第47話 モブサブの守護力!
㊼
盾を支える腕に凄まじい衝撃が伝わった。音が消え、全身が世界ごと揺さぶられているかのような錯覚を覚える。
エレメンタルバースト。全属性の精霊の力を無理矢理に混ぜ放出するエレメンタートルの切り札。ゲーム時代に散々受けた記憶のある攻撃だが、やはり生半じゃない。
これでも大したダメージを受けないだろうって感覚があるのは我ながら呆れるな。しかし今のケイン達が耐えられるものではないのも間違いない。
光が徐々に収まって視界が戻る。衝撃に海が高く波打つ音が聞こえ、亜熱帯の日差しが肌を焼く感覚も思い出した。そうなれば、気配察知系のスキルも十全に機能する。
背後にある気配は……四つ。万が一を考えてちらりと視線を向ければ、膝や手を地面に突いた四人の姿が見えた。カロックにルカにリリエ、そしてケインの四人だ。
はぁ、良かった。間に合ったらしい。足の先を抑えているから掠りはしたのかもしれないが、無事ならそれでいい。治せる。
エレメンタートルの方は、頭を垂れて動かない。全身の宝石も輝きが褪せ、黒ずんでいる。エレメンタルバーストの反動。ゲーム時代と同じだ。
つまり、俺たちのターンだ。
「よしお前ら、ここまでくればあと一息だ。反動でしばらく精霊魔法の威力も下がる。畳みかけろ!」
「はい!」
まず飛び出したのはカロックだ。刃に毒々しい影を纏わせ、見失いそうになるほどのスピードで切りつける。更にリリエの歌が聞こえたと思えば、無数の輝く音符が巨体を包み込んで破裂した。
「オォォオォ……」
エレメンタートルのよろめいた拍子に地響きが鳴り、地面が揺れる。十分なダメージ。状態異常もあって、もはや瀕死に近いだろう。
そこへ追い打ちをかけるのは、巨大な氷塊だ。治療を終えたルカの氷の大魔法が、重力と魔法効果による力に従って亀の脳天へ落下する。
重たい音が響いて氷が砕け散り、エレメンタートルが膝を突いた。そのまま倒れ込み、頭が砂煙を舞わせる。
砂に紛れる宝石。隠れた光に向けて疾走する背中は、ケインのもの。右手に握る剣は煌々と金色の輝きを放っていて、強大なエネルギーが込められているのが分かった。
あれは聖騎士の持つ最大の攻撃スキル、『セイントブレイク』のエフェクトだ。
これで終わった。そう確信した直後、砂煙の向こうに鮮やかさを取り戻した宝石が見えた。その意味するところは、大技の反動から復帰し、エレメンタートル本来の力を取り戻したということ。
リリエの詩も他のデバフもない今、魔法の一つでも撃たれたら一気に崩れ、形成は逆転する。
そんなことには、させない。
「もう少し寝てろ!」
ストレージから取り出したそれを全力で投擲。スキルを乗せた豪速球がケインを追い越した先で大きく広がり、今まさに起き上がろうとしていたエレメンタートルの頭を再び地面に縫い止めた。
「どうだ、ケイブタランチュラの糸の拘束力は」
あれだけデカいと五秒くらいで抜け出されるが、十分だ。
「いけ、ケイン!」
「ハァァァァアアアアアっ!」
大きく跳び上がったケインは光を頭上に掲げ、そして振り下ろす。叩きつけられた輝きは、ルカの氷塊が砕けた時以上の衝撃を生み出して無人島の空を揺らした。
再び巻き上げられた砂。エレメンタートルの巨体全てを隠すには足りないが、頭だけなら十分な量が煙となって舞う。
どうなった? 倒したのか?
立ち上がろうとする気配は無い。いや、まだ拘束されていて頭を動かせないだけかもしれない。
いつでも動けるよう警戒を続けたまま、じっと視界の晴れるのを待つ。
沈黙が続く。ようやく砂が落ち着いてきて、隙間にエレメンタートルの纏う宝石の色が見えた。
「死んでる、の……?」
すぐ後ろから聞こえたルカの呟きに答えるように、エレメンタートルの頭が完全に姿を現す。それは脳天を大きく陥没させ、血を流し、そして白目を剥いていた。
「ああ。俺たちの勝ちだ」
盾を下ろし、脱力して告げてやる。若者達の返事は、歓声だ。
「やりましたー!」
「よぉし!」
一際大きな声を上げたのは、やはりリリエ。それから、カロックだ。
彼には珍しいことだが、今回の戦いはカロック無しには成り立たせられなかった。その責任と、一撃でももらえば死にかねないという重圧。色々と溢れても仕方ない。
「よくやったな。四十階層攻略おめでとう」
「ありがとうございます! って言っても、アルゴスさんがいなかったらあの大技を凌げず死んでたんですけどね」
「装備が装備だ。仕方ない。新調すればお前らだけでも勝てるさ」
「そうなん、でしょうか」
ケインからすれば信じられないのも無理がないか。それほどの威力だったからな、エレメンタルバーストは。
「安心しろ。お前らはちゃんと強くなってるよ」
出会った頃からは考えられないくらいにな。
「さて、喜びに浸るのは迷宮から帰ってからでも遅くはない。そろそろ解体を始めよう。大物だぞ」
「はぁ、それがあったわ……」
「大変そうだね、これは……」
なにせ、ちょっとした山くらいあるからな。スキルが無かったら何日かかるか分かったもんじゃない。本当に、スキルって便利だな。現実になるとどうしても違和感を覚えてしまうシステムではあるが。
それから殆ど丸一日をかけて解体を終わらせた俺たちは、迷宮内でおまけの一泊をしてから帰路についた。ケイン達は入り口、俺は三十階層に転移して三十一階層の隠し通路から外へ出る。
この時もケイン達は何も聞かずにいてくれたが、そのうち明かしても良いかもしれないな。そう思えるような探索だった。
どうでも良いが、傭兵達のレベルの底上げが進んでエレメンタートルに挑むヤツが増えたら、順番待ちはどうするんだろうな。解体だけで丸一日じゃ、かなり待ち呆けることになりそうだ。
「あ、おかえりなさい、アルゴスさん。どうでした?」
工房から出ると、ちょうどセフィアが勝手口から出てきた。今日は休みだと言っていたし、動きやすそうな格好からして、魔法の練習でもするところなのかもしれない。
「ああ、なかなか楽しかったよ。新装備用の素材も揃ったし、あいつらの成長も見れた」
「ふふ、それは良かったです。お風呂の用意をしてきますね」
なんだか妙に優しい目で見られたな。表情が緩んでいた自覚はあるが……。
まあいいか。準備してくれている間に防具の手入れをしよう。現実になったせいで潮風の影響を受けるようになったからな。サボればすぐに痛んでしま――
突如、甲高い音が何度も鳴り響き、帰ってきたはずの日常が束の間の幻か何かだったと教えられた。それは、ミラディスの街全体に緊急事態を告げる鐘の音だった。




