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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第46話 モブサブの亀狩り!

「オォォォォ……!」

「いくよ!」


 大型管楽器にも似た力強い威嚇音にはひるまず、ケインが前へ出た。声に挑発スキルを乗せたようでエレメンタートルの視線は既に彼に釘付けだ。


 リリエも歌い始めたし、俺も後衛二人を守れる位置についた。ルカも不測の事態に対応する準備をしている。よし、最低限の陣形は整った。


 あとはこれを崩さず状態異常を維持するだけ。維持し続けられるほど早く、安全に戦闘を進められる。つまりカロック次第だ。頼むぞ。


「精霊魔法! 引き付ける!」


 大亀が赤い光を纏った。炎か。

 移動するケインに合わせて大亀の頭が向きを変える。このスピードならギリギリこちらには来ない。シールドチャージを使って加速してるな。やる。


 少し先が炎に包まれた。熱気が肌を焼くが、ダメージになるほどじゃない。

 炎を発生させる攻撃の怖いところはこの熱気を吸い込んで肺が焼かれる可能性があるところだ。ワイバーンの火球を受けた時に気がついた、現実になったが故の危険だ。


 そこまで考えて位置取りしたなら褒めないといけない判断だな。しかも今の移動が作る結果は、被害の軽減だけじゃない。


 ケインとは真逆に走った影があった。それは、カロックは、エレメンタートルの巨体が作る影に紛れ、密かにスキルを発動した。


「『鳥兜(トリカブト)』。『影裂(かげさき)』!」


 カロックの小太刀が紫の花びらが舞うようなエフェクトを纏い、刃を闇色に染めた。そして巨木のような足を切りつければ、軌跡が白い光となって影を断つ。


 あれは自分を照らす光が弱いほど高い威力を発揮するスキルのエフェクトだ。炎によって濃くなった影の中にいる今、ワイバーンなら二、三発で倒せるくらいの威力になっているはず。


 それでもかすり傷で済んでいるんだから恐ろしい。だが、今はそれでも問題ない。


 宝石の体に刻まれた小さな傷へ紫の花びらたちが吸い込まれていく。戦闘中で、あの正体を知っていなければ、綺麗だって言える光景。しかしその綺麗な花びらで、強靱な肉体を持つエレメンタートルがよろめいた。


 亀の表情なんて分からないはずなのに、苦しげに歪んでいると分かる。倒れ込みこそしなかったが、十分な毒を与えられたらしい。


 あの花びらは、トリカブトの花だ。そのスキル名とエフェクトに違わず、物理攻撃時に猛毒を与える効果を持つ。

 スキル発動直後の行動にしか適用されないが、別の攻撃スキルにも乗せられる優れものだ。


 これも百点満点の判断だな。

 耐久低下のデバフの入っていない今、本当ならカロックの攻撃力じゃダメージを与えられず猛毒にもできなかった。だから『鳥兜』と忍の物理スキルで理論上最高の威力補正を持つ『影裂』を組み合わせたんだ。


「効いてるぞ! その調子でどんどん状態異常にしていけ!」


 返事に代えるように、カロックは次々と状態異常スキルをくりだす。麻痺に中毒、結晶化と、もしゲーム時代だったらHPゲージの上はアイコンで溢れていただろう。


 ここら辺は物理攻撃以外でも与えられる状態異常。これ以上は今のステータスじゃ厳しい。


「カロック、合わせて! 『アーマーブレイク』!」


 よし、いいぞ!

 青い光を放ちながら叩きつけられたのは、回復を終えたケインの盾だ。それは物理耐久を下げるデバフの光。エレメンタートルは多少耐久を下げたところで有効打にはほど遠いダメージにしかならないほど硬いが、今は一のダメージでも確実に与えられるようになることが大事だ。


 状態異常にまみれ動きの鈍くなったエレメンタートルに、更なる不幸が襲いかかる。


 何種類ものエフェクトを見せながらカロックが小太刀を閃かせる。出血に魔力回路不全、通常の毒。状態異常の数がいっそう増えて、エレメンタートルの生命力が明らかに弱くなっていく。


 向こうの攻撃も上手く対処できているし、今のところ言うことは無いレベルだ。


「思ったより楽勝ね!」

「まだ油断はするなよ! 魔法が来るぞ!」


 言ってるそばから精霊魔法だ。次は、青い光。水属性。『ネレイスパイディア』か!


 発動される魔法に気が付くのと、空中に大量の水が現れるのは殆ど同時だった。それは波となって、全方位へ一気に広がる。


 くそ、運が悪い。大技以外で一番受けちゃいけない攻撃だ。

 当たれば威力軽減中の今でも四人の体力を半分以上もっていける威力があるし、その上行動阻害がキツい。下手をすれば逃げることも抵抗することもできずになぶり殺しにされる。


 津波となって迫ってくる大質量。これがただの物理現象なら盾役のうしろに隠れたところで意味は無い。だがこれは魔法だ。普通の水と同じ挙動はしない。


「ケイン! 『エレメントガード』発動直後に『受け流し』だ!」

「はい!」


 叫びながら俺もスキルを発動。魔法を防ぐ盾を作るスキルで魔法の波を受け止めると、凄まじい力が盾を支える腕にのしかかる。

 今だ!


