第25話 モブサブの逆襲協力!
㉕
「噂を流すのに協力してほしいです。今回の火事が彼の仕業だと。他にも悪事を働いてるかもくらいに仄めかしてもかまいません」
噂か。いい手だ。
真実として突きつけるわけじゃないし、確実な証拠を提示する必要は無い。
それに、話に聞く様子なら信じこませられるだろう。
「まずはそうしてお客さんからの信用をマイナスにします」
「分かった。それで、その後は?」
「バンデッドの近くに出店して完全に客を奪うつもりです。こちらは今ある伝え手だけでも十分だと思います。あとは、バグダの動き次第ですね」
ふむ。今の事業を潰すところまでか。
「足りないな」
「え?」
たしかに、あの店を潰すだけなら十分だろう。
しかしそれじゃあ、懸念が残る。
「店だけ潰しても、そいつはこの街に残るわけだ。それじゃあまだ嫌がらせはできてしまう。だから、最低限この街にいられなくすること、できれば他の街でも身動き取れない状態にまで持っていくべきだ。徹底的に潰すならな」
ああいう手合いは中途半端に痛めつける方が怖い。追い詰められた手負いのネズミほど猫を噛むもんだ。ましてや、今のセフィアは猫というほどではないんだから、そのまま殺されてもおかしくない。
「……分かりました。なら、最終目標は放火の下手人として公に裁いていただくところですね。この街ならば極刑は確実ですし」
「だな。じゃあそのために必要なことは?」
「放火の証拠集め、ですね」
最低ラインはそこだな。
できれば逃走も封じたいところだ。
「ですがアルゴス様、アレも一応は商人です。そう簡単にボロを出すでしょうか?」
「そこだな。極刑になる罪状となると、証明にも確実性が求められるだろうし、もう証拠隠滅されててもおかしくない。そこで、だ」
無いなら、作れば良い。
偽造するってことじゃない。追い詰めて、もう一度手を出させるんだ。
「ああいうバカは同じ過ちを繰り返す。追い詰められるほどにな。だからもう一度同じ状況を作る」
「そうしてお客さんを完全に奪うんですね」
「くわえて、取引先もな」
セフィアの悪い癖だな。前々から思ってはいたが、客にばかり目を向けて、同業という存在を忘れがちだ。
「取引先、ですか……。先ほど言った噂だけではダメですか?」
「足りないな。バグダのやつは、どうして放火したり傭兵を使って嫌がらせしたりしたと思う? 傭兵たちはどうして店で暴れるなんて犯罪じみた依頼を受けたと思う?」
「……そうする方が得だと思った、から?」
おっと、思わす悪い笑みを浮かべてしまった。今のは確実に悪人面だな。
「正解だ。つまり、デメリットよりメリットの方が大きいと判断したんだ。これと同じことは、あいつの取引先にも言える」
「バグダと取引するデメリットがメリットを上回らない限りは、取引が続けられる。バグダは、殺しきれないかもしれない……」
「そういうことだ」
だから、蜘蛛の糸を垂らしかねない相手を根こそぎ奪う。あいつに仏様は要らない。
「その為の知恵も、知識も、技術すらも、俺が貸してやる。投資ってやつだ」
「……分かりました。よろしくお願いします。必ず、息の根を止めてやりましょう」
うんうん、いい目だ。これだけ覚悟が決まってるなら問題ないな。
性格的に犯罪にはしる事もないだろう。可能性があるとしたら、こっちだな。
「証拠集めは、ロザリエか?」
「はい、彼女に頼むつもりです」
「それがいいな。いいか、二人とも。こういう事で大事なのは、こちらが悪者にならないことだ。絶対に、隙を見せるな。違法な手段を使うだとか、反撃材料を向こうに与えるな。肝に銘じてくれ」
返ってきた肯定に、頷いて応える。ロザリエの様子が若干おかしかったから、そういう手段も使う気だったんだろう。危ない。
バレなければいいが、絶対はないからな。
「それじゃあまずは新しい店舗を探さないとですね」
「ああ。……いや、どうせなら、今の場所に建ててしまおう。俺がやる」
「いいんですか?」
その方が早いしな。
もちろん建前上の報酬は貰うが、これについては貰ったって事実さえあればいい。
「ありがとうございます。では、希望の図面を用意しますね。あ、それから、追加の報酬を払うので周囲の焼けた建物についても修繕をお願いしたいです。もちろん持ち主に確認してからですが」
「その心は?」
「味方は多い方がいいですからね」
驚いた。
さっきのやり取りだけで同業者とのアレコレにも目を向けられるようになったのか。
血のなせる技か?
