かくして彼はまどろむ。
いやぁ、また会えましたね、良かった良かった。
綱渡りなのも、自分の文才の無さなんですけれど・・・元々無いんですがね。
身体の痛み。
それで拓弥は目を覚ました。
「あぁ・・・そうか。」
ぺきぽきと身体の骨を鳴らしながら、昨日、気力も体力も0状態で何度目かの逆ギレで少女を泊めた事を思い出していた。
『今回は襲わないでいてアゲル。』の言葉通り、完全爆睡していたようだ。
身体のアチコチが痛い。
気付くと毛布が一枚、自分にかけてある。
昨日の少女がかけてくれたのだろうか?
(もういないか・・・そりゃそうだよな。)
正体不明の男の家に泊まる事自体有り得ない事なのだから。
「おはようございます。」
「?」
ぬぼぉっとしたまま、その声を聞く。
聞き流す。
「お目覚めですよね?おはようございます。」
「はぁ・・・。」
目の前に純白のワンピースの少女。
「何でまだ居るかなぁ・・・。」
拓弥的には今日は今日で、一日切り替えて過ごしたかった。
昨日が散々だっただけに。
「え?」
思わず出てきた言葉が予想外だとも言わんばかりの表情をされた。
(なんなんだ・・・。)
そう言えば、昨日彼女に道を改めて教えるとか何とか言ったような・・・。
だからと言って、知らない男の家に居続けるというのはどうだろう?
それが正直な感想だった。
「はぁ・・・君は本当、お人好しだね・・・言われない?」
がっかりだ。
溜め息を一つついて、洋服ダンスの引き出しを引く。
「・・・とりあえず、シャワーでも浴びてきたら?これ着替え。」
適当にGパンと大きめのニットの上を投げつける。
「あの?」
「僕はもう少し現実逃避するから、出たら教えて。」
そう言うと拓弥は聞く耳持たずといった状態で、ずるずると布団に向かうと横になった。
仰向けになっただけで、関節がビキビキいっている。
現実逃避=二度寝。
動かなくなった彼を確認すると、仕方なく少女は着替えを持って浴場を探した。
小さい頃。
それが当然の事のように彼女は自分の隣にいた。
何時も自分の横に。
何処に行くのにも一緒で、コイツは自分がいなければダメなんじゃないかと思うくらい。
兄妹に間違われた事なんて、数え切れない程ある。
一度、何も言わずに男友達と外が暗くなるまで遊んだ事があった。
たまにはそういう時があってもいいと思っていたから・・・。
家に帰った時、玄関前で泣きはらした彼女を見た時は困った。
"コイツは俺がいないとダメなんだ。"
『しょうのないヤツだな。』
笑いながら、彼女を必死に慰めたものだった。
『たっくん、私、転校するね。』
その一言を聞いた時、どれ程に衝撃を受けたか。
そんなに"マイトの道"の方がいいのか?
オマエは力がそんなに欲しいのか?
最初はそう思った。
途中からは、自分と彼女はそれだけのモノだった。
自分が感じていた、思っていた事はただの自分の思い込みで、彼女は自分の事なんか何とも思っていないんだと。
"裏切られた"とまでは思わなかった。
ただ自分は、"選ばれなかった"だけだと。
単純に彼女は、自分よりもより未知でスリルがあって未来のある"力"を選んだ。
それだけのコト。
納得すると早かった。
彼女が自分に寄りかかっていたのではなく、自分が彼女に寄りかかっていただけ。
それからは全てが面倒で、馬鹿らしくて、滑稽で、自分が情けなかった。
"力"なんて大嫌いだ。
そんなモノがあるから、こんなコトになるんだ!
「ふざけるなッ!」
「キャッ!」
目の前に尻餅をついている少女。
「・・・全く、夢まで散々だ。」
拓弥はすぐに現実を把握して呻いた。
そして、じぃ~っと少女を見詰める。
たっぷり数十秒。
「全然似てない。」
「はい?」
「全く、これっぽちも似ていない。寧ろ、君のが美人、うん。」
夢までロクデモなかった拓弥は、目の前の女性が幼馴染に似ているから助けたという路線を消した。
精神的安定を得る為に。
「うんうん。じゃ、地図の場所に行こうか。途中でおにぎりか何か買って。」
シャワーを浴びて着替え終わっている少女に今度は、スーパーのエコバックを渡す。
「脱いだ服は、ここに入れて持って行けばいい。」
彼女の意見は聞かない。
聞いたとしても全部却下。
きっとイライラするだけだから。
あんな夢を見なければ、もっとマシな扱いは出来たのかも知れないが。
「大丈夫ですか?うなされていたみたいですけど?」
「あぁ、あのね・・・君と僕は他人。気にする必要ないよ。」
結局、イラだってまたこんな言葉を吐いてしまった。
目的地に早く着きたくて、彼女の返事も聞かずに家を出て、おにぎりを買い、ずんずんと歩く。
ずんずんと言っても、彼女の歩幅に合わせてだ。
昔から自分についてくる幼馴染がいたから、その辺りは無意識で出来るようになっていた。
「それよりも、あんな場所に行って何を探すんだか・・・昨日は言ってなかったけど、あそこ更地だよ、今。」
「え?!そ、そうなんですか?」
「うん。3年くらい前から何もない更地。」
困ったような顔をして、拓弥の事を見詰める少女。
「ま、いいけど。何を探してるのか知らないけれどね。」
大体、行った事ない場所に探し物を見つけに行くという理由自体、胡散臭いのだから。
「はい、連れて行ってください。」
どうせあと10分程したら、この少女ともお別れだ。
目的地についたらそれでお終い。
そう考えると楽チンだった。
あとは無言で歩いていく。
10分の無言もそんなに苦ではない。
そういえば、無言で女の子と一緒に歩くなんて。
(思い出してどうするのさ。)
全く以て、非生産的だ。
「そこの角を曲がった所が地図の辺りかな。」
指をさしながら角にさしかかり曲がる。
「ほら、そこだよ。」 「たっくん・・・?」
次回!怒涛の急展開!・・・だといいなぁ・・・。