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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第1章

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第20話 モブサブの街歩き!

 オープンしてからまだそれほど経っていないはずだが、大きく作られた窓からはいくつも客らしい顔が見える。どうやらそれなり以上に賑わってるみたいだな。


 とはいえまだ初日。物珍しさで来てるだけの客が大半だろう。まずはどれだけのリピーターを確保できるかだな。


 しかし、従業員さんへ挨拶するには忙しそうだな。あとにするか?

 どうせ帰りもこの辺りは通るんだし、あちこち回って、店を閉める夕方くらいに来た方がいい気がする。商売の邪魔をするのも悪いしな。


「あ」


 目が合ったな、セフィアと。何気なく覗き込んだだけだったんだが。

 このまま素通りは、少し気まずいか。


 仕方ない。ざっと店内を見て、いくつか買っていこう。そのついでに声だけかける分には邪魔にならないだろ。


 両開きの大きな戸を押し開くと、チリンと鈴がなった。客の何人かがちらりとこちらを見るが、大半は気にした様子がない。

 思っていたよりも広い店内には所狭しとアクセサリーや小物、家具といった、日常で使うような商品が並べられており、隅の方には申し訳程度にポーションの類いも置かれていた。


 なるほど、これでは俺の武具を置くのは難しいだろう。スペース的にも、ラインナップ的にも。無理に頼んでいたら夢の邪魔をすることになっていただろうな。ターゲットとなる客層を絞るのは大事だ。


 この近くではこういった店は見ていないし、市場調査もしたんだろう。さすが大商人として成り上がった家の出なだけはある。マーケティングについてはいくらか心得があるらしい。


 セフィアは、レジか。従業員の方は接客中と。

 うん、予定通り適当なものを買ってすぐおいとましよう。


 さて、何を買ったものか。生活に必要なものは大体揃えてあるし、必要になったら自作できる。とすると、小物か?


 お、インテリアに良い感じの鉢があるな。あれに手持ちの花か何かを植えて飾ろう。


「うん? あれは、時計か」


 そういえば、時計は持ってないな。時間に追われない生活になってたせいで気がつかなかった。

 さすがにああいった機械は作れないし、買っておくか。シンプルな壁掛け時計がいい。


「十二時間か……」


 ゲーム時代には昼夜以外に時間という概念はなかったからどうなっているのかと思ったが、これも地球準拠なんだな。ゲーム故の分かりやすさ優先がしっかり影響してるらしい。正直、助かる。


 カレンダーも同じグレゴリオ暦だし、四季もあるし。その辺は地球というよりは日本準拠か。

 まあ、とにかくお金の単位だけ覚えたらいいってことだな。それもユグクロのユグだし、簡単だ。


 他に必要なものは、とくに無さそうか。効果の無いアクセサリーをつけるようなガラでもないし。


「これを頼む」

「はい! 三〇〇〇ユグです。来てくれたんですね」

「まあ、初日だしな」


 三千か。ほぼ時計の値段だな。

 食費に比べると高く感じるが、このくらいの社会だと手作業だろうし、こういった機械は仕方ない。


「賑わってるみたいで安心したよ」

「本当です。この調子で頑張ります! ……はい、三〇〇〇ユグちょうど。たしかに」

「あまり長居しても邪魔だし、また閉店時間くらいに来るよ。従業員さんに挨拶だけさせてくれ」

「分かりました。待ってますね」


 うん、良い笑顔だ。この様子なら大丈夫だな。

 しかし、微妙に剣呑な視線を感じるのはなんだ? いくつも向けられてるんだが。


 視線の主は、男どもか。さてはこいつら、セフィアを狙ってるな?

 やっぱりこの手の客は出てくるか。リピーターになるだろうし、悪いことではない。ただ、不安要素でもある。今のところは問題無さそうだが、妙な気を起こしそうなら注意しないとな。


 他の店みたいに用心棒を雇うよう勧めることも考えておこう。

 ……あまり口を出し過ぎるのもよくないか。二十歳も十分立派な大人だしな。つい甘やかしたくなってしまうが。


 ともかく、いきなり躓いてるなんてことはなくて安心した。立地も悪くないし、周りの店との関係さえこじれなければ、きっと失敗はしないだろう。


 アルデアを出て、さらに通りを進む。途中で一度住宅地に入ったが、すぐにまた店ばかりが並ぶようになった。

 並ぶ店のラインナップはアルデア周辺とあまり変わらない。たぶん、さっきの住宅街に住む客はここと向こうとで取り合う感じになるんだろうな。


 とはいえ、アルデアまでは多少歩くし、あの住宅地じたいがそこまで広くなかった。よほどでなければ、セフィアがこちら側と揉めることはなさそうだ。


「ん、こっちにも雑貨屋があるのか。バンデッド、ねぇ」


 雑貨屋の名前としてはどうなんだ?

 いや、別の意味がある言葉かもしれないしな。


 セフィアのライバル店かもしれないし、一応覗いてみるか。


「い、いらっしゃいませ!」


 中に入ると、笑顔の下手な中年の男がすり寄ってくる。いや、下手というか、もの凄く媚びへつらった感じで、若干不快だ。

 嫌らしいというか、目に金のマークを浮かべているのを必死に隠そうとして隠し切れてないような。


 信用のならない笑みというべきなんだろうか。


 と、あまり人の笑い方を悪く言うべきじゃないな。それより、商品だ。


 並んでいるのは、鞄類に小物、調理器具、傭兵用の薬、武器に防具、日常遣いの服に、なんだか怪しげな物体まで、これと言って括ることができないような品々。

 雑貨、といえばそうではあるんだろう。しかしどういった客層にアプローチしてるのかはまったく分からない。


 ファンシーなぬいぐるみと怪しい物体X、たぶん錬金術師向けの何かを混ぜて並べてるのはどういう意図なんだ?


