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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第45話 モブサブのボス戦手伝い!

 四十階層のボス部屋前に到着したのは、それから数時間後、そろそろ外は茜色の空になってるだろう頃だ。ボスのいる階層は下りるとまず小部屋があって、その中央にいかにもな雰囲気を放った扉だけがあるという構造になっている。


 ゲーム時代はここで消耗品の確認や減っているHPやMPの回復、バフまき、戦術の確認なんかの準備をしていた。それは、現実になった今でも変わらないらしい。


「補給しながら確認します。次のボスはエレメンタートル、でしたね」

「ああ。精霊の力を宿したでっかい亀のモンスターだ。魔法、物理共に高い耐久値を持つ」

「両方ダメか。持久戦になりそうだな」


 まあ、普通はそう考えるよな。実際、多くの耐久型モンスターはそれが基本だ。

 ただそれは、火力を落とす形でバランスがとられている相手にだけ成り立たせられる戦術だ。


「持久戦はダメだ。一番弱い攻撃でもワイバーンの通常ブレス並の火力がある。溜めのある攻撃は切り札クラスだ」

「え、あれ、僕でも回復なしじゃ数発しか受けられませんよ」

「俺達だと弱い攻撃でも連続で二発くらったら終わりだ。倒しきる前にこちらがミスすると思っていいな……」


 ノーミス前提の持久戦。そんなの、ゲームの中でもやりたくない。ましてや現実になった今、失敗は死を意味するんだから尚更だ。

 最悪俺が殴れば時短はできるにしても、どうなるか分かっていて伝えないことが許されるものじゃない。


「じゃあどうするんですかー? バフをかけまくってたこ殴りにしますー?」

「たこなぐ……。まあ、いずれはそれでもいいが、まだ無理だな。エレメンタートルは状態異常とデバフに対する耐性がゼロに等しい。つまり、カロックが要だ」


 カロックの表情が少しばかり硬くなる。装備的に格上の相手に挑む中で自分が全てを決めうる立場になるんだ。こいつの歳でそんなプレッシャー、緊張するなというには酷すぎる。


 それでもやってもらわないといけない。忍者とはそういう職業で、斥候系の職業はそういう役割だからだ。


 吟遊詩人のリリエや隠者のルカも一応デバフや一部の状態異常は扱えるが、他にやってもらいたいことがあったり下位の職のスキルしかなかったりとカロックの代わりにはなれない。


「……まー、カロックさんなら大丈夫ですよー。なんたって、私のカロックさんですからねー!」


 なんだその理由は……。いや、どうやら効果は()()()()だったらしい。


「ふっ、そうだな。任せてくれ」


 カロックは強ばっていた表情を緩めて黒い瞳に鋭い光を灯す。

 いちゃつきやがってと呆れた目を向けるのは俺とルカで、ケインは頼もしそうに彼を見た。


「よし、他の三人の役目だ。ケインは物理デバフと嫌がらせでヘイトを稼ぎながらカロックのカバーだ。動く壁になれ。後衛二人は俺に任せてカロックの状態異常攻撃を届かせることに集中しろ」

「はい、分かりました」


 時には反対側へ注意を向けて、なんてことはわざわざ言う必要は無いな。


「リリエは『鎮めの歌』を維持だ。精霊魔法の威力をできる限り落とす」

「『魔封じの調べ』じゃなくていいんですかー?」

「ああ。完全に魔法を封じると物理攻撃ばかりしてくるようになる。範囲は精霊魔法が上だが、火力自体は物理攻撃の方が高いからな。回復が追いつかなくなる」

「なるほどー。了解です!」


 ゲーム時代のようなAIで動くわけじゃないと思うが、それなら尚更発動しない魔法なんて使ってこないだろう。


「ルカは――」

「回復ね」

「そうだ。かすり傷でも治すつもりで頼む。それ以外はバフの維持と緊急時の対処だ」


 『鎮めの歌』で威力が下がるのは相手の精霊魔法だけだが、そもそもエレメンタートルには魔法や属性ダメージが通りづらい。本来のヒーラーも歌を維持しなければならないから、必然的にルカがメインヒーラーになる。


「それぞれ、役割は問題ないな?」


 返事は、力強い首肯が三つ。問題無さそうだ。


「最後にもう一つ。合図したら、即俺のすぐ後ろに走れ。背中に突進してもいい。なりふり構うな。いいな?」


 でないと即死だ。今のこいつらじゃ回復する暇も与えられない。


「分かりました」


 若干の緊張を浮かべ、四人が頷いた。俺の言葉の意味するところはしっかり伝わったようだな。


「それ以外の指示は今まで通りケインの役目で頼む。以上だ」

「はい! みんな、準備はいいね? ルカ、リリエ、バフをお願い」


 強化魔法とスキルが発動して全身により一層の力が漲るのを感じる。上位職になった分、以前に比べて効果がずいぶん高くなった。

 二人がバフに使った分を回復させるのを見届けたら、いよいよボス戦だ。


 ケインを先頭に青い金属で作られた門へ進む。意匠は入り口なんかと同じ蔓草によるものだが、道中の門よりいくらか豪華で、陸亀のレリーフも彫られている。この先にいるエレメンタートルを模したものだ。


 誰かがゴクリと唾を飲み込むのを聞いた。この緊張感。いつ以来だろうか。

 攻略当時と違ってステータス的に恐れることはないと分かっているのに、本当に命の危険があると思うと、手汗が止まらない。落とすとすれば友人の命なんだから、尚更だ。


「行くよ」


 ケインの言葉に頷き返す。彼の手が門に触れた。亀のレリーフが中央から割れて手前へ開く。青みがかった白い光が溢れてきて、先の見えない膜が現れる。


 重くなったような気がする足をその先に進めれば、懐かしい孤島フィールドと見上げるほどの巨体が目に入った。


 高校の体育館よりは多少広いかというくらいの比較的狭めの島。海に囲まれ外周は砂浜になったその中央で、妙にカラフルな巨亀が伏せっている。

 極彩色というには多少地味なそれはエレメンタートルの全身を覆う宝石の色だ。長い年月をかけて大型バス数台分ほどまで育ったその甲羅の上は、低木が茂って小さな森のようになっていた。


「大きい……」


 エレメンタートルの巨大な瞼が開かれた。ケインの呟きがきっかけになったようなタイミングだ。

 ちょうど人一人をひと飲みにできる大きさの頭が上げられて、俺たちを睨む。立ち上がられたせいで睨み返すにはかなりしっかり見上げなければならない。


 その威容に、ケイン達の足が止まった。


「お前ら、のまれるなよ」

「わ、分かってるわ」


 すぐに応えて歩き出せたな。なら、きっと大丈夫だ。


 それぞれが武器や盾を構え、目つきを鋭くする。応えるようにエレメンタートルが出した音が、戦いの火蓋を切った。



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