第42話 モブサブの守りたい笑顔!
妙な動き方をしてる人らがいると思ったら、あの酔っ払い男二人を避けてたのか。傭兵ぽいな。それらしい装備は身につけていないが、レベルをいくらか上げてる人間の気配だ。それにガタイもいい。
せいぜい基本職が一つカンストに近いって程度だろうが、ガラが悪そうだし、そうでなくても昼間っから顔を真っ赤にしてフラフラ歩いてるやつらだ。大抵のやつは関わり合いになりたくないよな。
ケインとルカも自然に道の端へ寄っていく。すれ違う頃には人一人か二人分くらいズレるだろう逸れ方だ。
面倒だし、俺たちも避けておいた方がいいな。
「あ」
男達がルカの真横を通るタイミングだった。片方が躓いて転びかけた。
「何しやがんだこのアマァっ!」
通りに怒声が響いて、道行く人々の視線が彼らに注がれる。一部始終を見ていた人間の目は、ルカとケインを哀れむものだ。
「なんだかマズそうですねぇ……」
「あいつら程度なら大丈夫だと思うが、空気が悪くなってはわざわざ二人と別行動にした意味がないな」
たしかにな。
とうの本人達は、相手にするつもりがないらしい。ルカがしらけた表情で何かを言った後、そのまま歩き去ろうとする。
「テメェがぶつかってきやがったんだろうがよぉ!?」
「こりゃさすがの相棒も怪我しちまったかもしれねぇな? 明日にはまた迷宮に潜らねぇといけねぇのによぉ?」
転けなかった方のあの下卑た表情。一瞬気色悪い視線をはしらせていたし、ルカの体に目を付けたか?
「あー、イテェ! イテェな! 骨が折れてんぞこの痛みはぁ! どうしてくれんだ、ええ!?」
「――」
「まあ落ち着けよ相棒。こんなガキどもに骨折の治療費なんて払えるわけないだろ? なあ?」
払えると思うぞ。なんだかんだレベリングの副産物で稼いでるからな。
それはそれとして、ルカが剣呑な雰囲気を発し始めたことの方が気になる。この距離からでも分かるほどだ。当然周囲も気がついてさらに距離を取り始めてる。
しかし酔っ払いがそんなことに気がつけるはずはない。
「なら代わりによぉ、俺たちのことを気持ちよくしてくれねぇか? なぁに、ちょっとだけだ。いいだろ、坊主。何もお前の女をよこせとは言ってねぇんだ」
あー、本気でヤバいな。あの感じ、ルカが魔法をぶっぱなすのも時間の問題だろ。
それだけじゃない。隣からも剣呑な気配がするんだ。それも二つ。
「あの二人、サイテーですねー。まるでルカさんのことを物みたいに言ってますしー」
「ですね。二度と子供の作れない体にしてあげたほうがいいんじゃないですか?」
「良い考えだと思いますよー」
つまり大事なところを潰すということか? 恐ろしい。無関係の俺まで悪寒がしたぞ。カロックも顔を少し青くしている。
もちろんあの酔っ払いどもには同情の余地は無いが、横で聞いてる俺たちの精神衛生がよろしくない。あいつらもここまで聞こえるような大声で喋らないでほしい。
二重にハラハラしながら見ていると、酔っ払いの手がルカに伸びる。このままだと本当に街中で攻撃魔法を使うかもしれない。そう思った直後、ケインが男の腕を掴んで止めた。
「――」
「あん? 生意気な野郎が! 黙って差し出せばいいもんをかっこつけてんじゃねぇ!」
いいぞ、色んな意味でナイスだ。
ルカもかばわれて満更でも無いのか、少しだけしおらしくなる。隣にいる二人も恐ろしい気配を消し、今にも黄色い悲鳴をあげそうな様子で事態を見守り始めた。
腕を掴まれた男が自由な腕で殴りかかる。だが当たらない。あんなもの、今のケインには止まって見えるだろう。
さらにもう一人の男も加勢しても、結果は同じ。ケインは全て軽く避けてみせる。
「くそっ、なんで当たらねぇ!」
