターも共通だ。
「あのさ・・・だから、近所迷惑・・・。」
拓弥は二人の間に入り、帳を正面に呆れたように睨む。
「聞いてる?ミスター?そして銀パッツン。」
大体において、市街地での力の行使なんて重度の違反行為だ。
「何を言っているのだ?一般人!この私の能力の一端が見られるなど滅多にない事なのだぞ!」
「興味ない。」
瑞穂は瑞穂でオロオロしてるし、雨音は雨音でオロオロしてて、銀パッツンは睨んでくる。
ミスターナルシスト略してミスターナルナル(拓弥命名。そして余り略せてない。)に至っては人の話も聞きやがらない。
正直、萎えていた。
「瑞穂も勝手に抜け出して、ノコノコこんなトコまで来て友人に迷惑かけて何やってんのさ。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
それでも拓弥は瑞穂に背を向けたまま目を合わせない。
「謝る相手が違うでしょうが。それに痴話喧嘩はよそでやって。僕も迷惑だから。」
折角、君がいなくてつまらなくて面倒だけれど、そこそこ平凡な日常だったのに。
ばっさりと切り捨てた拓弥に瑞穂はしゅんとする。
「痴話喧嘩なんかじゃ・・・。」
それでもその手の誤解は解きたかったらしい。
「興味ない・・・だと?なんたる屈辱!雨音、ウォーティ・ワンだ。」
どうやら、雨音はマイトらしい。
とすると、帳の周りにいる全ての人間がマイトなのだろうと拓弥は推測した。
理由は簡単だ。
さっきと呼んでいる人間・属性が違う。
マイトの精製出来る力には、得手不得手の属性が存在する。
それをカバーする為の人海戦術だ。
ただ稀少なマイトをあのように侍らすなどというのは、余り聞いた事ない。
「あの、帳様、一般人を巻き込む可能性の発動は如何なモノかと・・・?」
雨音が帳を諌めようとした瞬間、彼は彼女の頬を平手で叩く。
「私に指図するな。オマエの能力を買って、父親の借金を肩代わりしたのは誰だ?」
『そうなる事でしか、家族を守れなかったから』
拓弥は彼女の言っていた意味を知った。
途端に自分の気力ゲージが急上昇するのがわかった。
「もういい!力量の差は見えた。もう一度、アース・ワンだ。」
「瑞穂、こちらももう一度だ・・・そこの一般人!私の後ろへ!」
凛が苦痛に呻きながら拓弥に声をかける。
先程の女性と瑞穂は既に精製に入っている。
精製を始めるのは瑞穂の方が遅かったが、完了するのはほぼ同時だった。
これで籠められた力が同じか、瑞穂が上ならばそれはイコール瑞穂が格上という意味だ。
「凛!」
精製した符を受け取ろうとした凛の身体がバランスを崩す。
戦闘における、恐らく致命的なミス。
符が宙を舞い・・・
「エクセレント・ウィール!」
帳の声が響き渡る。
次回!ようやくⅠ章完結! 果たして学園編に入れるのか?!