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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第49話 モブサブの盾作り!

 一人工房に入り、ケイン達と集めてきた素材を広げる。群青色をしたサーペルムの皮に虹色の年輪があるマギニカの樹木、淡い青色の潮風草と、瓶に入ったマイマイマリンの粘液、そして、エレメンタートルの宝石甲羅。加えて手持ちの素材のいくつかを使って、四人分の装備一式を作る。


 一番時間がかかるのは、エレメンタートルの宝石甲羅の加工だな。これはケインの盾になるから、特に念入りに加工したい。


 よし、宝石甲羅の加工を軸に隙間時間で他の作業を進めていこう。時間は一日もないからな。効率よくやらなければ。


「まずは、炉にマイマイマリンの殻の粉末を加えて火を入れる」


 エレメンタートルの甲羅が持つ属性の力を保ったまま加工するための安定剤だ。理屈は分からないが、昔誰かがエレメンタートルの甲羅を分析してコランダムに近いものだと言っていたから、化学的な反応も関わってるんだろう。それとファンタジーなあれこれ。


 まあ、そのレベルで解明するのは俺の仕事ではない。そういうのは学者に任せ、解明された知識と経験を使ってモノを作るのが鍛冶師の生業だ。


「黄色みがかった白い炎……。よし、こんなものだな」


 十分に温度を上げた炉に目的のサイズより少し小さめに切り出した宝石甲羅を放り込み、しばらく熱する。この間に潮風草をマイマイマリンの粘液を溶かした水に漬け込んでおけば、次に手が空くタイミングには糸への加工ができるようになってるはずだ。


「三人分なら、これだけあれば十分か。いや、ケインの装備にも少し必要だし、いつかまた使うかもしれん。手持ちは全部加工してしまうか」


 どうせ他に使い道はない部分だ。花や根はポーションなんかに使うこともあるが。


 甲羅は、まだもう少し熱する必要があるか。なら染料やら薬剤やらの用意も進めよう。この質で装備の性能も大きく変わる。本来なら専門の職人が作ったものが欲しいところだが、今の環境じゃ無理だ。入手できる素材のランクのせいで職人も育っていない。


 その辺りは、フィールドでより強力な素材が手に入る先の世界に期待だな。


 なんて考えつつ、錬金術師のスキルを駆使して効果付与(エンチヤント)用のインクを合成する。主な原料は煤に(にかわ)、それから竜種の血と魔石を砕いた粉末だ。それに付与効果に合わせた諸々を混ぜる。


「……やっぱり髙品質止まりだな。最高品質には遠い。が、まあ仕方ない。今の装備ならこれでも十分以上だ」


 高品質でももう二ランク上くらいまでの付与効果なら十分だ。


 甲羅の方は、良い感じになってきたな。ここからは目を離さずタイミングを見計らわなければ。


 鍛冶師として鍛えられ、パッシブスキルとして形を為した技能を十全に使い、最適の温度を見極める。瞬きもせず、息を忘れるほどに集中して、目当ての色に変わるのをじっと待つ。


 ――今っ!


 素早くとりだして金床に移し、鎚を振るえば、カンッ、カンッと金属同士を打ち合うような甲高い音が鳴る。腕に振動が伝わる度に甲羅は形を変え、手に持ち敵の攻撃を受けるに適したものとなっていく。


 こうして形状を整えるだけでもそこらの盾を凌駕する性能にはなる。だが、それでは足りない。相手は悪魔族で、スタンピードだ。大迷宮の更に先だ。そこらの盾の性能は凌駕して当然。もっと上を目指す必要がある。


 甲羅の発する光、肌に伝わる熱、叩く感触、感じられる全てに集中し、鎚を振るう。温度が下がってくれば再び炉に入れて熱し、そしてまた甲高い音を響かせる。

 完成したときに最高の性能を発揮できる力加減を維持しながら、この作業を何度も何度も繰り返す。


「『状態半固定』、『急冷』。……ふぅ。ここまでは良し」


 この素材の出せる性能としては最高。俺の鍛冶師レベルなら当たり前だが、それでもやはり、ミスをすることもある以上多少の緊張はする。


 問題は、次の作業。効果付与だ。

 これは付ける効果によって専門が変わる作業だが、どの場合でも鍛冶師はその専門家になれない。今からやるのは本来なら、細工師の領分だ。


 これが素材特性を活かすなんて話なら鍛冶師の領分には違いないんだが、ともかく、得意分野から外れる作業、つまりは失敗の可能性がある作業となる。


「刻む紋様は、表面がこれと、これ。裏面には、この三つだな」


 細工師のスキル欄から『付与刻印』を選択し、紋様の一覧を呼び出す。それを手本に、間違いの無いよう、盾型となった宝石甲羅へ鉛筆で下書きをする。


 そして慎重に、かつ素早く、彫刻刀で下書きをなぞっていく。深すぎてもいけない。浅すぎてもいけない。細すぎても、太すぎてもダメ。理想から極力離れないように、均等に線を刻む。


