第38話 モブサブの初授業!
㊳
「ふぅ。予想の内で最高、ってところだな」
つまりは想定しても、まず無いだろうと考えていたレベルだ。嬉しい誤算と言っていい。
こいつらに細かい技術を教えたら、もしかしたらゲーム時代のハイエンドにも挑戦できるレベルになるかもしれない。
「お疲れ様でした。アルゴス様がまさかこれほど武芸にも秀でておいでとは」
「知識のおかげ、ってだけだと思うがな。才能という意味じゃ、こいつらには及ばない」
そもそもの職業レベルはゲーム時代に上げたものだし、技術だって、何度も死にながら覚えたものだ。一つの命しかない今、そんなことはできない。
「どうでしょうか。……しかし、気絶させる必要があったので?」
「あー、それは、ただの勢いだ。思ったよりやるもんだから、ついな」
要するに、まったく意味がない。
むしろ授業が遅れるからマイナスですらある。
「まあ、休ませるついでってことにしておくか」
……どうしてだろうか。最近どうもロザリエにジトっとした目を向けられることが多い気がする。
いや、これについては全面的に俺が悪いが。
「こんな所で眠っても体力の回復にはならないでしょう。きつけ薬を嗅がせても?」
「そう、だな。よろしく頼む」
ケイン達からすれば踏んだり蹴ったりかもしれないが、授業料だと思って甘んじて受入れてくれ。
ところでロザリエさん、あなた、常にポケットにきつけ薬を忍ばせてるんですか? お願いだから零すようなことが無いようにしていただきたい。
ケイン達が激しく咽せながら目を覚ますのを眺めながら、今後のことを考える。
今の模擬戦を思うに、もっと上の狩り場でも問題なく辿り着けそうだ。そうなればレベリングは加速する。
予定より早いが行かせてしまうか? 今日教える技術のことがあるから、一旦はこれまで通りの狩り場で慣らすことになるだろうが。
それを前提にするなら、今日教えるべき内容が少し変わってくる。
まあ、なんにせよ、まずはさっきの模擬戦で使った小技の解説だ。
「ごほっ、けほっ、あ、アルゴスさん、僕ら、どれくらい寝てました?」
凄い涙だな。そうとうキツい薬なんだろう。お世話になることは無いようにしたい。
「ほんの数分だ」
「良かった。……ふぅ、ようやく落ち着いてきました」
「よし、それじゃあ、さっき使った技について教えよう」
さっき使った小技は三つ。それぞれまったく別の理屈を利用したものだ。
「まずは、初めの同時攻撃を防いだときのやつだな」
「見えないくらいの速さで盾を前に出したスキルですね」
「ああ。使ったスキル自体はお前らも知ってるものだ。分かるか?」
それぞれ考え込む様子を見せる。気が付くとしたら、直接受けたケインだろうか。
「加速系のスキル、だと俺たちが知ってる中で生産職が使えるスキルには無いな。もっと別の何かか?」
「受けた感じだと、攻撃スキルだと思う。あ、でも単純にステータス差かもしれないのか」
「魔力を使ってる様子は無かったのよね……」
ふむ、ダメか。まあ盾を横から前に出すって動作には結びつきづらいかもしれないな。
「正解は『シールドバッシュ』だ」
「えっ!? 加速効果なんてあったんですか!?」
「いや、スキルの効果にはない。ただ、盾を前に構えていないときに使うとあんな感じに一瞬で前に構え直す動きが入るんだ」
これを利用すれば、力負けして弾き飛ばされた盾をすぐ引き戻して体勢を立て直すこともできる。知っていたらなかなか便利な技だ。
キャンセルタイミングを間違えたら殴りつける動作まで入ってしまって逆に隙になるんだが。
「『シールドバッシュ』でリカバリー……。汎用性が高そうです」
「ああ。他にも同じことができるスキルはあるが、ケインはこれをまず覚えたらいい」
「分かりました」
選択肢に入ってさえしまえばそこまで難しくない技術だし、練習しなくても普段から意識しておくだけでもいい。
「じゃあ次だ」
「私の魔法を切った技ね?」
「魔法に干渉するなら魔力を使わないとですしぃ、魔力操作系のスキルを使ったのは分かったんですけど、それじゃあ剣スキルと同時に使えないですよねぇ? 魔法剣は共通スキルじゃなかったはずですしぃ……」
何か言う前に自分で考え出したな。すぐに答え待ちをされるよりずっといい。なんでもかんでも教えてたら応用の仕方を身につけるまで時間が掛かる。
こういう後輩ばかりなら指導ももう少し楽だったんだがなぁ……。
いや、会社員時代のことはもういいんだ。それより、今は目の前の若者だ。
「炎が出てたことがヒントだとは思うんだけど……」
「カロックさんとケインくんはスキル名とか聞こえなかったんですかぁ?」
「そうだな。たしか、『一閃』と言っていた」
少しずつ近づいてきてる。今度はもう少し待つか。
「うーん……。共通スキルで炎を出してるなら、生活魔法系ですよねぇ。なら『トーチ』でしょうけどぉ、あんな広範囲になりませんしー……」
「そういえば昔、魔力操作で発動起点を拡大できるって見たわ。……もしかしてだけど、操作した魔力の影響って、魔法発動を挟んだら他の攻撃スキルにも残せる……?」
ほぉ、驚いた。
「正解だ。本当に当てるとはな」
「やった!」
「凄いよルカ!」
「でしょう? ケインはもっと褒めてくれてもいいのよ?」
うん? 今のはデレたのか?
