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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第1章

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第19話 モブサブの新生活!

 オークションの翌日、窓から差し込む朝の光で目を覚ます。新居の二階、東側にあるこの部屋には、朝日がよく入った。

 この家で暮らすようになってまだ数日だが、多少寝ぼけながらでも朝の支度を終わらせられるくらいには慣れてきた。難点といえば、こだわりにこだわった寝具やソファから起き上がるのが精神的に大変だってことくらいだろうか。


「今日は、何するか」


 喫緊でやるべきことは全て終わった。新しいタスクは発生していない。

 社会に出てからこんなことはなかったから、正直、何をしていいか分からない。ただ、何もしないのは暇だ。


 考えることは、たくさんある。どうやってこの街の傭兵達の底上げをするかだとか、神話級の剣を打つには鍛冶師として何をしておかなければならないかとか。


 ただ、アルゴスの言っていた神話級の剣というのが何かがイマイチ分からない。そもそもユグクロの世界には、レベル以外で等級を表わすようなものはなく、神話級という呼称だってアイテムの説明だとか、NPCのセリフだとかで出てくる程度のものだ。


 だいたいストーリーなんかのイベントアイテムだったから、単純に性能だけの話でもない可能性がある。

 つまりは神話級の表わすものを知らなければならない。


「教会にでも行って神話を探すか?」


 神話といえば宗教。宗教といえば神話だ。他の神話級のアイテムがどんなものか分かれば、基準になるかもしれない。もしくは、何かしら定義的なものを聞けるかもしれない。


 手っ取り早いのは、新ストーリーで作るはずだったものを思い出すことなんだが、残念ながらあの時の俺はまともに頭が働いていなかった。ぼんやりとも思い出せない。


「エルダスも何か知ってるかもしれないな……」


 時間はかかるが、手紙でも出すか。どうせ、一朝一夕に分かることじゃない。


 それと並行して文献漁りと、次のオークションに出す用のほどほどの武器を……。


「いや、なんで俺は仕事を増やそうとしてるんだ?」


 エルダスに手紙を出すのはいいとしても、他は急いでやることでもないだろう。せっかく暇になって、スローライフっぽくなってきたのに。

 調べ物をするにしたって、のんびり散歩がてら茶飲みがてらでいいだろう。そんなスケジュールを詰めてすることじゃない。


 武器の方も慌ててやらなければならないほど金に困ってるわけじゃない。コツコツ、一日一本のペースでも十分なくらいだ。打ちたくなったらやればいい。


「もしかして俺は、ワーカーホリックだったのか……?」


 思い返せば見つかる心当たりの数々。そのおかげで営業成績は抜群だったが、結果的に死んでしまった。


「……よし、今日は散歩でもするか。この辺の店も知りたいしな」


 うん、それがいい。休みだ、今日は。


 そうと決まれば早速、じゃないな。まだ朝も早いし、のんびりするための散歩なんだから。

 昼前までは、昼前までは……やっぱりタスク以外でやることが思いつかん。前にもちらっと考えたが、本でも探した方がいいかもしれないな。

 ついでにセフィアの店も見てくるか。今日からオープンらしいし、あの従業員さんにもなんだかんだ挨拶できてないしな。


 通りへ出て、とりあえず商店街があると聞いた方向に向かう。セフィアの店に行くならそこの路地を抜けた方が早いんだが、散歩が目的だし、遠回りだ。


 この辺りも例に漏れず、石の土台に木で造った建物が並ぶ。白い石畳の通りには家や庭木の作る影が落ちていて、隙間を埋める陽の光が麗らかだ。

 人とも時折すれ違う程度の長閑さだから、散歩にはもってこいの道なんじゃないだろうか。


 二、三分歩くと、少し道が広がって、店らしき建物が増えた。この辺りからが商店街みたいだな。軒先で野菜を売っているのや、壁の一部を売り口にして肉を売っているのが見える。そこにある屋台は、あれはサンドイッチを売ってるのか。