 一応店内をぐるっと回ってみたが、エリア分けもめちゃくちゃで目的のものを探すのに苦労しそうだった。かといって宝探しのようなわくわく感が演出されてるわけでもないし。


 まあ、ここにセフィアが負ける道理は無いな。


 あと、ずっと中年店主がついてくるのが鬱陶しい。それだけ至近距離にいるんだったらセールストークの一つでもしてくれたらいいのに、それすらないからな。ただ邪魔なだけだ。


 邪魔した代わりに何か買っていこうかとも思ったが、気が削がれた。このまま出よう。


「ちっ、冷やかしかクソ野郎が! 金が無いヤツは来るんじゃねぇ!」


 おっふ。これは客がいなくて当然だな。自業自得だ。


 こっそり溜め息を吐きながらバンデッドを出た後は、目に付いたものを頼りにあちらこちらをぶらぶらした。教会でゲーム内でしか面識のない神に祈ってみたり、八百屋や肉屋に立ち寄って適当に食材を買ってみたり、あの店以外はなかなかに充実した散歩だったと思う。


 書店も見つけられたから、定期的に通うつもりだ。時間を潰すにも、アルゴスの夢のための調べ物にも必要だから。

 よくよく考えたら、この文明レベルだと専門の店を構えられるほど本が一般的じゃない可能性もあったが、そうでなかったんだから良しだ。


 ふと空を見れば、西の地平線あたりは既に茜色に染まり始めている。今は春先だから、十八時過ぎくらいだろうか。


「ずいぶん歩き回ったな」


 日本で社会人をしてたころなら、とっくに疲労困憊でそこらのカフェにでも入ってくつろいでいただろう。サブとはいえ、ステータスは十分超人の域だからな。やりこんでおいて良かったとこんな形で思う日がくるとは思わなかった。


 なんとなしに歩いていると、人通りが徐々に多くなってくる。どうやら大通りの方にまで来てしまっていたらしい。

 引き返してもいいが、せっかくだし、少しくらいそちらを歩くのも悪くない。今はなんだか、そんな気分だ。


「うん?」


 大通りに出てすぐ、覚えのある四つの気配に気が付いた。ケインたちだ。

 向こうも俺に気が付いたようで、人の隙間を縫いながらまっすぐ向かってくる。カロックのスキルにひっかかったんだろうな。


「こんにちは、アルゴスさん」

「数日ぶりだな、お前ら」


 四人は一緒に旅をしていた時とほとんど同じ格好で笑みを向けてくる。ケインもカロックは元気そうだな。ルカとリリエは、少し疲れが見える。体力というよりは精神的な疲れか。たぶん、魔力切れだな。


 基本職のうちは魔力は魔法くらいでしか使わないからな。近接メインの二人はそういう疲れはないか。


 そういえば、この辺もゲーム時代との差異だな。魔力はあるが、スタミナと体力は数値として見えなくなった。メニューを開いてみても、両者を表わすSPやHPという文字がない。


 まあそれはいいか。


「迷宮帰りか?」

「そうです。外のですけどね」


 こいつらのレベルじゃまだ大迷宮には挑まないよな。一応五階層くらいまでは問題ないと思うが、そんなところに潜っても大した収入は得られない。

 それなら、街の周辺にいくつかある別の小さな迷宮に潜った方がましだろう。


「アルゴスさんは、散歩ですかね?」

「そんなところだ。暇だったからな」


 一瞬視線が手元にいったな。なんでだ?

 あ、鞄か。たしかに、買い物かなにかしてたら荷物がないとおかしいな。


 そうか、鞄か。これもセフィアの店で買うべきだったな。旅用の大きなやつはエルダスが持たせてくれたが、街で持ち歩くようなのは持っていない。自分で作るにはセンスが不安だし。


「ねえケイン、せっかくだし、夕ご飯に誘ってみたらどうかな?」

「そうだね。アルゴスさん、ルカの提案ですけど、どうです?」


 夕飯か。食材に関してはストレージに入れておけば腐らないし、問題ないな。


「ああ、いいぞ。先にギルドへの報告か?」

「そうですね。あ、ギルドの酒場でもいいですか? あそこのご飯、美味しいんですよ」


 ほう。

 まあ、拒否する理由はないな。他に良い店を知ってるわけでもないし、ましてや迷宮帰りの格好で入れる店となるとなおさらだ。


「大丈夫だ。傭兵ギルドは初めてなんだが、気を付けることはあるか?」

「そうですね、喧嘩を売られたら無視するか、一瞬で片付けるかするってくらいですね」

「あ、ああ、分かった」


 一応買う選択肢もあるのか……。大きな騒ぎにならなかったらなんでもいいってことなんだろうな。

 基本無視する方向でいこう。目立ちたくないし。


 しかし、ギルドの酒場でいいって言ったのは失敗だったかもしれないな……。



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