第36話 モブサブの教育方針!
㊱
翌朝、セフィア達を見送ってから少しした頃、ケイン達はやってきた。それぞれ迷宮探索用の武具を身に纏っているが、今の職業に合わせてあるのか以前見たときとは細部が違う。
「おはようございます、アルゴスさん」
「来たな。まあ、入れ」
ケインはやはり顔色が悪い。酷い隈もあるし、確実に寝不足だな。
他の三人は、大丈夫そうだ。
ダイニングに通して茶を出し、改めて様子を観察する。
落ち着きがないのがケインと、その様子を窺うルカ。カロックとリリエも二人を気にしてはいるようだ。
話の切り出し方はいくつか考えていたが、やはりケインを落ち着かせるのが優先だな。
「悪魔族について調べてるらしいな」
「……はい」
「見つけて、どうするつもりだ」
「殺します」
即答か。言い淀むかと思ったんだが。
思っている以上に恨みは強いのかもしれない。琥珀色の瞳も妙にギラついて見える。
だが、はいそうですかとはいかない。
「死ぬぞ」
「……そうかも、しれません」
「かもしれないじゃない。確実にだ。今のお前らじゃ、悪魔族がしかけた何かにすら太刀打ちできない」
これは大前提。自分から近づくなら、避けられないだろう未来だ。
だが、正面から突きつけられて流せるほどケインは大人じゃない。
キッと眦をつり上げて、俺を睨み付ける。
「鍛冶師のあなたに何が分かるんですか!?」
寝不足で不安定になっているだろう心が暴発して、俺に怒りを向ける。俺を見る。
ここまでは、想定通り。
「はぁ……。気をしっかり持てよ」
「何を……くぅっ!?」
ケインが苦悶の声を上げ、表情を歪めた。腕をテーブルに突いてどうにか耐えているが、今にも潰れてしまいそうだ。
脂汗すら流す彼の様子に他の三人は困惑するばかり。ただ俺の仕業ということは分かっているようで、揺れる視線を向けてきていた。
まあ、こんなものか。
発動させていたウォーリアーの威嚇スキルを解除し、お茶をつぎ足してやる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。今、のは……」
「相手にプレッシャーをかけて逃げさせたり動きを封じたりするスキルだ。ウォーリアーを上げたら使えるようになる」
「ウォーリアー……。上位職ね……」
ルカの呟きに首肯して、お茶に口をつける。落ち着く時間が必要だからな。
正直、もう少し加減してやっても良かったかもしれない。昨日のフィールドボスにしたように複数のスキルを併用するようなことは避けたが、それでもこの有様だ。やりすぎた感は否めない。
まあ、素直に話を聞いてくれるなら問題ない。
「知っての通り、俺は今鍛冶師に就いている。生産職だ。その俺に威嚇されただけでそんな状態になるのに、悪魔族を相手に何ができる? 逃げることすらままならないぞ」
呼吸の落ちつき始めたのを見計らって畳みかければ、琥珀の瞳は手元に落ちた。
「じゃあ、どうすればいいって言うんですか。諦めて、大人しく隠れておけって言うんですか。あの時みたいに……」
「できるならそれでもいいな。だが、無理だろ」
返事は、首肯が一つ。なんだかんだと客観視がまったくできないヤツじゃない。暴走するって自覚はしてる。だから俺も、隠し通すことを諦められたんだ。
「俺が鍛えてやる。知識をくれてやる。技術をくれてやる。せめて一矢報いられるくらいにはな」
どうだ? と問いかければ、ケインはゆっくりと視線を上げた。今彼の中では、俺の言葉の意味の咀嚼が行われているのかもしれない。
それから仲間達に問いかけるよう無言で目を向けた。当然のように三つの頷きが返されて、ケインの目に決意の光が宿る。
「お願いします、アルゴスさん。俺たちを、強くしてください!」
「おう、任せろ」
ここからは一度、鍛冶師アルゴスは休みだ。ユグクロの元ハイエンド勢として培ったもの全てを、時間の許す限り叩き込んでやる。