「そういえば、朝食べるの忘れてたな」


 一つ買っていくか。この世界の屋台料理にも興味がある。

 ゲーム時代も一応、満腹度やら体力やらの回復アイテムとして存在してたし、味も分かる仕様になってたが、基本プレイヤーの作った効果の良いものしか使ってなかったからな。


 せっかくだし、アルゴスの好物にするか。四年前の花見イベントのときに話しかけたら聞けた情報だ。


「すみません、ラビットサンドを一つください」

「あいよって、この間の大工の兄ちゃんじゃねぇか」

「うん? ああ、解体してた時の」


 心配して声をかけてくれたおじさんだ。あの時は遠目だったから分からなかったが、なかなかに筋肉質だな。人間でこの見た目なら三十代半ばくらいだろうか。傭兵でもしてた方が似合ってそうな若干厳つい外見だ。


「怪我は、してねぇみたいだな」

「ええ、ありがとうございます」


 なんだろうか。妙にまじまじ見てくる。


「えっと、何かありました?」

「いや、ほら、あんた、呪いの地を買ったって言ってたろ? 近所でも噂になってるし、体にはホントになんもねぇのかって思ってよ。気に触ったならすまん」

「ああ、なるほど。それなら大丈夫です」


 しかし、そうか。やっぱり噂になってるか。一応手を打っといた方がいいか?

 あまり好き勝手話されて妙な噂が立つと、嫌な目立ち方をしそうだ。


「ちょっとあの手の話には心得がありまして。対策してあるので問題ないです。家もこれまでみたいにすぐに朽ちるなんてことはないですよ」

「ほー。なら安心だ」


 と言いつつ、まだ半信半疑か。まあ、あとは時間の問題だな。勝手に噂の形で広めてくれるだろうから、その間一ヶ月くらい変わりなければ自然と気にされなくなるはずだ。

 人の噂も七十五日。長くても二ヶ月ほどひそひそされて終わり。問題は、どちらかと言えばその後だな。


 あの土地を格安で手に入れられて羨ましいなんてことになったら、悪い目立ち方をしてしまう。それは防がなければならない。

 なら、メリットを提示してやるのが楽だ。


「実は俺、本業は鍛冶師でして。何かあれば対応しますよ。あ、中に入るのに抵抗があるなら通りから叫んでもらってもかまいません」


 それで他の住人にも諸々伝わるし、むしろ好都合だ。


「あの腕で? そうか、なら、何かあれば頼らせてもらおうか。っと、話しこんじまったな。ほれ、自慢のラビットサンドだ。引越祝いってことで今回はタダでいいぜ」

「すみません、ありがとうございます」

「いいってことよ!」


 よく見れば、屋台側でもラビットサンドを推しだしてたらしい。オススメだとか、彼の言ったように自慢のだとかって文言の書かれた紙がいくつか貼りだしてあった。

 妙に安いと思ったら、どうも自分で迷宮に潜って捕ってきてるみたいだな。


「そんじゃ、また来てくれよ! 俺も家族が居るからな、バンバン買ってくれると助かるぜ」

「はい、また来ます。ありがとうございます」


 ああ、なるほど。少しでも安全に生きていけるように深く潜らなくなったとか、そんな感じか。NPCから聞ける話にあった。

 傭兵としてはモブだが、家ではそんなことはない。家族を守るお父さん、か。


 いい人だったし、また来よう。

 なんて思いながらサンドイッチに口をつける。


「お、美味いな」


 うん、定期的に来よう。その価値があるぞ、これは。こういう場所で近所付き合いをしないのも悪い意味で目立つしな。


 サンドイッチを頬張りながら商店街をぶらぶらしていると、妙に賑わっている店があった。なんの店かと看板を見ると、『雑貨屋アルデア』と聞いた覚えのある名前が書いてあった。セフィアの店だ。



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