第48話 モブサブのできること!
㊽
「アルゴスさんっ!」
「ああ、とうとう来たみたいだな」
慌てて戻ってきたセフィアを連れ、表に向かう。通りに出ると、近所の人たちの姿も見えた。普段は閑静な住宅外の人口密度が一気に上がって少し騒がしくなる。彼らの表情は、険しかったり不安そうであったりと、少なくとも明るいものではない。
「鐘は三回ずつだったな」
「はい。今すぐにどうこうという訳ではないようです」
あの鐘は何回で区切るかで意味が変わるものだ。一回なら開門、二回が閉門、今回のように三回なら、緊急事態だが多少時間に余裕があるという意味になる。これが五回や区切り無しとなると差し迫った事態があることを示すんだが、そうなる前に気づける何かだったらしい。
これだけでも何が起きてるかの見当は大体つく。ただ規模やどのくらいの猶予があるかが分からない。
「ともかく広場に行こう。情報が欲しい」
「ですね。この人混みですから、歩いた方が早そうです」
普段なら馬車の方が早いんだが、そうだな。急ごう。
目的の広場は、予想通り人で溢れかえっていた。近隣住民にしては多いから、偶然通りかかっただけのやつも大勢混じっているんだろう。
ロザリエや店の従業員達の気配もあるな。合流、はしなくてもいいか。この人口密度の中を動き回ると事故が起きそうだ。
「ちょうど説明が始まるところのようですね」
セフィアの視線を辿ると、一段高いところに立っているらしい衛兵の姿が見えた。あの辺りにはたしかときおり大道芸人が演技を披露している小さなステージがあったはずだ。
「えー、先ほど、モンスターの群れが街に向かっているのが発見されました。規模は不明ですが、近隣の泡沫ダンジョンから溢れたものだと思われます」
やはりスタンピードか。泡沫ダンジョンはたしか、曜日なんかの時期限定でマップがプレイヤーごとに個別生成されるダンジョンを住人が呼ぶ時の名前だったな。いわゆるインスタントダンジョンだ。
規模としてはミラディス大迷宮のような神造迷宮に比べたら圧倒的に小さい。だが難易度は千差万別。距離もまちまちだ。いったいどこの迷宮が溢れた?
少し大きくなったざわめきの中、次の言葉に耳を澄ます。
「ミラディスに群れが到達するのは、明日の昼頃と予想されます。街の戦力で十分対応可能な規模ですので、安心してください。ただし、外出は控え極力家から出ないようにお願いします」
住人にはどこかまでは伝えないか。仕方ない。
だが、明日の昼頃に到着する距離で今の冒険者連中や騎士が対応できる範囲の難易度となると、だいたい絞られる。水曜ダンジョンのラデリア異平原か、花見ダンジョンあたりか。
異平原だったらいいが、花見ダンジョンだとマズいな。あそこは条件付きで大迷宮八十階層から九十階層クラスのボスが出る。通常ボスはともかく、そいつは今のミラディスの戦力だと怪しい。
「商人や一部職人の皆さんには支援要請が出されます。後ほど連絡がありますから、代表者は自宅で待機していてください」
衛兵が人の群れの中に紛れて見えなくなる。どうやらこれ以上の情報はもらえないらしい。もう少し細かい情報が欲しかったんだがな。
しかし、支援要請か。一応準備していた範囲はまあいいとして、それ以上を求められたらどうするか。目立ちたくないが、内容によってはそうもいかない。
いや、今考えても仕方ないな。それについてはまだ時間がある。
「ともかく帰るか。家として申請してるのはうちだったよな」
「はい。そちらに連絡が来るはずです」
ならいいか。店の住所のままでないなら送る必要はない。
ロザリエ達とこの場で合流することは諦め、人の流れに乗って来た道を引き返す。そのさなか、頭の片隅で考えるのは、これからやるべきことだ。
明日、モンスターの群れが到達すれば、ケイン達は剣を取って戦場に立つことになる。おそらくそこには悪魔族も姿を現すだろう。そうでなくたって、運悪く条件付きのボスが来るかもしれない。
当然俺が出れば問題なく対応できる範囲だ。だがここは迷宮の内じゃない。それでは目立ってしまう。それだけは、目立つのだけは絶対に避けたい。前世のようになる可能性は潰さなくてはならない。
そうするとケイン達自身に頑張ってもらうしかない。英雄となるのは件の勇者パーティだとしても、少なくとも生き残って、街を守ってもらわなくてはいけない。
しかし今のあいつらの装備じゃ、万が一があり得る。悪魔族なんて現れたり時には生存は絶望的だ。なにせ、ケインのあの取り乱しようだからな。
なんなら、ルカですら冷静でいられるのか怪しい。
全てを奪った悪魔族への憎しみ。それをどうにかしてやることは、俺にはできない。
なら何ができるか。
家に着くと、鍵を開けた玄関の内にセフィアだけを入れる。
「俺はこのまま工房に籠る。ケイン達が来たら、明日の朝また立ち寄るように言ってくれ。支援の要請についてだとか、他に伝えることがあるなら気にせず入ってくれたらいい」
「分かりました。食事は必要ですか?」
「そうだな、頼む」
今の俺は鍛治師だ。それも、伝説の剣を作ることを目指す鍛治師だ。
なら、鍛治師らしく、剣を打とう。盾を打とう。
迫り来るどんな敵も切り裂き、エレメンタートルの切り札すら弾き返すような装備を作ろう。
それが目立たず、モブらしく、主人公達を助け街を守る道だ。




