第35話 モブサブの師匠化決心!
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ケインは目についた相手に並走しながら何かを聞いているらしいが、返答はどうも芳しくないようだ。話を終えて軽く頭を下げる度に残念そうな顔をしている。
一応あっちもどこかに向かって移動してるようだから、このまま歩いてても合流は難しいだろう。
ああも手当たり次第だと、何を聞いているのか予想するのも難しいな。と思ったが、セフィアには違って見えたらしい。
「どうやら傭兵や商人にばかり話しかけているみたいですね」
傭兵は分かったが、商人は気付かなかった。検めてみても、商人とそうでない傭兵以外の人間の区別が付かない。
こういった観察眼は流石というべきか。
ああ、顔に覚えがある可能性もあるのか。
まあそれはいい。それよりもだ。
「ケインのやつ、なんだかやつれてないか?」
「……すみません、私の目では分かりません。ロエ、どうですか?」
「たしかに、やつれてるように見えますね。隈はできていないのですが」
やっぱりか。そんなに無茶してるのか?
この前あったときはそんな感じしなかったんだけどな。
考えられるとしたら――
「お、ちょうどいいな」
スキルの知覚範囲に入ってきた気配に向けて進路を変える。彼女はケインの方に向かってるようで、こちらにはまだ気が付いていない。
「よお、ルカ」
「あ、アルゴスさん。それにセフィアさんと、そちらは……」
「ロザリエと申します。アルデアの従業員で、お嬢様ともどもアルゴス様の家でお世話になっております」
そうか、ロザリエはケインたちと直接会ったことがなかったか。ケインは話の流れでどれか察しただけだったんだな。
「えっと、丁寧にありがとう。私はルカ。ヴァーリアナってパーティで傭兵をしてるの」
ルカが困惑してるのはロザリエの所作にか?
たしかに考えてみれば、貴族以外でこんな綺麗なお辞儀を向けられることもないか。
「彼女は元々セフィアの侍女だ」
「ああ、それで」
とりあえず道の端によって通行の邪魔にならないようにする。長話にはならないだろうが一応だ。
「で、ケインを探してたのか?」
「ええ」
まあそうだよな。
この時間にこの道を歩いているとしたら、迷宮帰りか夕飯の店探しだ。一人ってなったら、まず後者だろう。
「あいつなら向こうにいるんだが、妙にやつれてるように見えてな。何かあったのか?」
「やっぱり、そうよね。アルゴスさんから見てもそう映るわよね」
ルカは溜め息を一つ吐くと、ケインのいるあたりへ視線を向ける。その水色の目は酷く心配げだ。
「何かあったわけじゃ無いんだけど、悪魔族の噂を調べてるの。この前のバーベキューで話してたでしょ?」
「やっぱりそれか……」
あれだけ取り乱してたからな。事情も事情だし、そんなことだろうとは思っていた。
「だが、それにしたってやつれすぎじゃないか?」
「夜通しああしてるのよ。酒場にも入り浸って、ちょっとでも情報がないかって探してる。睡眠時間も削ってるから、そろそろ迷宮探索にも支障がでかねないわ」
「それは、まずいな……」
探索に支障が出るだけならまだいい。収入が減っても生きてるならどうにかなる。
だが、ここはゲームの中じゃない。下手をすれば一瞬で命を落とす。一つのミスが全てを終わらせる。
そんな環境であれは、本当にまずい。
「ちゃんと寝るようには言ってるんだけど、ダメね。これに関しては私もあまり強く言えないし……」
「それは、そう、だな」
正直、なんと返すのが正解か分からなかった。
俺は故郷を滅ぼされたことも家族を奪われたこともない。せいぜい寿命や病気での死別くらいだ。
「ねえ、セフィアさんは何か知ってない? 手がかりの一つでも見つかれば、たぶん、あいつもあんな無茶な調べ方しないと思うの」
「……どうでしょうか。仮にあったとしても、今の話を聞くに、よりいっそう無茶をしてしまう気がします。ケインさんについてはルカさんの方が詳しいでしょうから、あくまで憶測ですが」
「……そう、ね」
否定はできないか。とにかく今の状況を打開したくて聞いたんだろうが、その後が怖いのはルカも感じていることなんだろう。
実際、悪魔族の居場所が分かったら無謀だと分かった上で特攻をかましそうだ。
「なあ、どうせ調べてあるんだろ? どうなんだ?」
ルカには聞こえないだろうギリギリの声量で、この手のことを担当してる元メイドに聞く。
「悪魔族自体については確かなことは言えません。ただ、ギルドや教会は悪魔族がいるものとして動いているようです」
「なるほどな」
つまり、かなり高い確率で悪魔族はこの近くに潜んでいるわけだ。
そうすると遅かれ早かれ、ケイン達と悪魔族が接触する可能性がある。直接対面しないまでも、悪魔族の企みに巻き込まれることだってあるんだ。
そうなるとセフィアの目標にしてるレベルじゃ足りない。少なくとも上位職のいくつかはカンストしていてほしい。
だが上位職は基本職より上限レベルが高い分、時間的余裕は殆どないだろう。
どうしたものか……。
「とりあえず、ケインのところに行くから。どうしても駄目そうならまた相談にくるかも」
「あ、ああ、分かった」
人混みに向けて歩き出したルカの背中を見ながら考える。
悪魔族がもし本当にいるのなら、おそらくかなり大規模な攻撃をしかけてくるはずだ。やつらだってこの街に戦力が集まっていることは理解しているだろうし、噂が出てから今日まで何もないことも考えると、まず間違いなく念入りに準備をしている。
悪魔というだけあって、やつらはバカじゃない。いくら個の力で勝っていても、単騎で仕掛けてくることは無いだろう。
そうすると、ケインたちが策の本命や悪魔族そのものに当たる可能性は下がる。本命と悪魔族にすら当たらなければケイン達も生き残れるかもしれない。というか、それが唯一の道となるだろう。
……分が悪すぎる賭けだな。今のケイン達のレベルだと、何に当たっても生き残れる可能性は高くない。
実のところ、もっと確実な方法はある。
問題は俺があいつらを信じられるかと、覚悟を決められるかってことだ。
ケイン達ヴァーリアナは、信じて良いと思う。というか信じたい。そういう連中だ。
それはつまり、気に入ってるってことだ。死んでほしくないってことだ。
だったら、秘密の一つや二つ、明かしてもいいんじゃないか?
どうせもう情報はいくつかやってるんだ。それが一つ増えるだけ。なんてことはない。
……よし、決めた。
「ルカ、ちょっと待ってくれ」
「うん?」
人混みに紛れかけたルカを呼び止める。
「明日、迷宮に行く準備をしたらうちに寄ってくれ。対悪魔族について、話がある」
「……分かった、皆に伝えておくわ」
これでいい。あとは彼らの返答次第ではあるが、たぶん、乗ってくるはずだ。
そしたら全力で鍛えてやる。レベルも、技術も。悪魔族の謀略を食い破れるくらいに。
なってやろうじゃないか。主人公の師匠役に。それくらいなら目立たないしな。
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