「さて、そうと決まればまずは方針決めだな。本当は全職業を上げた方がステータスが高くなるんだが、時間が足りない。だから、最終目標を決めてそれに合わせて上げる職業を決める」
「全職業か……」
現実になったこの世界じゃ、カロックのこの反応が普通か。大迷宮の探索が進まないのも当然だな。
「それぞれどういう役割に最終的に就くつもりなのか教えてくれ」
「えっと、僕はタンク兼サブアタッカーです。このパーティには盾役が必要だと思うので」
「その代わり、私が魔法でダメージを稼ぐつもりよ」
なるほど、ケインが盾を持って敵の攻撃を引き受けつつ、隙があれば切りつけるスタイルで、ルカが後ろから大火力の魔法をぶっぱなす純粋な攻撃役になるのか。
「俺はこれまで通り、斥候を極めるつもりだ」
「私もこのままヒーラーですね」
ふむ。ヒーラーは当然として、斥候も特に迷宮探索するなら必須。サポート役もこの二人が兼任することになるか。
うん、やはりバランスの良いパーティだ。日頃から話し合っているのかもしれない。
勇者パーティよりバランスって意味じゃ優秀なんじゃないか? ちらっと見た感じ、アタッカー二枚のゴリゴリ構成だったし。
ともかく、目指すべきところ、マスタークラスが決まった。
「なら、ケインはマスターパラディン、ルカがスペルマスター、カロックがニンジャマスターで、リリエはカーディナルだな」
「聞いたことない職業ばかりですね……?」
「カーディナルは聞いたことありますよぉ。たしか、伝説上の聖職者が就いてたっていう職業ですぅ」
ほう、そういう伝説はあるのか。
そういえばマスタークラスがおとぎ話だの言ってたな。
「全部、それぞれの役割で優秀なマスタークラスだな。スペルマスターはいくつかの型があるんだが、まあ、それは追々でいいだろう」
「マスタークラスか……。だが、間に合うのか? 伝説上の職業だぞ」
「さすがに無理だろう。マスタークラスに就こうと思ったら最低でも六個の上位職を極めなきゃならないからな」
噂が出始めたっていう時期から考えると、残った時間で上げられるのはせいぜい上位職三つか、四つってところか。
あれこれ技術を教える時間もあるから、五つ目に入るのは難しいと思う。もっと上の階層まで行けてたら可能性はあったんだがな。
「お前らがやるべきことは二つ。指定する職業のレベリングと、スキルをより効果的に使う技術の習得。このうち技術の方はスキルを覚えないと話にならないから、まずはレベリングだな」
「分かりました。それじゃあ、さっそく迷宮に行ってきます!」
「まあ待て。まだ話は終わっていない」
こういうせっかちさを見ると若さを実感するな。ここまでエネルギッシュにはもう成れそうにない。
「ほれ、これを持って行け」
とある球体状のアイテムをたっぷり詰め込んだ布袋を渡してやる。これは、後衛に持ってもらうか。
「これは?」
「投げたら爆発して、猛毒と眠りの状態異常を与える煙玉だ。十階層台の敵に使え。バカみたいに効くから」
「初めて聞く話だな……」
やはりカロックも知らなかったか。これは、そのうち色々と知識を公開した方がいいかもしれないな。その方が傭兵全体の迷宮探索が進む。
目立たずにやる方法は考えないといけないから、それは追々だな。
「というか、十階層台ですか? 行けますかね?」
「基本職の二つ目だろ? なら十一階層には到達できる。あとはそいつで上手くやってくれ」
良い装備を使ってるようだしな。
「……分かりました。頑張ります。ありがとうございます!」
「おう、頑張れ」
本当は俺もついていきたいところだが、そうすると傭兵登録が必要になって目立つからな。いや、隠し通路を通って合流すればいいのか?
……ダメだな。それをするとあいつらの経験にならない。商人が本業のセフィアはともかく、傭兵として強くなりたいあいつらにそれは毒だ。いわゆる初心者狩りになりかねない。しばらくは送り出すだけにしよう。
まあ、あいつらなら大丈夫だろ。
俺はとりあえず、次の職業用に適当な装備を作っとくか。レンタル品なら素直に受け取るだろうし。




