第34話 モブサブの非常識アイテムレベリング?
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ミラディス大迷宮の十階層台は高原エリアだ。一桁階層台の平原エリアと雰囲気は似ているが、高低差のある地形になっている。
モンスターもそれに対応した動きをしてくるようになるから、VR慣れしていないプレイヤーが躓きがちなエリアだった。
その十八階層、清々しい空気の高原に、たくさんのモンスターが転がっていた。
多いのはヤギっぽいモンスターや大型の猫科モンスターで、推奨で言えば、基本職を二つか三つ極めたくらいの相手。
セフィアのレベルで対峙するのは本来自殺行為でしか無いんだが、それでもどうにかできるのがユグクロプレイヤーたちの集合知だ。
「よし、そっちのプラトリンクスももういいぞ」
「は、はい!」
斜面でグースカ眠るヤマネコのモンスター達にセフィアの小規模爆発魔法が直撃する。ダメージは二桁いってるかも怪しいくらいだろう。
プラトリンクスの体力なら何十回と当てなければいけないダメージだが、十分だ。
そのたった一撃でプラトリンクスたちは絶命して、セフィアに今のレベル帯では考えられないほどの大量の経験地を捧げる。
「レベルアップしました! あと一で最大です!」
「ちょうど誘因香の効果も切れる。次の群れ最後にしよう。それで上がらなくても帰り道がある」
ピンク色の煙を吐かなくなった小瓶を見ながらそう告げて、近づいてくる気配に意識を向ける。トドメの魔法に巻き込まない位置は、もう少し向こうだな。
表れたのはゴートラナの群れ。数は四。
高い脚力を活かした突進が持ち味のヤギ型モンスターだ。
「来い!」
その角がセフィアに向かう前に、戦士のヘイトを集めるスキルで注意を引く。
「今だ!」
四匹の突進全てを受け止めたタイミングにちょうど、セフィアの投げた球が炸裂した。爆発と共に広がった青と紫の煙がゴートラナたちを飲み込んで、一瞬のうちに夢の世界に誘う。寝顔が苦しげなのは、一緒に受けた猛毒のダメージのせいだな。
「ナイスタイミング。あとは十分弱るのを待つだけだな。あ、あっちの群れももういけそうだ」
「はい。『バステ』」
今日何度目か分からない爆発でまたセフィアに経験地が入る。この音で別のモンスターが寄ってくる可能性もあるが、まあ、同じ方法で倒せばいいだろう。
「まさか、お嬢様のレベルでこれほど簡単に十階層台のモンスターを攻略できるとは……」
「こいつら、なぜかアイテムの状態異常にだけめちゃくちゃ弱いんだよな」
おかげでアイテム一つで群れをまるまる猛毒と眠り状態にできるから、ダメージさえ与えられるならどれだけ低レベルでも効率的に狩れる。
貢献度によって経験地が割り振られるシステムがなかったら、俺やロザリエが削ってセフィアがトドメを刺すって方法が使えたんだけどな。
このシステムだと経験地のほとんどが俺とロザリエに入ってしまうから非効率で、逆に時間が掛かるんだよな。
「今のゴートラナで終わりですか?」
「ああ。調整助かった」
「いえ、お嬢様のためですから」
モンスターが集まりすぎないように適当に間引いてくれていたロザリエが戻ってきた。いくら即座に行動不能にできると言っても、数が増えれば万が一がある。現状一撃だって食らわせられないから、安全重視の保険だ。
そういう意味では、十九階層や十七階層以下でやるのも怖い。他の階層に出るモンスターは、ここのやつらみたいに煙のひと吸いで確実に寝てくれない。異常に有効なのは変わらないが、たまーに抵抗に成功して数秒ほど動き回るやつがいるんだ。
セフィアのレベルが上がれば、隠し通路にもっと近いところでやってもいいかもな。
「しかし凄い光景だな……」
金髪美少女エルフがヤギを一体一体杖で撲殺していく光景。良い子には見せられない。
お嬢様絶対主義メイド的に大丈夫なのかと思ったが、涼しい顔で眺めている。どうやら特に問題ないらしい。