男達は喚きながらなおも殴りかかる。その様子に、ケインはこれ以上自分で自分の片腕を封じる意味も無いと思ったのか、あっさりと掴んでいた腕を放した。
それが癪に障ったのだろう。男達の攻撃がいっそう激しくなる。
「そんな攻撃、ケイン君に当たるわけないじゃないですかー。私だって簡単に避けられますー!」
「ケインさんその調子です。なんならこっそり攻撃してもバレないですよ!」
いや、さすがにバレるだろ。そうなったら衛兵達がケインも一応連れて行かないといけなくなってしまうし、煽るならこのまま聞こえない位置からお願いしたい。
「――」
「馬鹿にしやがって!」
おそらくケインの言葉にだろう。激高した男がこれまでで一番大ぶりのテレフォンパンチをくりだした。
それを軽く避けたケインは、足を出して引っかける。勢い余って向かう先は相方の男の顔面だ。
「ッテェな、何しやがる!」
「す、すまねぇ、今のはあいつガっ!? 殴んなくてもいいだろてめぇ!」
「先に殴ったのはテメェだろうが!」
嘘だろあいつら。あれだけで仲間割れを始めたぞ……。
周りもしらけた目で男達を見ている。
ケインも当然これ以上相手をするつもりは無いようで、ルカの手を取り、スタスタと歩き出す。とうのルカは、機嫌が良さそうだ。
「あれは、羨ましいですねー」
「分かります。好きな人にあんな風に守ってもらえたら、絶対ニヤけちゃいますね」
人間相手で守ってもらわないといけない相手は少ないだろ、というのは野暮だな。
とりあえずカロックに頑張れとだけ念じておくか。
喧嘩を続ける二人を大きく回り込んで避け、尾行を続ける。
距離的にケイン達の会話の内容までは聞こえないが、表情から察するに、ケインがルカを案ずる言葉をかけたんだろう。
眉根を寄せるケインに、まなじりを下げるルカ。対照的な表情だ。
その手は繋いだまま。ケインは無意識なんだろうが、ルカにとってはたぶん、それも機嫌を良くする理由なんだろう。
それが分かってるのか分かってないのか、ケインは何かに気がついて、一度手を離す。
「あぁ……!」
隣から聞こえた溜息にシンクロするようにルカが顔を曇らせた。
小走りでどこかに向かい、そして帰ってきたケイン。その手には、太陽の光を跳ね返す何かがあった。
「あれは、ブルーストーンのシルバーリングだな。たしかあいつらの故郷の特産品だったはずだ」
「この距離でよく見えるな。しかしそうか、だからケインはわざわざ買いに行ったのか」
ケインはそのリングをルカに渡す。やはり俺には見えないが、なるほど、たしかにブルーストーンはルカの髪や瞳によく似合うだろうな。
ルカはじっとリングを見ていたかと思うと、不意に顔をほころばせて指へはめる。そして何事も無かったかのように、二人並んで歩き出した。
「……なんだか、いつもの雰囲気に戻っちゃいましたね-」
「だな。酔っ払いどもに絡まれた直後は良い雰囲気になりそうだったんだが」
たしかに、いつも見る様子に近い。近いけど触れることはない、微妙な距離感だ。
「皆さんの宿の方に行きますね。もう帰るんでしょうか」
「なら、俺たちも帰るか。もう十分だろ」
「うーん、まぁ、そうですねー。指輪を渡されていつも通りに戻るとは思いませんでしたぁ。私ならもっと舞い上がっちゃうんですけどねー」
だそうだぞ、カロック。視線をさまよわせているが、センスに自信が無いならセフィアに相談することを勧めよう。だから俺には聞くなよ。
「付き合いの浅い俺には分からんが、あいつらには今のペースが合ってるってことかもな」
俺には十分幸せそうに見えるし。
さて、さっさと帰って夕飯までのんびりするか。のんびりしながら、ケイン達の育成計画を考え直そう。間違ってもあの二人の笑顔を曇らせることのないように。




