第14話 モブサブの迷宮初探索!
⑭
窓から差し込んだ朝日に目を覚まし、大きく伸びをする。前世よりずっと頑健なだけあって、目覚めも良い。
セフィアに新居を見せてから二日が経った。昨日、一昨日で普段使う部屋や急遽使う可能性の高い部屋の家具を作りおえたから、今日は一旦別のことをする予定だ。
「さっさと準備するか」
三日前、セフィアはオークションに出品してみないかと言った。
彼女が持つ枠で俺の武器を出さないかという話だ。それなら表に出るのはセフィアの名前だけらしい。
断わる理由は無かった。俺も目立たなくて済むし、セフィアも夢に近づく。
ただ、同時にそれは、下手なものは出せないという意味でもある。
卸す武器が弱すぎれば夢を妨害しかねないし、強すぎれば良くも悪くも彼女が目をつけられかねない。
ミラディス大迷宮の最終到達階層が五十階層くらいって話だから、素材としては四十階層クラス、武器は六十から七十階層向けくらいがちょうど良いだろうな。
ただ残念ながら、そのクラスの素材はあまり持っていない。精霊銀でも五十階層台はレア素材のカテゴリーだから、四十階層クラスとなるとこれより数段弱い物。現環境でそんな素材持ち歩かない。
だが、無いなら取りに行けばいい。その為に隠し通路のあるこの土地を買ったんだ。
探索用マイセットを呼び出して装備し、工房へ。そのまま黒い扉を通って隠し通路に入る。
青い光に照らし出された格好は、冒険者NPCによくあったものだ。麻っぽいシャツの上から皮の胸当てを付け、手甲と脛当て付きのブーツを装着しただけというシンプルな格好だが、ケインたちや街を歩く傭兵の装備からして、迷宮内にいても悪目立ちするようなものではないだろう。
階層的に怪しまれる可能性はあるから、一応人目は避けるつもりだが。
「さて、浅い階層に入るのは久しぶりだな」
ゲーム時代は基本、百階層以降にしか潜らなかった。生産サブで探索するのもバザーがあまりに高騰してた時くらいだったし。プレイヤーが自身で値付けする以上、需要と供給的な価格変動はどうしても発生するから。
運営もゲーム内の経済面含めて色々と気を遣ってたみたいだが、仕方ない。
この隠し通路だって、元々はサーバー負荷軽減のために追加されたものだ。大迷宮に入るのに入り口が一箇所しかなかった頃は、人が集中しすぎて時々サーバーが落ちていた。
そのおかげで、今こうして、傭兵登録無しにこっそり迷宮に潜れるわけだ。
正規の手段で入るのは最終手段にしたい。本来は迷宮に入るのに傭兵ギルドへの登録が必要だが、そうすると諸々の報告義務が発生してしまうからな。
生産職が一人、サクサク降りて行ったらどうなるか。当然、目立つ。しかも最悪の形で。絶対嫌だ。
「本当に、運が良かった」
青い光の源、迷宮へのゲートを眺めながら思う。見た目は、真っ白な門。生産職の目で見ても何の素材かよく分からない質感で、銀色の蔓草が絡みついたような装飾がされている。根だって人もいたが、どっちかは不明だ。
青い光はその門の隙間から漏れ出ているらしい。迷宮の魔力なのか何なのか。全く意味のないただのエフェクトの可能性もある。アレコレと仕込むのが好きな運営だから、ただのフレーバーってことはない気もする。
しかし、転生してからこうして近くまで来るのは初めてだな。ゲーム内で見たよりずっと神々しい。本来の入り口はもっと大きくて装飾も複雑だったはずだから、教会のあの絵でやたらと荘厳に描かれていたのも頷ける。
おっと、門ばかりぼんやりと眺めてても仕方ないな。
「よし」
門に触れると、押したわけでも引いたわけでもないのに、ひとりでにこちら側へ開く。
一歩下がって開ききるのを待てば、白い膜の奥から眩しいくらいの青い光が溢れてきた。
これは、覚えている。迷宮に入る時の演出でいつも見ていたものだ。これを見ると迷宮に来たって感じがする。
アルゴスの姿にもようやく慣れてきたが、迷宮に入るとなると妙な気分だな。
白い幕に腕を伸ばせば、水面のように波立って、通り抜けた。向こう側の感覚もある。ゲーム時代と違ってシームレスに移動するなら、目の前にいきなりモンスターということも考えないといけないかもしれないな。
それ以上に人に見られる方が最悪だが。言い訳も考えておくか?
せめて向こう側の気配が探れたら良かったんだが。
正直、恐怖はある。人に見つかって目立つことも、モンスターと実際に戦うことも、ちゃんと怖い。
ワイバーンとの戦いを思い出す。攻撃はケインたちに完全に任せていたからヘイトが向くことは無かったが、それでも、あのトカゲの目に睨まれるのは、身がすくみそうだった。
でも生産職は足が遅い。どこかでは必ず、戦わなきゃならなくなる。
昨日寝る前にしたはずの覚悟は、もうどこかに行ってしまった。
だがこの先に行かないという選択肢はない。俺の恐怖なんかのために、アルゴスやセフィアに遠回りさせるなんて、できるはずがない。
意を決し、白い幕の向こう側へ進む。途端目に入るのは、見慣れたはずの、しかしまったく知らない、世界。モンスターたちが跳梁跋扈していると知っていながらも息を呑んでしまうような、そんな世界だった。




