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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第33話 モブサブの初心者レベリング!

 玄関を出て空を見上げれば長閑な空が見える。雨が降る様子はない。春の初めだからか多少風はあるが、それくらいだ。

 時刻は朝食の時間を過ぎた頃。普段なら生産セットに着替えて工房に行くところを、代わりにモブ傭兵風セットの革鎧に身を包み、腰には剣を差す。


「すみません、お待たせしました」

「いや、大丈夫だ。急ぐものでもないしな」


 玄関先で軽くストレッチをしていると、セフィアとロザリエが出てくる。ロザリエは普段と同じ、というのもおかしな話だが、いつも通りメイド服。違うのはセフィアだ。


「変じゃないですか?」

「ああ、似合ってる、なんて言われても嬉しくないか。傭兵用の装備だしな」


 セフィアが着ているのはこの日のために作った全職業共通で完全に性能を発揮する装備で、白シャツに黒いパンツをベースにしたシンプルな衣装だ。一応可愛らしさも意識したデザインにはしているが、革鎧も組み合わせてあるし、ブーツは少しごついし、やはり戦闘を意識してしまうものであることには違いない。


「そんなことないですよ! 嬉しいです!」


 ふむ、そういうものなのか。

 まあいいか。とにかく、準備ができたなら出発しよう。


「それで、アルゴス様、今日はどちらでレベリングなさるおつもりですか」

「着いてからのお楽しみ、じゃ納得しないよな。大迷宮だよ」

「ならお嬢様は傭兵の登録からになりますね」

「普通ならな」


 本当はセフィア以外には秘密にしておきたかったんだがな。しかしそれじゃあロザリエが納得しないし、色々と不都合だ。彼女も家族同然と思えば、この位の秘密の共有はいいだろう。


 首を傾げるロザリエをそのままに街の外へ向かう。申し訳ないが、どこで誰に聞かれてるか分からない。

 セフィアはもうどこを目指しているのか察したようだ。少しばかり緊張した面持ちを浮かべながらついてくる。


 門ではいつかとは違って荷物を検められることもなく、すんなり外に出てられた。そして向かうのは、以前ケイン達が主に潜っていた迷宮、ラデリア異平原の、その手前だ。


「やっぱり、あの泉に向かってるんですね」

「ああ」


 狩り場に一番近いのがあそこだからな。


「あの泉? 以前にも来られたことがあるので?」

「ほら、バグダ達が逃げるのに使った隠し通路がそこに、あって、だ、な……」

「なるほど、つまり、バグダたちの前に、お嬢様を連れて行ったと」


 うん、しまった。失言だった。

 あの日セフィアを連れていったのは秘密だったんだ。


 背中に凄い圧を感じる。おそるおそる振り返れば、殺気にも似た気配を宿したジト目があった。黒髪クール美女のそれは一部の特殊な趣味を持った男なら喜ぶかもしれないが、残念ながら俺には無いものだ。


 冷や汗を垂らしながら苦笑いするセフィアに救難要請の視線を向ける。


「私が強引に連れて行ってもらったんです。あそこでじっと待つことはできなかったので」


 お嬢様がそう言っているのに、ロザリエはなかなかこちらから視線を逸らしてくれない。戦えばまず確実に俺が勝つのに、なんだこの威圧感は。


「……はぁ。まあ、それならば仕方ありませんね」

「ほっ」


 良かった。許されたらしい。


「ですが、あまりお嬢様を危険に晒さないようお願いします」

「あ、ああ、分かってるよ」


 うん、やっぱりロザリエは怒らせちゃダメだな。前世の専務に怒られるよりずっと怖かったぞ。


 新たな決意を胸に秘め、いつもより少しばかり警戒しながら森に入る。この辺りのモンスターは大して強くないとはいえ、それは平均的な傭兵にとっての話。セフィアには十分すぎる驚異だ。


 そのセフィアは、なにやら耳と頬を赤らめている。急に熱が出た、というわけではなさそうだ。手を気にしているが、なんだろうか?