 そうして一時間以上かけて、裏表の両面に付与効果を生み出す刻印を彫りきった。


「はぁぁ……」


 大きく息を吐けば、肌着が汗で張り付くのを感じる。呼吸をするたびに肩も上下させてしまっていて、そうとうに集中していたのだと自覚した。


「九十五点、ってところだな」


 自分の作った武器に効果付与をしたい関係上、細工師と錬金術師は鍛冶師以外の生産職では一番育っている。それでも完璧には至らない。

 この装備なら問題ないが、伝説の剣を作るとなったら足りないだろう。精進するか、腕の立つ専門家を探すかする必要があるな。


「思考が逸れたな。付与インクを流し込んだら休憩がてら布装備の方を進めるか……」


 まだ三時間程度の作業のはずだが、やはり専門外を含めた複数作業を並行して、それも本気でやるとなるとかなりの集中力を消耗する。時間は無いが、焦って失敗しては意味がない。休憩を挟んで精度を上げる方が、結果的に早く進むだろう。


 作業計画を更新して、深呼吸を一つ挟む。それから先ほど作ったインクを筆を使って流し込んでいく。

 この作業ははみ出しても拭けば済むから気楽だ。ムラが無いようにだけ気を付ければいい。


「これでよし、と。……定着するまでは、一時間ちょっとか」


 思ったより早い。パッシブスキル、『職人の神眼』で確認した時間だから間違っていないはずだし、何か要因があるんだろう。


 考えられるとすれば、この工房内の魔力濃度か。それとインクに使った煤も怪しいな。魔力濃度の高い中で出た煤なら、普通より多くの魔力を含んでいてもおかしくない。今度検証してみるか。


 まあ今はケイン達の装備作りが優先だ。


「潮風草は、うん、いい具合だな。これなら俺のレベルでも十分いい布が織れる。『製糸』発動」


 十分に繊維の解れた潮風草がスキルによって浮き上がり、バラバラと解ける。そして再び絡み合い、水色の一本糸を形成していく。これで織った布は、それだけで熱と冷気に多少の耐性を持つ上、六十階層台でも安心の強度を誇る優れものだ。


 だがこれも盾と同じ。それで満足してはいけない。手間をかけ、工夫をこらし、ミラディス大迷宮の百階層まで使える性能に仕上げる。


 まずは特殊な染料に漬け込んで――


「っ!? なんだ!?」


 工房が突然、七色の光に包まれた。薄暗さになれた目には眩しすぎて、咄嗟に手で目元を庇う。同時に目を細めながら光の出所を探せば、どうやらエレメンタートルの宝石甲羅が放つものらしい。避けておいたそれが周囲の影をかき消してしまっているのが見えた。


 脳裏を過るのは失敗の二文字。ここにきて盾作りが最初からは、痛すぎるタイムロスだ。

 お願いだから、妙なことになっていないでくれよ。そう願いながら、輝くのを止めて光を纏う程度に落ち着いた盾を注意深く観察する。


「本体に異常、なし。強度変化もしていない。付与の紋様も崩れてないな」


 いったい何があってあんな光を……。


「――うん? これは……」


 よくよく見れば、盾の纏う七色の光には特に色の強い部分があった。それは、何かの紋様を描いているようだ。


「この形、どこかで見た覚えが……」


 なんだったか。かなり頻繁に見ていた気がするんだが……。


「……あ、そうだ、ユグクロのロゴ!」


 タイトルの裏とか公式サイトのロード画面とかに出てきたやつだ!

 だがどうしてこれが、今この盾に?


「いや、原因究明は後だ。これは刻み込んだ方がいい」


 根拠は無い。無いが、生産職として培った勘がそう言っている。


 集中力の切れかかっていたことを忘れて細工用の彫刻刀を再び手に取り、七色の光の示すままに紋様を刻み込む。それだけなのに、どういうわけかごっそり魔力を消費していく。いっそ吸われていると表現してもいい感覚だ。


 こめかみを汗が伝い、魔力の瞬間的な大量消費による倦怠感が全身に重くのしかかる。

 それでも手を止めるほどではない。一気に手を進め、付与インクを注ぐところまでを仕上げてしまう。


「ぷはっ……! はぁ、はぁ……」


 ほんの一瞬の作業なのに、凄まじい疲労感だ。少しすれば息を整えられる程度ではあるが、このランクの装備を作るカロリー消費じゃない。


 いったい何だったのか。定着に必要な時間は、二時間に伸びている。『付与刻印』のリストにもなかったから、この定着が終わらないと、どういう効果になるかは確認できない。


「勢いで刻んだが、吉と出るか、凶と出るか、分からんな……」


 強力でも、ケインが使いこなせないようなものなら凶だからな。


 なんにせよ、あとは祈りながら他の装備作りを進めることしかできない。せめて予定の性能は維持してほしいところだ。



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