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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第1章

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第24話 モブサブの火事現場!

 できれば外れていてくれと願いながら徒歩十分の道を駆け戻る。人の波に逆らうほどに、近づく現実に嫌な汗が滴る。


 しかしこういう嫌な予感ほど当たるものだ。暗くなったはずの空を煌々と照らす炎は、間違いなく、雑貨屋アルデアを薪として燃え盛っていた。


「そんな……」


 轟々と鳴る炎は左右の建物にも手を伸ばしており、放っておけばここら一帯が焼け野原になりかねない勢いだ。魔法で延焼防止の処理がされたおかげでこれ以上広がることはなさそうだが、アルデアは全焼を免れないだろう。


 呆然と、魔法やバケツリレーで必死に消化活動を行う消防隊を眺める。同じような表情をしているのは、火の手に掴まれた周囲の店を営んでいた商人たちだろうか。

 あの炎を消し止められるような魔法は、残念ながら鍛治師には使えない。ただ、見ていることしかできない。


 俺ですら目の前の現実を受け入れるのに苦労しているのに、セフィアは、いったいどれ程のショックを受けているだろうか。


「お嬢様……」


 ロザリエがそっとセフィアの両肩に手を置いた。その青い目も、主人の紫と同じように荒れ狂うオレンジを映している。


 くそっ。どうしてこんな事になってるんだ。

 まさか、バグダとかいう商人の差金か?


 いや、そんなバカなことをするわけ――


「アイツらは……」


 あの傭兵たちだ。酔ったふりしてアルデアで暴れた。

 どうしてこんな所に。それに、あの悪役のような笑み……。


「そこまでバカだったのか、アイツら」


 まだ確定したわけじゃない。が、ほとんど確定だろう。

 許せない。セフィアの店を、夢を、燃やしやがって。


 今すぐ殺してやりたいが、それじゃこっちが悪者だ。

 それより、今はセフィアか。折れてしまわないといいんだが……。


 心配はしても何かをしてやることはできない。ただ、消火の終わるまで、微動だにしない彼女のそばで待つ。


 ようやくその火が消し止められたのは一時間以上経った頃だ。

 枠組みを辛うじて残すばかりの建物は、二階部分のほとんどを失ってしまった。一階も部屋の境が曖昧で、商品らしき物の燃え残りがちらほら転がっている。


「油を撒いた跡があったそうだ」


 無事なものを確認していた二人へ伝える。


「放火、ということですか」

「ああ」


 これは、言うべきだろうか。例の傭兵たちが居たということは。

 無謀なことをしないだろうか。我が身を顧みない特攻じみたことをしないだろうか。


「いつかの傭兵たちが悪どい笑みを浮かべながら立ち去るのを見ました。犯人は、彼らですね」

「……気がついていたのか」


 その割には冷静だ。本当に?


「ありがとうございます。気にかけてくださって」

「当然のことだ。それより、ここは冷える。一旦うちに行こう」

「そうですね。助かります」


 淡々と告げる彼女の声に、怒りは見えない。いや、怒りどころではなくて、なんの感情もない。

 必死に押し殺してるんだ。


 無言のまま帰宅して、リビングへ招く。セフィアの後ろに控えようとするロザリエも座らせて、二人の前に温かなお茶を置いた。

 俺も同じものを一気に呷る。


「無事だったのは、金庫に入れていたお金くらいでした。他は全滅です」

「そうか。……家族は?」


 セフィアが首を横に振った。


「祖父母と母は他界してます。父も、失踪して行方知れずです」


 頼れる所は無し、か。


「しばらくはうちを使うといい。部屋は余ってる」

「ありがとうございます」

「気にするな」


 再び沈黙がおりた。セフィアは何かを考え込むように目を伏せっており、ロザリエはそんな彼女を横目に見ながら心配げな空気を纏っている。

 声を発して良いのかも分からない。代わりに茶を飲もうとして、さっき飲み干したのを思い出した。


「その、なんだ……命があって良かった」


 今の言葉は正解か?


「……ふふ、本当に、ありがとうございます。でも心配しなくても大丈夫です。これくらいで折れたりはしません」


 初めて見せられた感情の色に、そっと安堵の息を吐く。


「幸い、アルゴスさんのおかげで資金には余裕があります。前よりは小さくなりますが、新しい店舗を購入して、アルデアを再開することは可能です」


 たしかに、オークションで稼いだ額は莫大だ。これは強がりじゃない。

 だが……。


「ただ、このまま再開しても同じ事になる可能性が高いです。二回目は、泣き寝入りするしかないでしょうね。ですから――」


 セフィアの浮かべたのは、今まで一度たりと見たことのないような、好戦的な笑みだ。その笑みで、紫色の瞳が、真っ直ぐ俺を射貫く。


「徹底的に潰します。泣いて叫ぼうが、許しを懇願されようが、もう遅いのだと過去の己を呪うしかないくらいに。アルゴスさん、私に、力を貸してくれますよね?」


 ふ、なるほど。こんな一面もあったのか。

 決定事項だと言うような強い物言いも、背筋に冷たいものが伝うような気迫も、どれも知らない。知らないが、悪くない。

 答えは、決まっている。


「まずは、何をすれば良い?」


 俺も腹に据えかねてるんだ。やれるだけのことをしようじゃないか。



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