「どぅおりゃぁあ!」


 盾スキル、『受け流し』を発動しながら盾を思いっきり上に振り上げれば、波が俺や後ろの二人の遙か頭上を飛び越えた。出来上がったのは水のドームだ。

 魔法攻撃ならではの挙動。いつ見ても不思議だが、どうしてそうなるかは今は重要じゃない。


「ルカ! 僕もカロックもダメージはない! 攻撃の準備!」

「りょーかい! その指示、待ってた!」


 水の壁の向こうから届いた声に従い、ルカが魔法を準備する。青髪を浮かせる金色の光。このエフェクトからして、雷の魔法だ。


 しかしなるほど。少しでもダメージを与えて戦闘時間を短くする算段か。

 ここまでの攻撃で一つのミスが命取りになる可能性の高さに気が付いたんだろう。


 リスクも多少高まるが、ここまで安定しているならその方がいいかもしれないな。


 海の精霊の戯れが終わり、津波が消える。視界に映ったのは、少しばかり元気になったエレメンタートルだ。どうやら効果時間の短い状態異常がいくつか治ってしまったらしい。


 それにカロックを明らかに警戒している。これは状態異常の維持が難しくなった、と言うべきところだ。だが、こいつらなら問題ない。


「『サンダーバード』!」


 ルカの放った雷が大きな鳥の形となってエレメンタートルに向かう。あの亀に比べたら小さな魔法。しかし秘めた威力は十分。


 デバフで多少魔法も通るようになったエレメンタートルを雷が焼く。有効打にはまだ遠いが、戦闘時間を短くするには十分。それに、強烈な光は目眩ましにもなる。


 今度は光に紛れてカロックが姿を消した。エレメンタートルの視線が忙しく動いているのは、カロックを探しているんだろう。

 その間に忍び寄り、死角から状態異常の刃が振るわれる。


 順調だ。安定してる。ここまでなら、ケイン一人でもいけるだろうと思えるくらいに。


 状態異常を維持している限り、時間は俺たちの味方。毒が、出血が、確実にエレメンタートルを死に近づける。

 そしてついに、巨大な膝を無人島の地に突かせた。


「よし、もう少しだよみん――」

「走れ! 全速力だ!」


 叫んだのは、エレメンタートルの纏う色とりどりの宝石が光ったから。大技の発動体勢に入ったサインだ。


 全員が一も二もなく俺に向かって走る。言ったことは忘れていなかったようだ。

 必死な形相なのは、合図の少し後からエレメンタートルの発する魔力が凄まじく膨れ上がったと気が付いたからだろう。なにせ、俺でも無防備に受けたらダメージをくらう規模だ。小さな町なら簡単に吹き飛ばせる威力がある。


 まず辿り着いたのは、最も近くにいた後衛二人。少し遅れてSPDの高いカロックが背に回る。

 残るケインは、遅れている。


「ケイン急げ!」


 場所が悪かった。範囲攻撃を確実に逸らすために、遠くに行きすぎた。


「もっと速く走って!」


 ルカが叫ぶが、ケインにとってはあれが最高速だ。チャージ系スキルでの加速ももうしてる。


 ケインの走る間にもエレメンタートルの放つ魔力はどんどん大きくなり、宝石の光も強くなっていく。このままじゃ、間に合わない。死ぬ。


「ケインくん!」

「くそっ!」

「待てカロック、行くな!」


 走り出そうとしたカロックの腕を掴み、引き留める。重装備のケインを引っ張りながらじゃ、カロックでも間に合わない。無駄死にするだけだ。


 俺からも近づいてはいるが、ぎりぎり足りそうにない。あと数歩が届かずに、灰となる。


 何か、何か手があるはずだ。思い出せ。ハイエンド勢として最前線で戦っていた頃を。思い出すんだ……!


「――そうだ、『カバーリング』だ! 後ろの誰かに『カバーリング』を使え!」

「っ……! 『カバーリング!」


 ケインが一気に加速した。さっきまでより明らかに速い。

 これなら、間に合う!


「オオオォォォォ……!」

「くそ、来る! お前ら、絶対俺の後ろから出るなよ!」


 もう俺も動けない。すぐにスキルを発動しなければ三人まで死なせてしまう。

 ケイン、お願いだから間に合わせてくれよ!


「『不動の大堅盾(けんじゆん)』!」


 俺の持つ盾と同じ形をした半透明の壁が表れて、眼前に広がる。

 一定時間動けなくなる代わりに防御範囲を大きく広げ、耐久値を五割増しにするスキルだ。耐久値はともかく、防御範囲を広げないと四人分カバーできないから。


 あとはケインさえ間に合えば。祈りながらあいつが走ってくる方向に視線だけを向ける。どこまで近づいてきているのか、それを確認する前に、俺たちは真っ白な光に包まれた。



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