第30話 モブサブの新日常!
㉚
数日後、三人は当然のように揃って処刑された。公開処刑ってことにはならなかったが、別に見たいものでもないしどうでもいい。俺たちへの恨み言をあれこれ叫んでたらしいから、最後まで反省ゼロだったんだろうな。
そんな他責思考しかないようなやつがどうして大商会と繋がりを持てたのかと思ったら、両親のおかげだったようだ。件の商会主ベルドロンドはバグダの両親から受けた恩を返すために、その息子を支援してただけらしい。
あの夜の帰り道、セフィアからその辺りの話を軽く聞いた。
「ベルドロンド氏曰く、犯罪に手を染めてしまうようでは話は別、だそうで」
悲しげにそう言ってたらしいから、もしかしたら、甥っ子に向けるのと同じような情はあったのかもしれないな。
バグダがあれほど多様な商品を集められたのも、ベルドロンドの後ろ盾があったからなんだろう。彼が離れて以降は判断を保留していた商人達もこぞって絶縁に承諾したようだから、たぶん間違ってない。
むしろ彼の援助のせいで増長したのかもしれないと思ったら、ベルドロンドからしたらやるせない話だ。
しかしそうすると、ここまであれこれ放出しなくてもベルドロンドを説得するだけで目的は叶ったかもしれないな。別の目的もあったから良いんだが。
「……集中力が途切れてるな」
鍛冶作業中にまったく別のことばかり考えてしまった。
ちょうどひと区切りついたところだったので休憩することにして、思いっきり体を伸ばす。それほど凝ってないのは人間離れしたステータスのおかげだな。特に腰にきてないのは助かる。
不意に来客を知らせるアラームが鳴った。工房から出て階段を上がりながら気配を探る。これは、セフィアか。
「あ、アルゴスさん。依頼の武器を取りに来ました」
「お疲れさん。倉庫に出してあるヤツは全部持って行って良いぞ」
「全部ですか……。本当に仕事が早いですね」
主にスキルのおかげだがな。それと、ゲーム時代にプレイヤーたちで試行錯誤して発見した小技。
馬車には、ぎりぎり全部乗りそうだな。手伝いが誰も居ないが、いったんアルデアで保管するんだろうか?
「アルデアに運ぶのか?」
「いえ、もう向こうに持って行っちゃいます」
「そうか、なら俺も一緒に行こう」
積み下ろしの作業がいるからな。
助かりますと笑みを浮かべる彼女の横に乗り、馭者台から後ろに流れていく街を眺める。つい先日あんな大捕物があったとは思えないほどに平和で、賑やかな光景だ。大抵の人の表情は明るくて、死んだような顔で出社するサラリーマンの姿も見えない。
アルデアの前を通りかかると、店内に人が溢れかえってるのが見えた。新しい従業員の二人とロザリエが客対応をしてるようだが、特に従業員二人は見るからに忙しそうだ。ロザリエが涼しい顔をしてるのは流石だな。
しかしなるほど、これはセフィア一人になるわけだ。
「すっかり人気の店になったようだな」
「そうですね。ありがたいことです。今回の騒動で傭兵向けの商品もたくさん入荷できるようになったのと、しっかりコーナーを分けられるくらいに店が広くなったおかげですね」
災い転じて福となす、だな。そこまで品揃えが増えてるとなると、雑貨屋というよりは百貨店と名乗ってもいいくらいだ。
何にせよ、この調子で繁盛するならすぐに二号店三号店と増やしていけるだろう。その分人員管理の問題が発生するが、セフィアなら大丈夫か。そっちに関しては俺も聞きかじりの知識しか無いし、頼れる相手がいるといいんだけどな。
そんな状態でも、俺の武器はしばらくセフィアの店には置かれない。理由は、バグダを追い詰めるための契約があるからだ。
武具を売ってるらしい店の前で停まった馬車から降りて契約通りの商品を受け渡す準備をする。
「この店は目玉用の槍が一本と、その他十本です」
言われたとおりに運び込み店主と商人が話す傍ら、ついでに店内をざっと見回してみた。
うん、上々だな。
「終わりました。次に向かいましょうか」
店主には、満足いただけたらしい。満面の笑みだ。
今回バグダとの縁を切らせるために切った手札は、大きく分けて三枚。
一つが俺の作った武器を卸すこと。二つ目が大迷宮の三十階層以降の素材に関する加工方法。そして三つ目が、希少素材の一定量納品だ。
セフィア曰く、基本的にはこれらの組み合わせで納得してもらえたらしい。
元々セフィアは、先日のオークションの件があって商人たちに注目されていた。あれだけの剣、それも新品のものを出品したのだから、少なくとも彼らが持っていないような優秀な傭兵と鍛冶師との繋がりはあるはずだと見られている。
それを前提に、自分の持つ伝手を少し融通してあげましょうと交渉したわけだ。
能力の無い商人には使えない手段だったが、幸い、バグダの後ろには大商会がついていた。下手なやつとは取引させていなかっただろうし、紛れ込む下手なヤツもさすがに大商会の動きくらいは掴んでいる。
さらに職人の方も、未知の素材や未知の加工技術をぶら下げられては飛びつかざるを得ない。自分で研究したいなら素材だけ受け取ればいいしな。
今回渡した情報は錬金術や細工なんかの鍛冶以外の生産職に関するもの含まれてるから、多方面の職人を説得できた。
そうしてバグダの命綱を一つ一つ奪いつつ、ついでにセフィアはいくつも新しい販路を手に入れたってわけだな。自分の販路としてしまったのは、完全にセフィア自信の手腕だ。
「もうすぐ次の店です。次は、目玉の剣が一本とその他二十ですね」
