第27話 モブサブの報復前夜!
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翌日、昼過ぎに手元の素材で作れるだけの武器を作ってから街へくりだす。
目的が目的だからな。今回はフェンサーの仮面とかいう仮面舞踏会なんかで使われてそうなアクセと、なぜか認識阻害効果のあるイベント装備、影紛れのローブで顔がバレないよう変装した。
紫っぽい黒のフード付きローブに白の仮面は、我ながら怪しい格好ではある。しかし傭兵ギルドに行った時にこんな感じのヤツを何人か見たから、たぶん大丈夫だろう。認識阻害効果もあるしな。
家を出てから路地裏に行くまでは自前の隠密スキルを使う。それでもコソコソしてしまうのは、やはり逆に目立ちそうなこの服装のせいだろう。
しかし他に良い感じの変装ができそうな装備は持ってなかったしな。クリスマスイベントで貰ったトナカイの着ぐるみとか、ハロウィンイベントのカボチャのかぶり物とか、そんなのばっかりだ。
路地の出口、アルデアがある側の手前で物陰に隠れてスキルを解除する。それからおそるおそる通りに出てみるが、特に注目される様子はない。
こっそり胸を撫で下ろして通りを進む。この分なら、堂々としてさえいれば大丈夫だろう。
十五分少々歩くと、目的の店が見えてきた。バンデッドと書かれた看板のそこには、先日と同じく客の姿はない。
中に入れば雑然とした陳列棚があって、その一つ一つをよくよく見てみれば値段も割高だ。せめて安かったらまた違ったかもしれないが、これじゃあ客は来なくて当然。その上店主の態度も悪いんだから最悪だ。
「はぁ……。くそっ、だぁれも来やしねぇ……」
ん? 俺には気が付いていないのか?
もしかしてこのローブの認識阻害効果、思ってるよりも強力なのか? モンスターには大して効果が無かったはずなんだが。
こいつを貰ったイベントは、たしか、夏のホラーイベントだった。怪奇現象を解決してほしいという住人の依頼が導入だ。その怪奇現象の原因が纏っていたローブを報酬として貰ったんだったな。
あ、なるほど。あのイベントだと住人は誰一人このローブを着たヤツに気がつけていなかった。つまりは、人種族特攻の認識阻害効果なんだ。
「やっぱあのガキの店を潰しきれなかったからか? 畜生、俺の客を奪いやがって……」
奪うも何も、元々客なんかいないだろうに。
ともかく、やはり火事の黒幕はこいつで間違いないらしい。
ボイスレコーダーなりビデオカメラなりがあれば記録してたんだが。
「このままじゃマジで破産だ。仕入れ代も払いきれねぇ。また借金してどうにかするか? 半分くらい取引を断わられちまったが、まだいくつか伝手は残ってる。そこに今ある商品を質に入れりゃ、なんとか……」
代金を払い切れてない商品を質に入れるようとしてるのか?
なんというか、さすがだな。もはや呆れるしかない。
「最悪ベルドロンドの旦那がどうにかしてくれると思うが、くそ、なんで俺がこんな悩まなきゃなんねぇんだ……!」
ベルドロンド? セフィアたちが話に出してるのを聞いた気がする。一応伝えるだけ伝えておくか。
また何かぼやいてくれないかとそのまま待っていると、覚えのある気配が二つ近づいてきた。放火の実行犯だろう傭兵二人組だ。
こうして改めて明るいところで見ると、なんともまあ酷い悪人面だ。バイアスは入ってるにしても、こんな世紀末のモブチンピラみたいな顔はそうそう無いんじゃないか?
