第41話 モブサブの青春観察!
㊶
なぜか揃って道端の木箱の陰に隠れ、向こう側を覗き込んでいる。
斥候職らしい一部を除いて周りが気にした様子は無いから、気配隠蔽系のスキルを使ってるんだろう。
「あの木箱のかげだ。分かるか?」
「え? ……あ、本当です。気づいたらハッキリ見えるようになりました」
スキルで諸々隠したときに起きる現象だな。他の通行人にはまだ認識しづらい状態のままのはずだ。
それはいいとして、これは、声をかけて良いんだろうか?
なにか非常事態のさなかにあるとしたら……。
「アルゴスさん、あそこ、見てください」
「うん? ……ああ、なるほど。あいつらもケイン達を尾行してるのか」
そっとしておいてやればいいものを、というのは、俺もここまで来てしまった以上言えないな。
なんにせよ声をかける分には大丈夫そうだ。
と、その前に。
「セフィア、これ着とけ」
「ありがとうございます。たしかに私のスキルじゃバレちゃいますね」
セフィアはいつかも使った認識阻害効果つきのイベント装備、影紛れのローブを思っていた以上にすんなりと纏う。表情を見ていても気にした様子がない。
せっかくの服が隠れてしまうからと、多少は顔をしかめられることも考えていたんだが。
いや、それはさすがに子供扱いしすぎか。一人で立派に店を繁盛させてるのに失礼な評価だった。反省しよう。
ともかく、これで基本職の隠蔽スキルしか使えない彼女でもケイン達に気取られることはない。
こちらに気づけない通行人達にぶつかられないよう気をつけつつ、怪しさ満点に通りの先をのぞき込むリリエ達に近寄る。
「二人はどんな感じだ?」
「っ! な、なぁんだぁ、アルゴスさんじゃないですかぁ……。驚かせないでください-」
「いきなり後ろからは心臓に悪いだろう、アルゴスさん」
「悪い悪い」
まさかそこまで驚くとは思わなかった。よほど集中してケイン達のデートを見てたんだな。
「アルゴスさんはこういうのは放っておくと思っていたが」
「そのつもりだったんだが、セフィアが気になるらしくてな。場所も場所だし、ついてきたんだ」
「え?」
「こんにちは、カロックさん、リリエさん」
また驚かせてしまったみたいだな。二人が目を白黒とさせている。意図せずイタズラしてしまう結果になってしまったか。
「全然気づけなかった……。アルゴスさんはともかく、セフィアさんまで……」
「あ、いえ、これはアルゴスさんにお借りしてる装備のおかげで。私自身は大したことないんです」
「なるほど、そういうことなら……」
さすがにただの商人だと思っていたセフィアにまで斥候技術で上をいかれているのはショックだよな。まだ若いとはいえ、上位職にまでなっているのに。
しかし、影紛れのローブは上位職でもまったく気がつけないか。やはり住人相手には破格の性能を誇るらしい。
悪魔族に効くかは分からないが、もし有効なら、かなり安心できるな。
「で、ケイン達はどんな感じなんだ? 見たところ普通に消耗品の補充をしてるだけみたいだが」
今はポーション類の店の中で二人して棚に並んだ瓶を真剣に見ている。距離が近いのは今更だとして、仕事に近い雰囲気にしか思えない。
「ですねー。気を遣って私たちの担当分を少なめにしてくれたみたいで、時間かかってるんですよねー。別にいいって言ったんですけどぉ」
あの二人ならやりそうだな。仕方ない。
「だがあと少しで必要なものは買い終わるはずだ。問題はその後だな」
「ちゃんとデートらしいことしてくれないとー、こういう風に仕向けた甲斐がありませんからねぇ」
なるほどな。昼食前の時間なのも買い物の後に宿に直帰されないようにってところか?
ならそれこそリリエ達に気を遣う形で二人で昼食には行くんだろうが、そこからデートらしい形になるだろうか?
「あっ、移動します。リリエさん、カロックさん、あちらは宿がある方角ではなかったですよね?」
「ああ。昼を食べに行くんだろう」
「とにかく追いかけますよー!」
これは、丸一日ケインとルカを追いかけることになりそうだな。リリエもセフィアもあまり見たことがないくらいに目を輝かせてる。
まあ、たまにはいいだろう。こういう生産性がなさそうな一日の過ごし方も、スローライフの醍醐味だ。
ところで、俺たちの昼食はどうするんだろうか。
移動しながらそのあたりを訪ねれば、やはり考えていなかったらしい。同じ店か向かいの店に入ろうとしてたようだ。
「気配隠蔽をとかないと注文できないだろ」
「あー……」
「そんなことしたら、バレるな……」
テンションが上がりきってる女性陣はともかく、カロックまで失念してるとは。
なんだかんだでこいつも楽しんでるな?
仕方ない。ケイン達が入る店だけ確認したらなんか買ってきてやるか。
そこらの屋台でケバブサンドのような何かを買い、路地から串団子のように顔を出す三人に再び合流する。刑事の張り込み風に牛乳とあんパンもどきを買うことも考えたが、俺まで浮かれるのは大人としてダメだろう。
「ありがとうございます、アルゴスさん」
「美味しそうですねー、ありがとうございますー。今ちょうどいいところですよぉ!」
そんな風に言われると気になるな。
三人を押し退けないよう気をつけながら四兄弟の長男となる位置から顔をだす。
「ほぉ」
ルカのやつ、なかなか攻めるじゃないか。あーんだなんて。
ケインもさすがに照れてるな。やってる本人も涼しい顔を装っているが、耳が赤い。
うん、青春だな。
「あぁ、ルカさんが先に限界ですかぁ。自分で食べちゃいましたねー」
「ケインさんももう少しで折れそうだったんですけどね」
「いや、だがケインに色々意識させるきっかけという意味では良かったんじゃないか?」
こいつらはこいつらで青春してるな。凄く楽しそうだ。
カロックは真面目だし普段パーティのブレーキ役になることが多いから忘れがちだが、なんだかんだでまだ二十一歳なんだよな。
「話はー、適度に盛り上がってるみたいですねー」
「ああ。やはりあいつはルカといる時が一番穏やかに笑う」
「こうして見てると、夫婦って言われても納得しそうです」
たしかに。結婚二年目くらいの雰囲気だ。
下手に背中を押すようなこと、しなくて良さそうなんだがなぁ。
いやまあ、付き合う前からあれだと逆に大変だって意見にも納得はできるが。
「そろそろ食べ終わりますね。移動する準備をしましょうか」
「ですねー。はむ……うん、美味しいですー」
リリエの食べ方、リスみたいだな……。
「一応食べながらでも歩けるものにしたんだ。焦って食べて喉に詰まらせるくらいなら移動しながら食べろ」
どちらにせよ行儀は悪いが、窒息されるよりはマシだ。
「わふぁってまふぅ!」
「ああ、ほら、飲み込んでから喋ってくれ。口の周りもこんなに汚して……」
「カホッウさんあふいへふははい」
「仕方ないな」
お前らはお前らでイチャイチャするんだな。カロックもなんだその見たこと無いような優しい目は。
いや、別にいいんだがな?
と、出てきたな。最悪カロックとリリエは放置していくか。こいつらならセフィアと違って置いていっても問題ないし。
さて、二人はここからどうするか。
「ん? あれは……」