いや、だとしたらどうして父親は失敗したんだって話にはなるんだが。
ともかく、思っていた以上に才能に溢れてるのかもしれない。彼女も主人公、なのかもしれないな。
翌日、さっそく動き出す。俺のすべきことは、まず周囲の店舗の修繕だ。
確認は昨日のうちに済ませたらしいから、朝のうちに各店主に希望を聞いて午後から作業を開始する。
不幸中の幸いと言うべきか、跡形もなく焼けてしまったのはセフィアの店だけだ。他はある程度形を残しているから、スキルを使えばすぐに直せてしまう。地球じゃ夢物語と言われるような直し方も不可能じゃない。角材同士を継ぎ目なく癒着させるとか。
多少改修の希望もあるが、誤差の範囲だろう。
この間にセフィア側も色々と動き回ってるはずだから、俺も頑張らないとな。
まずは焼けてしまった部分を確認して、生きてる木材を残す。土台は石だから気にしなくていいな。
「この木は、うん、ストレージにあるな」
同じ種類の木材を出して、確認した内部構造になるように加工する。それをひょいと持ち上げて、あらかじめ焦げた部分を切り落としておいた面に合わせた。
「『ジョインテ』」
細工師のスキルを発動すると、木材の端と端が溶けるように混ざり合って、そして定着する。軽く力を込めてみてもズレる様子はない。
うん、しっかり結合できてるな。
「お兄さん、凄い力持ちだね。そんな大きな木を片手で支えるなんて」
「あ、ええ、力には自信がありまして……。はは」
しまった。目立ってしまった。この世界でも普通の大工はここまで力が無いのか。
とはいえ今更だよな。非力なフリをするのは。
仕方ない。感心してる風だし、今はセフィアの夢のために急いで修繕を終える方が大事だ。この調子で終わらせよう。
全ての修繕を終えたのは翌日の午前中だった。あまりの早さに追加報酬を渡されそうになったり、別の仕事を依頼されそうになったりしたが、追加報酬以外は全て断わった。
まだまだやらなければいけない事があるからな。
そのままアルデアの再建に入る。図面は昨日の夜に受け取った。
土台以外を新しく作り直すことになるから、他よりは時間がかかる。周辺にも配慮しなければいけないし、俺の家みたいに一日でというのは難しいかもしれんな。
せっせと作業をしていると、不意に覚えのある気配が近寄ってくるのに気が付いた。ケインたちだ。
「こんにちは、アルゴスさん。もうこんなに出来てるんですね」
「よお。頑張ったからな」
時間は、もうすぐ昼か。ちょうどいい。
「お前ら、昼食はまだか?」
「はい。お話次第でどうするか決めようと思ってたので」
「なら、このままうちで食べていけ。話もそこでしよう」
彼らを伴って、一度家に帰る。彼らを呼んだ目的の話も、あまり人前でするものじゃないしな。
家の大きさに驚くケインたちに見学の許可を出して、俺は調理に入る。メニューはカレーだ。個人の部屋と地下の工房以外を回るだけだから、煮込みに入るくらいには戻ってくるだろう。
四人が戻ってきたのは予想通りのタイミング。ゲーム時代の名残であるカレールーを鍋に落とすと、ちょうどキッチンの扉が開いた。
「凄かったです! ありがとうございました!」
「こういう家、憧れるね」
「いつか住んでみたいですねぇ」
リリエがチラチラ見てるのは、カロックか。なんだこいつら、そういう関係だったのか。
カロック、頑張れ。金さえあるなら作ってやれるぞ。
「こっちは煮込むだけだ。待つ間に用件を伝えよう」
隣のダイニングに移動して、作り置きの茶を出してやる。氷入りには驚いていない。魔法があるから庶民でも簡単に手に入るんだろう。
「今回呼んだのは、受けてほしい依頼があるからだ。内容はいくつかの鉱石とモンスター素材の納品。量はあればあるだけ良い。報酬は基本料金が一万ユグと迷宮に関する情報。プラスで鉱石や素材を相場より少し高めで買い取る」
「アルゴスさんが言うなら、僕たちの実力で問題ないってことですよね?」
「ああ。俺の渡す情報があれば、にはなるがな」
というか、渡す情報は報酬という建前をとってるだけで、依頼遂行のための最低条件になるものだ。ついでにこいつらのレベルアップにも繋がるだろうし、ちょうど良い。
「分かりました。引き受けます」
「……もう少し相談とかしてもいいんだぞ?」
「普段ならそうしますが、アルゴスさんですから」
そう言ってくれるのは嬉しいが、騙されないかが心配だ。俺が詐欺師なら、ある程度仲良くなって信用を得てから騙す。
「……あまり人を信じすぎるなよ? ともかく、ありがたい」
「肝に銘じます。ありがとうございます」
「じゃあ、細かい話をしよう」
ケイン達には迷宮内の抜け道の位置と目的の鉱石を発見しやすいポイント、それからモンスターの攻略情報を教えた。これでしばらく集めてくれたら、十分な量が確保できるはずだ。
集めた素材とその一部から作る武具、そして別の情報を使えば、バグダの取引先との交渉材料には十分なはず。
あとは、セフィア次第だな。