たぶんデレたんだろうな。リリエとカロックが生暖かい目になってるし。
まあ、細かい話をしておくか。応用する場合に必要だ。
「分かっているようだが、通常『一閃』や魔法のようなアクティブスキルは同時発動できない。しかしスキルの効果は発動を終えた後も残る。『ファイアーボール』なら火球を生み出すところまでがスキルの発動だから、そのあと、例えば着弾するまでの間なら効果時間中も別のスキルを使うことができる」
この辺の仕様は生産スキルだとまた変わるんだが、こいつらには関係ない話だ。
ちなみに以前フィールドボスを一蹴した投擲は、投げる瞬間までに『投擲』スキル、投げた直後に『石つぶて』スキルを使うことで二重の補正を成立させていた。
「これを利用すれば魔力操作で魔法の起点を操作できるんだが、今回重要なのはこの後だ」
「スキルの発動から魔法そのものの発動までのライムラグ、ね」
「そうだ。『トーチ』なら約二分の一秒。魔法の起点を武器に重ねた上でこの時間内に武器スキルを使用すると、どういうわけか魔法剣のような効果になる。つまりは魔力を使った攻撃になるから、魔法攻撃を相殺できる」
これは元々はバグだ。他に干渉しないようには上手く直せなかったみたいで、仕様ということにしたらしい。
……ああ、そうか。情報チェックしてない間に直されてるものもあるかもしれないな。
こういう不具合はあって当然だが、可能なら修正しようとするのも当然だ。
まあ、すり抜けてしまう壁を直したら隣のマップでストーリーの進行不能バグが発生するみたいな、全然関係ないところに影響することも少なくないから全部なくなってるなんてことはないだろう。
「二つ目はこんなところだな。次で最後だ」
「次ですか?」
「まだ何かあったか?」
やはり気が付いていなかったか。
「使ったスキルは『シールドチャージ』と『スラスト』なんかの基本攻撃スキルだ」
「あ、『シールドチャージ』で加速したんですね!」
「早いな。正解だ。物理攻撃は基本スピードが速いほど威力が上がるからな」
これは現実世界なら当たり前だな。ゲーム上は別の計算式があるんだが、それもここで教える必要は無い。
「チャージ系みたいな一瞬の加速効果があるスキルは移動でも便利だから選択肢に入れておくといい。例えば、五十六階層のトラップエリアには上位職のステータスでもこれで通過できる場所がある」
「な、なるほど……」
今のところ行く理由はないだろうが、かなりのレア素材がとれる場所だからいずれは考えてもいい。現実で通るには怖い場所だが。
さて、解答解説はこんなところだな。
「ここまでで何か質問はあるか?」
「ありません」
「よし、それじゃあ残りの時間で各役割で覚えてほしい技を教えよう。今日は、主に魔法関連だな。ケインはさっきの疑似魔法剣の盾版、カロックは加速スキルと攻撃スキルの組み合わせが最優先だから、先に離れた場所で練習していてくれ」
さっき模擬戦で見せたのはこうするためだ。俺の体は一つしかないからな。効率よくやらないと。
レベリング計画を加速させるかは、今日教えたことをどれくらいものにできるかで改めて考えよう。
ふぅ。しかし、師匠役も思ったより大変だ。もう一人くらい教えられるヤツがいたら良かったんだけどな。どこかに別の転生者でもいないもんか。