「旦那、返ったぜ」
「ちっ、てめぇらか」
「わざわざ見てきてやったってのに、ひでぇ言い草だな?」
未だに協力してるわりには仲が悪そうだ。上手く脅せば自白してくれるかもしれないな、これは。
「うるせぇ! 元はといえば、てめぇらかキッチリあのガキの店を潰さねぇからいけねぇんだろうが!」
「そうは言うけどよ、まさか数日で全焼した建物を直しちまうとは思わねぇだろ」
「……ちっ」
さすがのバグダもこれには言い返せないか。
そりゃそうだ。建てた俺自身、あの速度はズルだと思う。
「で、どうだったんだよ、あのガキの店の方は」
「もうすぐにでも再開できそうだったぜ。なんなら二階も売り場になるんだとよ。まだ店を開けないのは店員を募集してるからみたいだな」
「そんだけ広くなるってことか……。お前らが店員になって荒らすのはどうだ?」
いや、無理だろ。
「顔バレしてるからな。諦めな」
傭兵どもはバグダよりは頭が回りそうだな。こいつら、この感じならまともな仕事してたらそれなりに暮らしていけてただろうにな。金に目がくらんだのかなんだか知らないが、本当に馬鹿なやつらだ。
「じゃあ、しょうがねぇな。もう一度事故にあってもらうか」
きた。放火の指示だ。
バグダがカウンターに置いた布袋は、報酬か。
「へへ。そうだな。あの嬢ちゃんも運が悪い」
「だな。まあ、旦那の邪魔をしちまったからバチが当たったんだろうよ」
好き勝手言いやがって。このままぶん殴ってしまいたい。
だがダメだ。決定的な証拠を掴んで突き出さないと。最悪こっちが悪者だ。
短慮でセフィアの夢を邪魔しかねないことをしてはいけない。
布袋の中の金を数えながら下卑た笑みを浮かべる傭兵たちを睨み付けながら、そっと深呼吸をする。
「今夜にでも頼むぜ」
今夜……。
「いや、すぐには無理だな。まだ衛兵どもが警戒してやがる。今やったら確実にバレて、俺らもあんたもおしまいだ。一週間は待ってくれ」
「そうか。ならタイミングは任せる。ただし、できるだけ早く頼むぞ」
「分かってるよ」
こちらとしてはさっさと動いてくれてもいいんだが、時間が延びればその分勝手に追い詰められてくれる。正直、どちらでもかまわない。
心情だけで言えばもっと苦しんでほしいところだから、そういう意味じゃこの傭兵どもの提案は渡りに船だ。
これから暫くは傭兵たちの動きを追いつつ、ここにも通うか。現行犯逮捕できたら後が簡単だし、できれば決行日を知りたい。
それから一週間、バンデッドに通い続けた。バグダは日に日に焦燥感を募らせており、ここ数日は閉店時間になる度に棚を蹴ったり商品をあちこちに投げたりと物に当たっている。
正直言って、セフィアのことは関係なく、時間の問題で勝手に自滅していたと思う。
それでも、やはり俺たちの手で落とし前をつけさせたい。
セフィアの店の方は新しい従業員も雇って、教育まで終わっている。しかしバグダを潰すためアレコレでオープンを遅らせている状態だ。
ただ、報復にかまけて本業が疎かになってもいけないし、新しい従業員の生活もある。バグダの件が片付かなくても、数日中には開店するらしい。
今日も棚からもぎ取ったフライパンでカウンターを殴るバグダを眺める。ガンガン煩くてかなわないし、そろそろ帰るか。
踵を返して入り口に向かうと、向こう側から例の傭兵たちが来るのが見えた。
「よお、旦那」
「てめぇら! いつになったら動くんだ! もう限界だぞ! 誰も金を貸しやがらねぇから商品の補充もできねぇ! 飯だって最近はまともに食ってねぇんだ! てめぇらのせいだぞ!」
自業自得だろ。
商品の補充も、自分がそうして当たり散らかしてダメにするからだし。
借金すらできないのはこっちが原因ではあるが、それもそもそもバグダの信用がほとんど無いからできたこと。やはり身から出た錆でしかない。
「まあ落ち着けよ。ようやく衛兵どもの警戒が緩んだからな」
「明日の夜になれば、あんたの天下だ」
「……くく、ならいい。頼んだぞ」
明日の夜、な。また誰も居なくなった時間を狙って火を付けるつもりか。
じゃあ、こっちも準備しないとな。こいつらの人生を、何もかもを、終わらせる準備を。




