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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第1章

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第29話 モブサブの報復パンチ!

 傭兵の一人が足下へ何かを投げつけた。途端に煙があふれ出て、二人の姿を隠す。

 少し先にバンデッドがあったはずだからそこに入ったんだろう。その瞬間を衛兵たちの目から隠すための煙幕だ。


 当然、行く先に見当が付いてる俺たちには意味が無いが、視界がきかないとなると足は鈍らせざるを得ない。

 バンデッドに着いた頃には傭兵たちもバグダも店にはおらず、どこかへ逃げてしまった後だった。


 慌てて逃げ支度をした跡がある。商品はそのまま残っているから、貴重品だけ持って飛び出したんだろう。


「どうやら裏口から逃げたみたいですね」


 ロザリエが見ているのは、奥の開けっぱなしになっている扉だ。


「そうみたいだな。往生際が悪い」


 今から追いかけるのは無理か。仕方ない。プランBだ。


「アルデアだ。標的が逃げた。離したとおり、衛兵たちに協力しながら追ってくれ」


 ストレージから取り出した通信用の魔道具を使い、ケインたちを初めとしたいくつかの傭兵パーティに連絡する。ギルドで依頼を出して雇った面々だ。

 事前に各地に配置してある。街の出入り口となる門はもちろん全て抑えてあるし、衛兵たちも既に封鎖に動いてるだろうからやつらがこの街から出ることはできない。


「私たちはどうしましょうか」

「いったん家に戻るか。俺やセフィアの足じゃもう追いかけられない」

「では、お嬢様をよろしくお願いします。私は追跡に加わりましょう」


 それがいいな。ロザリエも単独なら足手まといのいるあいつらには追いつける。


 家に戻ってから二時間後、雇った傭兵の一人から連絡が来た。少し前に発見の報告があったばかりだが、もう第二報か。


「――そうか。分かった。助かる」

「どうでした?」

「やつら、迷宮に逃げ込んだらしい。まともな装備じゃないし、勝手に死ぬだろうって話だ」


 セフィアはそうですか、と少し残念そうに呟く。

 不完全燃焼感があるんだろうな。


 しかしもう終わったっていうのは早計かもしれないぞ。


 やつらが逃げ込んだのは、迷宮の十一階層だ。放火の実行犯たちの最高到達階層がその辺りだったからだろうと連絡を寄越してきた傭兵は言っていたが、そうでない可能性に心当たりがある。


 抱えていた懸念の一つだ。


「少し出てくる」

「……私も付いていってもいいですか?」


 これは察してるな?

 どうするか。誰も見ていない状態なら、あいつらから守るくらいはできるだろう。しかしそんな事は関係なしにロザリエに怒られそうだ。


 しかしなぁ……。

 改めて紫の目を見る。


 うん、引かないな、これは。


「分かった。ただし俺より前に出るなよ?」

「はい!」


 セフィアを伴い街の外へ。検問のせいで想定より少し時間がかかったが、たぶん、まだ大丈夫だ。


 覚えのある森の中を進み、ラデリア異平原、ケインたちの普段潜っている迷宮を目指す。ただし目的地はその手前にある泉だ。


 暗い森の中だが、パッシブスキルのおかげで視界には困らない。セフィアは見えないから手を引いてやらなければならなかったが、それ以外で特に問題もなく泉に辿り着いた。

 その水面には空の三日月が映っていて、隣から綺麗、という呟きが聞こえる。


 静かだ。人の気配はない。ゲーム時代ならほっと一息吐いて写真でも撮ってただろう。

 そんなことを考えながら、泉のほとりにある大岩の周りを調べる。誰かが通った跡は、ない。


「考えすぎだったか……?」


 偶然見つけていた可能性も十分にあると思ったんだが。

 しばらく待っても静かなまま変わらない。


 仕方ないからこのまま返ろうかと踵を返す。直後、背後で重たいものを引きずるような音がした。

 慌てて振り返れば、岩の下に現れた階段から知った顔が三つ、出てくる。


 思わず口角が上がった。ビンゴだ。

 やつらはやはり、十六階層の隠し通路を見つけた上でギルドに報告していなかった。


「よお、奇遇だな?」


 セフィアを隠すように前へ出て、声をかけてやる。


「なっ、お前は、さっきの!」

「誰だこいつは! いや、誰でもいい! 早く殺せ!」


 喚くバグダに首を傾げる。

 ああ、そうか、いつも隠密状態で店に行ってたからな。それにしたって一度何も知らなかったときに店に行ってるんだから、覚えていても良いと思うんだが。ほぼ来客ゼロなんだし。


 まあなんでもいい。それより、だ。


「この道を選んだのは、運が悪かったな」


 何せ、他に人目がない。何をしても、目立つことがない。


 無言のまま斬りかかってきた放火犯たちの剣を、そのまま受ける。普段ならこんな恐ろしいことしないんだが、今は別だ。この方が、怖がらせられる。


「んなっ!?」

「こいつ、ホントに人間か!?」


 俺の体に当たった放火犯たちの剣は半ばから折れて飛んでいった。我ながらどうかとは思うが、残念ながらちゃんと人間だ。


 ただ、ちょっとばかし耐久(VIT)が高いだけでな。


 鍛冶師で髙補正が入るのは、VITばかりじゃない。力、つまりSTRもそうだ。


「歯ぁ、食いしばりな?」


 拳を振り上げ、鈍い音を響かせる。実行犯二人の意識は飛ばした。これで残るは元凶、バグダだけだ。


「ふ、フっ、ここで俺を捕まえても無駄だ。俺にはあの方がついてるからな。すぐに解放されて、代わりにお前らが痛い目をみる」


 あの方? 繋がりがあるとかいう大商会の関係者か?


「ベルロッド商会のベルドロンド氏ですね。彼なら真っ先にあなたとの取引停止に同意してくれましたよ」

「なっ……!? 貴様、アルデアの小娘だな! でたらめを言うな! あの方が私を裏切るはずがない!」


 いつも思うが、こいつの自信はいったいどこからくるんだ?

 この自己肯定感の高さはある意味羨ましいな。


「俺は正直何も知らないけどな、まあ、そう思ってるんだったら大人しく捕まって待ってたらいいんじゃないか?」


 というわけで、おやすみだ。


「ぶべらっ!?」


 ああ、すっきりした。なんだかんだで俺もかなりむかついてたしな。


「ふぅ、これで終わりだな。お疲れさん」

「ありがとうございます。本当に、助かりました」

「気にするな。それより、早く戻るぞ。でないとロザリエに俺が怒られてしまう」


 ふふ、と笑うセフィアにストレージから出した荷車を支えてもらい、三人を積み込む。まったく、本当に面倒をかけさせられた。


 さて、このまま衛兵のところに連れて行くか。こっそり連れてって放り出しておけば、日本であったみたいに表彰されるだとか、取材で囲まれるだとかみたいな目立つことにはならないだろ。



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