 足取りもしっかりしているし、いったん様子を見るか。


「着いたぞ」


 けっきょく彼女が調子を崩すようなことはなく、無事に泉に辿り着いた。昼間に見る泉は静謐というか、不思議な様子で、夜とはまた違った印象を受ける。物語や絵画だと動物たちが集まってそうな雰囲気だ。


 いや、そもそも水場なんだから動物は集まるか。


「ただの泉、ですね? ここから大迷宮に行けるのですか?」

「ああそうだ。この岩の下に隠されている」


 手を当てた岩は見上げるほどで、とても動きそうには見えない。砕こうとしてもマスタークラスのスキルにも耐える不思議岩だ。


 魔力を込めながらその岩を軽く押すと、まるで張りぼてかのようにするっと横にずれる。下から出てきたのは、いつかバグダ一味が現れた迷宮への階段だ。


「偶然発見されてもおかしくはなさそうですね……」

「実際、あの放火犯どもは知ってたしな」


 野営で魔道具を使おうとしてうっかりとか、考えられる状況はいくつかある。


「よし、じゃあ行くか」

「ここから先は私も初めてですから、楽しみです!」

「お嬢様、私からあまりお離れにならないでくださいね」


 まあ、まだこの先の門をくぐるまでモンスターは出ないんだがな。

 中だとどれだけ過保護になるのやら。安全重視の場所にして良かった。


 階段を降りて少しすると、背後の光が途絶える。岩が独りでに閉じたからだ。しかし通路内は十分に明るくて、いつかのようにセフィアの手を引く必要は無い。

 光源は、奥にある迷宮の門。工房の地下と同じだ。


「凄い……」

「たしかに、迷宮の門ですね。大迷宮の入り口と酷似しています」

「あっちよりは少し地味だがな。この先は十二階層に繋がってる」


 どうやらロザリエは大迷宮の門を見たことがあるらしい。セフィアは反応からして初見か。もしかしたら、ロザリエも大迷宮でレベリングをしたことがあるのかもしれない。


「セフィア、開けてみろ。触れるだけで良い」


 彼女の窺うような視線に頷き返すのはロザリエだ。こういうときにロザリエへの信頼が伝わってくる。なんだかんだ、セフィアもロザリエに強い感情を持っていそうだ。


 緊張した面持ちのセフィアが門に触れる。真っ白で神々しさ感じるそれは、いつかと同じく一切の音を立てずにこちら側へ開いた。内側に見えるのは、奥から青い光を届ける白い膜だ。


 通路内を照らす光は青いのに膜は白いから、若干頭がおかしくなりそうではある。この奇妙さも迷宮の醍醐味だとは思うが。


「これが迷宮の入り口、なんですね」

「ああ。この先にはモンスターがうじゃうじゃいる。魔力も濃いから、絶対にネックレスを外すんじゃないぞ」


 大迷宮の十六階層はほとんどレベルが上がってないやつには猛毒の海みたいなものだ。あの継続特典のネックレスが無ければセフィアはすぐに死にかねない。


「それと、傭兵にもお気を付けください。法の支配の届かない場所ですから、どんな不埒者があるかも分かりません」

「は、はい!」


 そうか、傭兵にも気を付けないとな。

 ゲームでも時々プレイヤーキラーはいたが、ただ死に戻りするだけだったからな。出会っても運が悪かったと思うくらいだった。


 しかし今は、本当に死んでしまう。俺も油断しないようにしないと。


「基本的に俺が前に出るから、ロザリエの側から離れないこと。魔法も許可したとき以外使うなよ。便利系の魔法でもヘイトをかったり罠を発動させたりするからな」

「分かりました!」

「よし、ならまずは十八階層を目指す。行くぞ」


 さて、今日で魔術士はカンストさせたいところだな。そしたら最低限、そこらのチンピラには殴り勝てるようになるだろう。



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