「分かった。……ん? あれは、ケインたちか」
あいつらにも礼を言わなきゃな。最後の捕縛だけじゃなくて、素材集めにも強力してもらった。
バグダのヤツ、本当に多くの取引先を持っていたからな。一人じゃ十分な武具を作りつつ素材集めをするなんて、見本分ですら不可能だった。建築もあったしな。
「よお、奇遇だな」
「あ、アルゴスさん、セフィアさん。こんにちは」
声をかければ、四人それぞれの方法で挨拶を返してくれる。リリエはイメージ通りにしても、ルカのような子まで手を振ってくれるのは少し嬉しい。
ふむ、それにしても、ずいぶんレベルが上がったように見えるな。他人の強さなんて、俺にはなんとなくしか分からない。それでも強くなったように感じるくらいには、レベルアップしてるらしい。
装備も変わってる。この間の依頼の報酬で新調したのか。
武器はまだそのままみたいだから、機会があったら作ってやろうかと提案するのも良い。
「今日は、商談ですか?」
「いえ、納品ですね。活躍は聞いてますよ」
「アルゴスさんのおかげです。あ、手伝いますよ」
照れくさそうにしてるところはまだ初々しいな。そのうち流せるようにはなるだろうから、今だけだ。今だけにしても、こういう年下は可愛がりたくなるのがおじさんの習性、かもしれない。
「よっと。それで、最近は何か面白い話はあったか?」
「面白い話ですか……。この間の事件みたいなことは早々ないですね」
「それはそうだ」
あんな街中を舞台にしたような逃走劇、頻繁にあってはたまったものじゃない。引っ越しを考える。
「面白いかは分からんが、傭兵たちの大迷宮の最高到達階層が次々更新されてるらしい。勇者パーティもとうとう七十階層に到達したようだ」
「もうか。早いな」
このペースでいけばすぐに百階層か。その辺りから難易度の上がり方が大きくなるから、また停滞するとは思うが。
しかし、そうか。傭兵全体で先へ進んだか。予定通りだな。
思わず口角を上げそうになるが、事情を知らない彼らからしたら突然笑い出したヤバいやつだ。我慢する。
今回俺の持つ情報を大盤振る舞い気味にばらまいたのは、アルゴスの夢のためでもあった。傭兵全体の底上げをするのにちょうど良かったんだ。
何の理由もなく情報を出しても怪しまれるのは分かりきっているからな。痛くない腹を探られて目立つのは避けたかった。
今回の騒動は、その理由に持ってこいだったんだ。
おかげで自然に情報を広められて、傭兵たちも確かに先へ進んだ。最高の結果だ。
この調子で、少しずつでもアルゴスの夢に近づいていきたい。
全ての配達を終えて家に戻り、ノルマ分の武器も作り終えた。今日残した仕事は、夕食作りだけ。
あらかじめ買ってあった食材を取り出して、一人分には明らかに多いスープを作る。フライパンでバチバチを油をはねさせるステーキも、三枚だ。
香ばしい肉の焼ける匂いが漂ってきたタイミングでひっくり返すと、ちょうど人がやってくる気配がした。
「ただいま戻りました」
「おかえり。もうすぐできるぞ」
厨房に顔を出した客二人に伝えれば、食器の用意をしてくれる。セフィアもロザリエも迷った様子が無く、この家にすっかり慣れていた。
休みの日なんかは二人も食事の用意をしてくれるし、客というよりは居候に近いのかもしれない。
二人はまだしばらく忙しくて荷物を運び込むのも難しいからと、うちで寝泊まりするのを続けていた。
出来上がったステーキと野菜のスープ、それから近所の店のパンをダイニングのテーブルに並べて各々定位置に着く。うん、今日も美味そうだ。二人の料理に比べたら簡単なものだがな。
実際、迷宮産の良い肉を使ってるから、ただ焼いただけでも肉汁が溢れてきてなかなか美味い。白米が欲しくなってくる。
「今日も大変そうだったな」
「ですね。もう一人二人は従業員を増やさないといけないかもしれません」
「お嬢様、あの二人も優秀です。そのうち今日くらいなら二人でも回せるようになるでしょう」
ほう。ロザリエはちゃんと人を評価するんだな。もっとこう、お嬢様以外どうでもいいです、合格ラインもめちゃくちゃ高いです、みたいなタイプかと思ってた。
いや、それと新人二人の評価は両立するか。どっちだろうな?
「そうですね。ただ、もう少し休みを作ってあげたいので。でもそうすると、私たちの部屋がなくなるんですよね」
「……三階の部屋は新人たちに使わせてるのか?」
「はい、そういう条件で雇ってますから」
これは、つまり、そういうことか?
一応ロザリエに視線を向けてみる。
「お嬢様の仰るとおり、彼らには休みが必要でしょう。新しく雇う場合、条件に差をつけるのは好ましくありません」
あ、はい、お嬢様の味方ですと。
「というわけでアルゴスさん、このままここに住まわせてもらってもかまいませんか?」
良い笑顔だな……。
しかしこれは、どうなんだ? さすがに二十歳やそこらの女の子二人と同棲は社会的に問題がある気がするんだが。
いや、今更か? しかしあの時は緊急避難だったしな……。
……あ、だめだ。この目は知ってる。引く気が無いやつだ。
まったく、どうしてこう、強かなんだか。
「はぁ……、分かったよ。この家も一人で住むには広すぎるしな」
「ありがとうございます! あ、もちろん家賃は出しますし、家事もしますから!」
「家賃はいいよ。家事だけ頼む」
どうやら客から家族にジョブチェンジするらしい。変に目立たないかは心配だが、まあ、多少賑やかになる分は歓迎するか。本当に無駄に広い家を作ってしまったからな。