撲殺しているのは、爆発音を気にしたからだろう。さっきみたいに次の群れが来る前に急いで倒さなければいけないなんて状況ではないし、余計な戦闘を避けようとしたんだな。
そのセフィアが動きを止めた。それから自分の手をじっと見ている。たぶん、レベルアップを告げる鐘の音を聞いたんだろう。
住人は魔道具がないとステータス画面を見られないらしいが、レベルアップした時の鐘の音は聞こえる。俺たちプレイヤーが聞いていたのと同じ音だろうから、そういうものだと思うしかないが、中途半端にゲーム感が残っていて気持ち悪い。
「カンストしたのか」
「はい。しちゃったみたいです」
「そうか。ならまっすぐ帰れるな」
「お疲れ様です、お嬢様」
拍子抜けした、って顔だな。当然か。ほとんど作業で一つの職を上げ終えてしまったんだからな。
聞いた話によると、この世界の人は一つの基本職を上げきるのに最低でも一年以上かけるらしい。もちろん例外はあるが、基本的にはそれが常識だ。
ケイン達はどちらかといえば例外に近い方で、一年弱で一つ目を極めたと言っていた。
あいつらは、確実に才能がある部類だ。それでも一年弱かけた道を、たった一日で歩ききってしまった。呆けてしまっても仕方ない。
「ん?」
この気配は、フィールドボスが湧いたか。たまーに湧く強敵だ。場合によってはその迷宮の最終階層のボスよりも強い。
ロザリエの感知範囲よりも先だが、進行方向的にぶつかるな。
仕方ない。片付けておくか。
素材を回収するセフィアたちに気付かれないようゴートラナの角をへし折り、フィールドボスのいる方向に放り投げる。発動するスキルは『投擲』と『石つぶて』だ。
角は一瞬で見えなくなって、そして遠くで轟音が鳴る。断末魔すら聞こえなかったのは、そういうモンスターだったからか、声を上げる間もなく絶命したか。
なんにせよ、気配は消えた。これでもう大丈夫だ。
「今凄い音がしましたね」
「はい。しかし私の索敵範囲よりも外側なようです」
「まあ、一応急いで帰るか」
もう何もないけどな。
急いで素材を回収したら十六階層まで戻り、隠し通路を抜けて、そして街に帰る。なんだかんだと時間が経っていたようで、門をくぐった頃には西の空が赤く焼け始めていた。
「……私、本当に魔術士を極めたんですね。すみません、まだちょっと実感が湧かなくて」
「仕方ない。だが、勘違いはするなよ。極めたと言ってもあくまでレベルのカンスト。ステータスは上がっていても技術的には未熟なままだ」
実際、魔法やスキルはただ使えばいいってものじゃない。例えば魔力操作系のスキルを使って工夫すればより効率的に、より高い威力の魔法を発動できる。
この場合の効率は発動速度だとか消費MPだとかの話だ。つまり継戦能力や瞬発力に直結する。
緊急避難が目的だから継戦能力は気にしなくてもいいかもしれないが、発動速度や威力については考えてもいいだろう。
まあ、そこは追々だ。セフィアの夢はあくまで大商人なんだから。
「そうですね。その辺りもいずれは教えていただきたいです」
「ああ。まあ、次やるときは別の職業だな」
「はい!」
セフィアの方はこれで大丈夫か。あとは、ロザリエだな。
「どうだ。こんな感じだが、お嬢様は任せてくれるか?」
「拒否する理由がございません。あのような非常識で効率的なレベリング、王家の方々もご存じないでしょう」
「そうか。なら良かった。引っかかる言い方はあったが……」
非常識て。
たしかにアイテムの消費が尋常じゃないし、普通はそこまでしないのかもしれない。スキルや装備の効果の状態異常だと特別有効って程の成功率じゃないんだよな。
ともかく、この調子で上位職の一つか二つはパッシブを取るところまで上げさせたい。それと装備の補正があれば、例え悪魔族が相手でも、逃げることもできないなんてことにはならなくなるはずだ。
次は、何を上げてもらうのがいいか……。
「あれ? あそこにいるのってケインさんですよね?」
「うん? ……ああ、本当だな」
こんなところに一人で何してるんだ?
通行人に片っ端から話しかけてるように見えるが……。




