第4話 モブサブの旅立ち!
④
翌日は何事もなかったかのようにアルゴスとして工房の仕事をして、さらに翌日。
このユグクロの世界に来て三日目の早朝に、ハースグロウを旅立つことになった。
仕事前のエルダスに見送られ、待ち合わせ場所らしい東門に向かう。
工房のみんなには上手く言っておいてくれるらしい。
時間が時間だからか、門の辺りにはほとんど人が居ない。おかげで、目的の傭兵たちはすぐに見つけられた。
目指す先にいるのは、見覚えのある顔だ。
「早いな、お前ら」
「あ、アルゴスさん……って、もしかして、エルダスさんが言ってたのって」
「まあそういうことだ」
人好きのする笑みを俺に向けたのは、ケインだ。
一緒に居る三人も以前と同じ顔ぶれで、笑顔を浮かべてくれている。
特徴と名前を聞いたときはまさかと思ったが、世間は狭いな。
「アルゴスさんが護衛対象なら追加の依頼料なんて受け取らなかったんですがね。恩がありますし」
「いや、受け取っておけ。ただで護衛したなんて知られたら面倒だぞ」
報酬を下手に下げると互いに損するからな。それで失敗した事業をいくつか知ってる。
あと、自分もタダにしろって難癖つけてくる奴もいるしな。
「ケイン、俺もアルゴスさんの言う通りだと思う。世の中、いい依頼主ばっかりじゃないからな」
「……そうだね、カロック。それじゃあ、アルゴスさん、依頼料、ありがたくいただきます」
「ああ、それでいい」
まあ、払ったのはエルダスなんだが。
話が一段落したところで、改めて自己紹介をする。
ケインとカロックは魔術士の子の叫びを盗み聞いただけだったからな。
まず、リーダーで戦士なのがケイン。探索者という斥候職がカロック。名前を知らなかった少女二人については、魔術士がルカで神官がリリエというらしい。
「それじゃあ、あとは依頼主のセフィアさんだけだね。……って、噂をすれば」
「すみません! お待たせしました!」
うん?
この声は、どこかで聞いたな。
柔らかな、しかし芯を感じる声に振り向けば、二頭立ての幌馬車が見えた。
声の主はその馭者だ。
「彼女は……」
そうだ、一昨日、工房に行く前にぶつかったハーフエルフだ。
後ろで纏めた長い金髪に、大きな紫の目、それに少し尖った耳。容姿は凄まじく整っていて、外套越しだが、スタイルも良いように見える。
金髪や尖った耳はエルフの特徴だが、エルフにしては尖り方が鈍いし、血色も良い。これはハーフだからだろう。
歳は、二十歳くらいだろうか。どことなくだが、まだあどけなさが残る顔つきをしていた。
「いや、まだ約束の時間にはなってないですよ」
「あ、本当だ。良かった……」
セフィアだったか、馬車を止めて降りてくる様子には、不慣れさが見える。
ここ数日町を歩いた感じ、二頭立ての馬車を使うのはそれなり以上に大きな店を持った商人ばかりだった。
そういう意味では違和感があるが、纏った衣服の質的には納得感がある。
なんというか、ちぐはぐだな。
「セフィアさん、こちら、今回同行するアルゴスさんです。で、彼女が依頼主のセフィアさん」
「アルゴスです。よろしくお願いします」
「一昨日ぶつかった方ですよね。こちらこそよろしくお願いします」
彼女も覚えていたか。
おっと、そうだ。今回の件については礼を言っておかないとな。
「セフィアさん、今回は同行を許していただき、ありがとうございます」
「そんな! 私にはなんの損もないことですから。お礼なんていいですよ!」
彼女も人が良さそうだ。良縁に恵まれた、のだろうか。
「それじゃあ、行きましょうか」
ケインに頷き、門を抜ける。
次に戻ってくるとしたら、それはアルゴスの夢を叶えたときだ。
ハースグロウを出て数日が過ぎた。旅は順調に進んでおり、特に問題らしい問題は起きていない。
天候も良好。雲がちらほらある以外は真っ青な空が広がり、周囲を囲む森の木々を心地よい風が鳴らしている。
日差しも、休憩の時にうっかり寝かけたくらいには麗らかだ。
変化らしい変化と言えば、セフィアに敬語をやめてくれと言われて従ったことくらいだろうか。
「アルゴスさんは迷宮都市ミラディスで鍛冶師を続けるんですか?」
馭者台からセフィアが問いかけてきた。
幌越しには少し聞き取りづらいが、ケインたちの予備の武器の手入れ中だから仕方ない。それに、周囲を囲んで歩く彼らと話すよりはマシだ。
「そうだ。修行名目みたいなものだけどな」
空き時間にステータスを確認したら、上限レベルが解放されてたからな。
転生の影響なのかアプデの影響なのかは分からない。
なんにせよ、アルゴスの夢を叶えるためにもレベルは上げた方がいい。
「そういうセフィアは、商売か?」
「はい。成し遂げたいことがありまして」
成し遂げたいこと、か。
夢があるのは、いいことだ。
「それは、聞いてもいいやつか?」
「ええ、もちろん。隠すことじゃないですからね」
商人ならあれか、自分の店を持ちたいとか、そんな感じか?
「実は私、元々貴族なんですよ」
なんか思ったより重そうな気配がするな。
「祖父の代で商人から成り上がった家系で、私が三代目です。まあ、父が没落させちゃったんですけどね」
ああ、ちゃんと重いやつだなこれ。
一代ばかりの貴族という話は時々聞くが、言い方からして何かやらかしたんだろうな。
よくもまぁ、こんなに軽く言えたな。
ポジティブなのか、楽観的なのか、吹っ切れているのか、そう見せかけているだけなのか。
「つまり、セフィアの目的は、家の再興か?」
「そんなところですね。貴族には戻れなくても別にいいんですけど、祖父のような大商人にはなりたいんですよ。残ってるのは今あるものだけなので、険しい道のりだとは思いますけど」
今ある、というと、馬が二頭に幌馬車が一台。それから商品らしきアレコレが幌馬車の八割を埋める程度、か。
ハースグロウの職人たちが作ったものなら、元手くらいにはなるか?
武具はあっちの方がいい物が多いだろうが、他は十分な値がつきそうだ。
現金資産がどれくらいあるかは分からないが、一人でやる分にはどうにかやっていけそうだな。
「アルゴスさんも、もし良かったら作った武具を売ってくださいね」
「ああ、まあ、条件次第でな」
どうやらちゃんと強かな面もありそうだな。
こういうやる事をやってる人間は応援したくなる。
まだ確約はできないにしても、Win-Winの関係を築けるなら多少譲歩するか。
目立たないようにするのは最低条件だけどな。
……うん?
この感覚、察知系スキルが反応してるな。




